表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第二話
53/411

新たな――

 フレイラが部屋の入口に視線を送ると、やや憔悴したカールの姿を捉えることができた。


「楽観的、ですか」


 ユティスが言う。カールは即座に「そうだ」と同意し、話し出す。


「私には手に取るようにわかる……学院側は襲撃されるとわかっても対応が後手に回る可能性が高い」

「甘く見ている、と?」


 フレイラが問うと、カールは首肯した。


「そういうことだ……不死者の群れという存在と、今回の都市襲撃。これ自体かなりの大事なわけだが……つまるところ、全ては私がしでかした事、というわけだ」

「足元をすくわれなければ、問題ないと判断するわけですか」

「魔導学院の者達はプライドも高い。学院を追放された人物が何程のものか、と考えるだろう」


 その油断は、おそらく実際に襲撃されるまでおさまることはないだろう――フレイラは、なんとなく思う。


「一番良いのはこの場にいる面々が学院へ向かい、さらに騎士団の助力を請う事。学院は反発するだろうが、君達による生の情報があれば、動き出す可能性もある」

「街の防備は、よいのでしょうか?」

「相当警戒している以上、もうグロウが街へ入るのは難しいだろう。それに既に街を出ることは伝えた」


 カールは言い――さらに、見解を示す。


「復讐と言っていたそうだが……それで目的が全てなのかも私には疑わしい。魔導学院には、不死者の使役を強固にするための技術なども眠っている……そうしたものを手に入れたいのかもしれない」

「目的……」


 確かに、敵と遭遇するまでは目的が不明確だった。そして相手が復讐だと公言し、フレイラ達はそれを信じたわけだが――本当かと言われると、確かに疑わしい。


「本来ならば、不明な点であるどのような魔法を使っているのかも解明したいところだが……」

「ならまず、そこから調べても良いかもしれません」


 ユティスがカールに視線を送りながら告げた。


「現状では、どの程度お調べになっているのですか?」

「リーグネストに滞在中魔法に関する報告が届いたが、不明だという結論だった……土地の魔力を変質するほどの魔法だ。おそらく従来のものとは異なるものだろう。何かの魔法に対する応用だとすれば、特定も難しい」

「問題は山積みということですね」

「ああ……ただ奴らは制約があると言っていたそうだな。それについては把握したいところだな」


 カールが述べた――直後、


「――カール殿!」


 突如、男性の声。フレイラは視線を送り、入口に騎士を捉えた。同時、


「また、新たな襲撃が……!」

「何?」


 室内の空気がにわかに張りつめる。


「それが……報告によると以前不死者が出現していた場所で、新たに出現しているとのこと。今の所駆除しているようですが……」

「街の襲撃と合わせて、攻撃を仕掛けたということか?」


 シャナエルが問うと、騎士は首を左右に振った。


「時間からすると、出現したのは不死者を使役する人間がこの街から去って以降です」

「攻撃してくるのか?」

「いえ、緩慢な不死者ばかりのようですが……戦った魔術師によると、魔力をほとんど伴っていないそうです」


 言葉に、この場にいた誰もが沈黙する。果たしてこれは、何を意味するのか――


「……そうか」


 やがてレイルが声を出す。続いてユティスが理解したのか苦い表情を見せ、


「大地にある魔力の変質……」

「おそらく、そうだと思う」


 兄弟の意見が一致したらしい。フレイラが尋ねようとした時、ユティスが声を上げた。


「これまでの魔法は、おそらく土地の魔力を変質させる目的があった……そして、準備が整った彼らは次の行動に移った。変質した魔力を介し、遠方でも不死者を生み出すことができるようになったんじゃないかと思う」

「だが、有象無象の不死者だろ? 大した影響はないんじゃないか?」


 オックスの問いに、ユティスは首を左右に振った。


「今までの不死者の動きから、放っておいてもとは思うけど……攻撃してくる可能性はゼロじゃない……だから適宜駆除しつつ、変質した魔力を変える処理を施して魔法自体を使えなくするしか――」


 そこまで言うと、ユティスはふいに言葉を止めた。そしてカールに問い掛ける。


「……土地の魔力を戻す作業は、行われていませんよね?」

「私達は、本来君達を邪魔しに来た。騒動が起これば君達に上手く事をなすりつけようという目論見もあったため、魔術師達は調査にも及んでいない」


 フレイラとしては不満の一つも言いたくなる状況だったのだが、ユティスは頷き、


「わかりました……となると、魔術師を今から派遣して土地の魔力を……これが、敵の狙いかもしれません」

「つまり学院の魔術師を北部に釘づけにして、手薄になったところを……ってことか」


 オックスが言うと、ユティスは深く頷く。


「土地の魔力を変えるには、多少なりとも調査が必要で……現状行っていないのなら、不死者と戦いながら対応する必要が出てくる。となれば実戦経験のある魔術師が動員されるのは間違いなく……」


