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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第三話
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学院の長

 門を通過したユティス達の目に飛び込んできたのは、大通りと立ち並ぶ商店。予想通りフレイラやオックスは驚き――ユティスは、学んでいた時と一切変わっていないと思った。


(建物が変わったとしても、この空気だけは百年経っても変わらないかもしれないな)


 ユティスは胸中で思った時馬車が停まり、下車。そこでオックスが肩を回しユティスに問う。


「やっと到着だな……今の所何も異常はないが、どう思う?」

「敵も大なり小なり準備があるだろうし……ひとまず、先に到着できたんじゃないかと思う。とはいえ、時間的余裕はあまりないと思うけど」


 ユティスは返答した時、アリスが興味深そうに周囲に目を凝らしているのに気付いた。


「……興味ある?」


 問い掛けに、アリスは突如はっとした表情を見せ、


「……それで、ここからどうするの?」


 感情を押し殺すような声で問い掛けた。


「とりあえず、僕が先導する。まずは先行したレイル達と合流しないと」


 ユティスは言い、大通りから外れた道へと一行を案内する。

 リーグネストを出発する前、カールから学院に入って以後どうするかは聞かされていた。それを思い出しつつ、研究棟へと進む。


 位置としては入口から見て右側。大通りを突き進めば学び舎である本棟が待っているのだが、普段教授や研究者は右側に位置する大きな研究棟に入っている。

 いくつもの建物が増設を繰り返して形作られた白い外壁を持つ五階建ての魔術師達の城――それが、研究棟。


「あの場所に入ったことはあるのか?」


 ふいにオックスが尋ねる。ユティスは即座に頷き、


「師事していた教授もあそこにいたからね」

「その人に会ったりはしないのか?」

「現在、ここを離れているからね……教授がいれば頼っても良かったんだけど――」


 ユティスが答えた時、視線の先に人影を発見した。研究棟の入口であり、白いローブ姿の男性が一人立っている。


「迎え、かな?」


 フレイラが言う。普通ならばそのはずなのだが――何か違うとユティスは直感する。


 カールは研究棟にある自身の研究室に入るよう指示していた。学院には自分をどうにかしようとする勢力もいる。しかし味方も当然おり、彼らと連携する――失態を犯したがまだ挽回できるレベルであると彼は語っていたが、その時ユティスは懸念を抱き、最悪のケースも想定した。


 それがもしかすると――思いながら接近した時、男性は事務的な声で話し始めた。


「ユティス=ファーディル様ですね?」

「はい」

「私は学院長の秘書をしております、テオダ=ムリューと申します」


 学院長――ユティスは内心の予感が的中したと思いながら、言葉を待つ。


「カール様のことですが……大変申し訳ありませんが、リーグネストの事件を把握した段階で学院長は城へ報告し、そちらへ召喚されました。よって、不在です」


(やはりか……)


 ユティスは心の中で深いため息をついた。おそらくカールが想定していたよりも早く、学院側は彼を見限ったというわけだ。


「現在、レイル様と勇者シャナエル様は学院より聞き取りの調査を行っているところです。しかしご心配なく。今回の件はカール様に不備があったことはこちらも認識しております。直に、調査も終われば学院から出ることができます」


 あくまで淡々と語る男性に対し――ユティスは、一つ疑問を投げかける。


「……レイルと会うことは?」

「残念ですが、それはできません」


 答えは、即返って来た。


「聞き取りをしているところですが、カール様から何かしら言伝を受け行動しているという可能性は大いにあり……学院内で何か行動を起こすかもしれません。それに対し我々は懸念を抱いています。よって聞き取り調査が終われば、学院内から退去して頂きます」


 語りながら、男性はユティスと目を合わせた。


「そして皆様方ですが……カール様のように学院に深く関わりがあるというわけではないので、退去して頂く必要はありません。ですが、一度学院長がお話をしたいとのことで……ご同行願いたいと思います」

「……なるほど、な」


 オックスが呟いた。テオダの言動から何か勘付いた様子――ユティスも一つ頭に浮かべたのだが、おそらく導き出した答えは同じだろう。


 彼らはカールの失態を見て半ば追放するように城へと追い払った。そしておそらくだが、研究成果などを含めカールの全てを奪い取る気なのだろう。

 カールは城で政治に関わる『魔法院』に所属しているが、あの場所にいる人間も例外なく魔導学院に籍を置き、研究室がある。本来無断で侵入すれば問題とあり、それが『魔法院』に露見すればまずいことになる――が、『魔法院』側がカールを切り捨てるとなれば、話は別。


 おそらく研究棟の中で、今まさしくカールの研究室に入り込んでいるのかもしれない――加え、彼と繋がりのあったレイルやシャナエルについては、関わりがあるため多少ながら警戒し聞き取りという名の尋問。それが済めば、念の為学院外へと――というわけだ。


 ユティス自身、これについてはさして驚かないが――いくらなんでも対応が早すぎるとは思った。

 リーグネストで騒動が起こった後、ユティス達はすぐに学院へ赴いた。それよりも早くカール達はこの学院に到達したはずだった。けれど、その速度をもってしてもこうした対処をされたということは、誰かが先んじて情報を与えた可能性が高い。