 そこまで言うと、ユティスはレイルに首を向ける。


「……この街は?」

「魔力を変える作業については、派兵された魔術師に依頼してあるよ」

「そっか……街中に発生しているのはここくらいだろうから、被害が出る可能性が少ないのが幸いかな」

「……しかし、敵はずいぶんと手の込んだことをするな」


 シャナエルが言う。それに対し一同視線を注ぐ。


「学院を襲撃するために下準備を行い……なおかつ、学院の外へ魔術師を出させるという状況にまで発展している。こちら側は事情を把握していなかったとはいえ、完全に手玉に取られている状況なのは間違いなく――」


 ふいに言葉を止めた。フレイラも何が言いたいのかを機敏に察する。


「敵は……」

「だろうな」


 カールが同意。表情には憮然としたもの。


「敵に加担する、内通者もまたいるというわけだ」


 言葉の後、室内の空気が沈み込む。

 その中でフレイラは、静かに息を吐く。この戦い、まだ深淵が見えないと、心の底から思った。



 * * *



 翌朝、準備を済ませたユティスは詰所の入口に立ち他の仲間を待つ。体調の方は大分マシとなったため、旅ができるくらいには回復している。馬車も既に準備は整っており、後は他の面々を待つだけとなっている。


 不死者の出現については、派兵された魔術師達が総出で対応し、昨日中に対処はできていた。とはいえそれは魔力を再変質させたのではなく、変質した魔力を一時的に他の魔法で覆いかぶせているような応急処置。今後時間を掛けて魔力を改変していく作業が必要となる。


 そして――不死者は各所で出現している。報告に挙がっていない場所からも出現しているはずで、その解明などもこれからしていかなければならない。


 よって、ユティス達は選択を迫られた。このまま北部に残り現状の問題を解決するべく奔走するか、敵の狙いである学院へ向かうか――本来ならラシェン辺りから指示を仰ぐべきなのかもしれなかったが、それを待つ余裕はなかった。


 その中で決断した主な理由は――街の騎士からの助言だった。現状、問題は多々発生しているがどうにか犠牲者も出ずに対処できている。さらに派兵されて今後も対応できるはず。けれど街を襲った者達は、学院を襲撃し目的を果たせば北部にも再度混乱をもたらすのは必定。だから学院へという言葉から、ユティス達は学院に行くことを決断した。


 そしてカール他、レイルやシャナエル。加えベルガは馬車に乗り一足先に学院へと向かい――


「ベルガについては、少し気になるところだけど……」


 フレイラが詰所から出てきて、ユティスへと告げる。


「彼も、相当面倒な立ち位置を選んだということ……私が、原因だよね」


 ――原因は、あの決闘だと彼女は考えている。それに対し、ユティスはフォローをいれた。


「でも、あれをきっかけにして陛下に近づくことができたという面もある……とにかく、過ぎたことを後悔しても仕方ないよ」

「あいつが敵方の内通者である可能性っていうのは、ないのか?」


 そこでオックスの声。彼もまた詰所から姿を現した。

 彼の言及に対し、ユティスとフレイラは互いに目を合わせ、


「……さすがに、接点がない」


 否定したのは、ユティスだった。


「国家転覆を狙うなんてベルガが考え付くのかも疑問だし……」

「とはいえ、可能性はゼロじゃないだろ?」

「それは、まあ」

「なら、警戒しておいて損はないと思うぞ?」

「……そうね」


 フレイラは同調し――次いで、視線を変える。

 ユティスがそちらへ目を向けると、ティアナの姿。フレイラはこう思っているに違いない――なぜ、ここまで協力するのか。


「少し遅れました……行きましょう」


 彼女もまた、同行するという形となった。本来北部の案内役という意味合いしか持っていないはず彼女が、学院まで同行する理由は何一つないはずなのだが――


「……ええ」


 フレイラは頷く。もしかすると何かしらのやり取りはあったのかもしれないが、ついぞフレイラは話さなかった。

 対するオックスは何も言わず二人の様子を眺めるだけ。下手に首を突っ込むと厄介だと考えているのか、それとも――


「さて、問題は山積みだけれど、私達は進むしかない」


 フレイラが告げる。それにこの場にいた三人は同時に頷き、


「それじゃあ――行こう」


 ユティスが告げ――四人は、詰所入口の馬車へと歩き出した。



 * * *



 ――拠点である手入れもされていない屋敷まで戻り、室内に入るとグロウがまず呟いた。


「ここまでは予定通りと言えるな」


 その言葉に、黒髪の男性もまた頷く。


「そうですね……しかし、教授が聖女を彼らに捕らえさせた時は驚きましたよ」

「心配ないと言ったはずだ。相手はあのカールであり、さらに手荒な真似をするつもりはないと内通者から把握できていた……そして――」


 語ったグロウは怪しげな笑みを浮かべ――手に握る物を彼に示す。それは、金色の鍵だった。


「あの騒動によって、これを手に入れることができた……カールがこれに気付くことは難しいだろう。私としては、最高の準備ができたと思っている」

「……ですね」


 彼は右手に握る宝剣を眺めながら同意する――正直、ここまで順調すぎて怖いくらいだった。


 本来、不死者生成は密かにリーグネストへ潜入し、実行する手はずだった。ただ宝剣を使用されるという可能性からリスクもあり――しかし、相手がカールという事実によりグロウが作戦を変えた。結果、宝剣についても使われるどころかあっさりと奪うことまで成功した。

 さらに名乗りを上げることによって――グロウは今後学院がどう動くかも予想し、コントロールできると語っている。


 懸念がないわけではない。彼は制約を思い出す――不死者生成魔法に関する制約は二つある。一つは不死者に対する命令。特に攻撃命令については、基本オンとオフの二択でしか操ることができない。唯一の例外は別の魔法によって生み出した鎧騎士。だがそれも、他の不死者に与える命令に引きずられ気絶させることもできていない。


 より精密な命令を与えるにはどうやら魔法技術を高める必要があるのだが、生成魔法を使用するのが聖女であるため、結局技術向上ができなかった。この辺りは彼自身も課題の余地があると考える。


 二つ目は、人を殺めることによって噴出する魔力で不死者の制御、命令が効かなくなる可能性があること――最初の襲撃の虐殺は、この要因により半ば暴走した面もある。ただわかったこともある。イリアが自身の家は最後まで襲わなかったことを踏まえれば、操作していても自我が残っている事実は判明した。これについては今後の戦いで上手く利用できる可能性があるため、結果オーライだと彼は思う。


 リーグネストではこうした制約から、最後に生み出した不死者以外攻撃しなかった。さらに言えばこれから北部を離れる以上、遠隔で不死者を制御するにしても限界がくるため、攻撃も必然的にできなくなる。ここに魔術師を多数動員されてしまえば、土地の魔力改変もそれほど時間をかけずに終わってしまうだろう――


 とはいえ、事を成すだけの時間を稼ぐことはできる――それができれば、ロゼルスト自体を支配することも十分可能。


「さて、いよいよここからが本番だ。君の方についても順調だろう? そろそろ仕上げといこうじゃないか」

「……はい」


 頷いた彼にグロウは笑みを浮かべ、


「しかし……本当に、素晴らしいな」

「ここまでの計画が、ですか?」

「それもあるが……私がこうまで活動できるようになったのは、ひとえに君のおかげだ」

「私は、恩を報いるために教授に助力したまでですよ……天涯孤独の身を拾ってくれた恩返しです」


 よもや、この計画が誘導されているなどと、グロウは一片たりとも思っていないだろう。

 計画は順調――敵も、彼が復讐するために活動していると、信じきっているに違いない。


「……ヘルベルト君」


 そしてグロウは――改めて、彼の名を呼ぶ。


「私も君の力に報いるため、君に協力しよう」

「ありがとうございます」


 頭を下げる。それにグロウは満足したか、笑いながらこの場を去った。

 残された彼――ヘルベルトは部屋に入ったグロウのことを考え、呟く。


「ここまでは、ある程度予定通り……なおかつ結果オーライとなったな。さて……」


 ここからが重要なのだとヘルベルトは自分自身に言い聞かせる。それと共に、彼は頭上を見上げる。

 視線を空中に漂わせる――その瞳。


「……最大の脅威は、奴だな」


 ユティス=ファーディル――その姿はあの街の襲撃時、確認していた。なおかつその力についても内通者の情報により把握している。


「スランゼルは、魔法の聖域……奴に利することは多いだろう」


 だからこそ、最大限の準備が必要だと断じ――同時に思う。こちらには大きなアドバンテージがある。

 彼らは、それこそグロウや自身の目的をはき違えている。よって、出し抜くことも難しくない。


 大軍を破った異能――必ず、奴を。


 そうしてヘルベルトは決心する――『彩眼』を宿した瞳は、虚空を見つめどこまでも輝いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