 一番の疑いは別の派閥との連絡役を担っていたベルガだが――


「あの、ベルガはどうしましたか?」


 ユティスの問い掛け。それに男性は頷き、


「彼もカール様と共に城へ」


 どういった意図なのか――とはいえ、今この場にいないということは確定らしい。

 はっきり言って、防備を整える以前の問題だった。さすがにこれでは対処も難しい。打開するには、学院長に話をしなければならないだろう。


「……学院長の所へ行く、ということでいい?」


 ユティスは念の為確認を行う。それにフレイラは頷き、次いでオックスも承諾。唯一アリスだけはそれがどういう意味なのか理解できないのか首を傾げたが、


「……連れて行ってください」


 ユティスは男性に要求。それに彼は頷いた。


「では、こちらへ」


 手引きにより、ユティスは歩き出す――内心、嫌な予感した抱けなかった。



 * * *



 フレイラ達が通されたのは、中央にある建物の最上階。大きな一室であり、扉に対し一番奥に執務をするための机と、そこに備えられた椅子に腰掛ける年配の男性。


「待っていたよ」


 朗らかな声で言うと、男性は立ち上がる――白いローブはテオダと同じ。白髪の目立つ黒髪を持った彼は、立ち上がるとすぐに机を回り込んでフレイラ達の正面に辿り着いた。


「調査の件、本当にご苦労様でした」


 そして、語る言葉は丁寧なもの。しかしフレイラは理解した――その瞳に、一切の感情がこもっていないことを。

 彼は、この学院を掌握する絶対的存在――フレイラは胸中で呟くと同時に、丁寧に礼を示す。


「お呼び頂き、誠にありがとうございます。ただ私達としては、武装した状態で大変心苦しいのですが――」

「いえいえ、事情を聞けば仕方のない話だと私も認識しておりますよ……さて」


 と、学院長は四人を一瞥。特にアリスに注目したが、すぐさま視線を逸らし、


「私のことをご認識されていない方もいらっしゃると思いますので、自己紹介をさせて頂きます。私の名はルエム=ノイレンド。このスランゼル魔導学院で、長を務めております」

「俺達を呼んだのは、何か理由があるのか?」


 オックスが怖気づくことなく問い掛ける。怒声の一つでも飛んできそうな言葉だとフレイラは思ったのだが、予想に反し彼は柔和な笑みを浮かべた。


「ええ、カール君の話によりますと、事件の首謀者はこの学院の元研究者であるグロウという人物だそうで……彼のことは、私も知っておりますよ」


 言い、一度笑みを消す。


「そして不死者の魔法……狙いは学院。なるほど、ここまでくればあなた方が懸念を抱くのもご理解できます」

「ならば――」

「しかし」


 フレイラの言葉を、ルエムは即座に止める。


「防備の整った学院で、襲撃などという所作は不可能です。よって、あなた方が御足労して頂いたことも無意味でしょう……お越しいただき申し訳ありませんが」


 なぜそう言い切れるのか――フレイラが問おうとした時、彼は手でフレイラ達の背後を指し示す。


「その点については、ゆるりとお話しましょう。まずはお座りください」


 そう指示されふと振り向くと、テオダが全員分の椅子を用意していた。

 次いでルエムも自ら椅子を引っ張りドカッと座る。そして促されるままに全員が着席した。


「まず、この防備について説明させて頂きましょう」


 ルエムは話し出す。それにフレイラは耳を傾けることにする。


「復讐などと語る以上、グロウはこの学院内に潜入し、不死者を用いて目的を果たすつもりでしょう……しかし、学院の中に入る場合は厳しいチェックが待っております。リーグネストの一件以降私達も警戒をしており、彼が中に入り込む隙を作らないようにしております」

「しかし、相手は――」

「強力な不死者を用意している、ということですね? 確かにその戦力を利用し、正面突破……それにより被害が出る可能性は、ゼロではない」


 ユティスの言葉を遮りルエムは述べる。


「グロウの持つ戦力も中々のものなのは認めましょう。しかしもし戦闘が起きた場合……その辺りは、学院にいる魔術師を信用して頂きたい。確かに現状、北部の街で際限なく出現する不死者に対し戦力を割く必要性が出てきているのは事実です。しかしそれで人数が減ったとはいえ、学院の中にはまだまだ精鋭がいます」


 その程度、グロウが見越していないと思えないが――フレイラは胸中思いつつも、ルエムの言葉を聞き続ける。


「彼らの魔法により、どれほど強力な不死者であっても確実に勝てます」


 そして断言。根拠の一切ないものであったが――フレイラは、ここに至り気付く。

 彼自身、学院長である以上学院の力が強大なものだと認識している。まして今回の相手は学院を追われた存在。そんな敵に足元をすくわれるなど――と、考えているのは間違いない。


 加え、もう一点。彼自身、フレイラ達に学院を好き勝手に動き回られたくないのだろう。あくまで指揮権はこちらにあり、自身で対応する――そうルエムは言いたいに違いない。


 フレイラは城に報告して対処――と一瞬考えたが、襲撃がいつ何時起きるかわからない状況である以上間に合わない可能性が高い。加えこの点については、おそらくラシェンに相談しても無意味だと思った。ラシェン自身学院にそれほどコネを持っているわけではないし、もし王を頼ろうにも――今度は、学院とは関係の無い貴族達が邪魔立てするかもしれない。


「ですが、一つ懸念があります」


 次いで言葉を発したのは、ユティス。


「今回の件、どうにも相手にとって上手く進み過ぎているような気もします……内通者が存在する可能性が」

「ああ、その点も心配いりません」


 ユティスの提言にルエムはまたも即応じた。


「内通者は――既に捕らえていますので」

「……え!?」


 これにはユティスも驚愕の声を漏らす。フレイラも声には出さなかった目を開き、オックスもまた同様の顔を示した。

 それに、ルエムは笑う――その表情が見たかったのだと言わんばかりだった。


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