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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第二話
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襲来する魔

 聖女が二人――シャナエルが思う間に雄叫びが生まれる。途端にグロウの顔が喜悦に染まり、シャナエルは動こうとしたが、彼を取り巻く少女と鎧騎士の存在を見て攻めることができなかった。


 そうしたにらみ合いが多少続いた後――突如、グロウ達の傍らに何かが飛来した。シャナエルが確認すると、見た目狼のような姿をした魔物――ただし大きさは虎を悠々と超える巨体と言って差し支えないもの。


「そいつも、お前が生み出した存在なのか?」


 オックスがグロウへ問う。けれど彼は一切答えることなく、聖女と共にこの場を立ち去ろうとする。


「待て!」


 それに反応したのはもう一人の少女。光を手先に生み出し威嚇するが、それを鎧騎士が前に立って阻んだ。


「その力、今はあの魔物に注いでやれ」


 そしてグロウは彼女へ告げる。


「あれは他の不死者とは違う……早く始末せんと、街を破壊し住民を虐殺するぞ?」


 語るグロウは笑みを浮かべ、少女に語る。


「――妹をどうにかするつもりだろうが、順序というものがある」

「っ……!」


 少女が手をかざす。だが鎧騎士が前に出ると、彼女も警戒し動きが止まる。

 その間に、グロウは続けた。


「決着ならば、いずれ舞台を用意しようじゃないか。君とは色々と話したいからな……しかし、今はその時ではない。出直してくれ」


 魔物が、吠える。腹の内を響かせるような強烈な声。


 グロウ達はその声を気にすることなく路地へと去っていく。シャナエルは追わなかった。いや、追うことができなかった。

 どの道、追撃しても鎧騎士に阻まれるだけだろう――現状まだ不死者は残っている。加え、さらなる魔物を生み出した。そちらに対処しなければ、未曽有の被害が出る危険性がある。


「あの魔物……かなりまずいぞ」


 オックスが告げる。シャナエルは視線を送り、


「……詰所の中で感じていた結界と同じような魔力を感じることができるな」

「ということは、大地の魔力を利用して生み出した不死者ってわけか……これが、奴らの狙いか?」

「おそらく前準備として、こういう魔法が使えるのかを確認したかったのだろう……スランゼル魔導学院襲撃前に」


 語ると同時に魔物が再度吠え――シャナエル達へ向かって突撃を開始する。


「ちっ!」


 オックスは右へ逃れる。シャナエルは続いて左に逃れようとして足を動かし始める。

 そこで、シャナエルは見た――先ほどの少女が、魔法を魔物へ向け放とうとしている姿。


 ならば――シャナエルはすぐさま剣に魔力を込め、風の刃を放つべく動く。直後、少女が光の剣を幾本も生み出し、魔物へ当てた。

 魔物はそれを体に受け身じろぎしたが――ほとんど効いていない。これは少女も予想外だったのか、シャナエルの目から見ても動揺しているのがわかり――


「おらぁっ!」


 オックスの声。それと共にシャナエルの横から炎が流れる。

 シャナエルも続けざまに風の刃を繰り出す。風と炎――二つの魔法が魔物に直撃し、巨体が吹き飛び、少女の横を通り過ぎた。


 同時に魔物の咆哮。先ほどと音量は変わらない。少女の魔法と同様、ほとんど通用していないことがはっきりとわかる。


「こっちへ来い!」


 シャナエルが呼び掛ける。それに少女は一度魔物と交互に見て――走り出す。


「事情を訊くのは後だな」


 横からオックスが進み出て呟く。シャナエルが頷き返した時、少女がやってくる。


「君は私達の指示に従え」


 手早くシャナエルは指示。けれどそれを不服に思ったのか少女は少し頬を膨らませ、


「何よ、私に指図――」

「この状況下で犠牲者を出さないためには、しっかりとした連携が必要だ!」


 大声だった。途端に少女の体がビクリと震え、オックスは苦笑を漏らす。


「お前、初対面の人間にそれはないだろ」

「お前もきっちりと働け……こうした事態を招いた失態については、後でいくらでも聞く」

「わかっているさ……っと」


 オックスは剣を構えながら視線を横へ逸らす。


「戻って来たな」


 声と同時に、シャナエルは視界にフレイラとレイルを捉えた。両者はシャナエルたちへ駆け寄り、先に口を開いたのはフレイラ。


「声を聞きつけて、ここに……それと、彼女は――」

「どうやら聖女は双子だったらしく、彼女の妹が敵に操られているらしい」


 手早く説明。フレイラとレイルは同時に驚いた様子だったが――魔物の声に反応し、すぐさま向き直る。


「話は後ってことよね?」

「そうだ」


 シャナエルは剣を構えつつ魔物を見据える。先ほどの攻撃はさほど通用していないはずだが、それでも魔物は警戒しているのかにらみあう形となる。


「……指示がいやなら、協力という形で頼む」


 シャナエルが少女へ向け呟く。それに相手も僅かに反応し、


「――アリス=リドール」


 名を口にする。対するシャナエルは大きく頷き、


「急場の面々だが、おそらくここに派遣された騎士では荷が重いだろう――私達で倒すぞ!」

「お前が仕切るなよ……ま、いいか。とにかく始めよう」


 オックスが続いて語り――全員が、魔物を見据えた。



 * * *



「あの魔物を、確実に倒せるという自信のある者はこの場にいるか?」


 フレイラが剣を構えた時、シャナエルから質問が飛んでくる。


「あいつは大地の魔力を受けて生み出された存在だ。第二領域を超えた存在なのは間違いない。単純な魔法では通用しない可能性が高いが……」

「一撃とはいかないかもしれませんが、相手に通用する魔法は構築できると思います」


 まず声を発したのはレイル。


「ですが、時間が必要です。あれほどの質量を倒すとなると……」

「そっちはどうだ?」


 オックスがアリスへ尋ねる。それに彼女は小さく息を漏らし、


「できないことはないけど……正直、倒せるかどうかは」

「どっちで行く?」

「ここはレイル殿の魔法が無難だろうな」


 シャナエルの言葉に、アリスを除く一同が頷く。


「わかりました……しかし、詠唱し発動するまで時間を稼いでもらいたいのですが――」

「どうにかするさ……フレイラさん、悪いが彼の護衛を引き受けてくれないか?」

「わかった」


 オックスの言葉にフレイラは了承し、


「魔物の攻撃だけど……ユティスの結界で、攻撃をかわすのはどう?」

「腕輪のやつか……強度がどの程度か確認しておけばよかったな」

「兄さんの、ですか」


 レイルが言う――同時に魔物が一歩足を前に踏み出した。


「おっと、時間がないな……とはいえあの力だ。時間稼ぎするにしても全力でやらないといけないな」


 オックスが告げた時、騎士達が集まってくる。しかしその物々しさから一定の距離から踏み込むことはしない。


「ま、どうにかするしかないか……それじゃあ、やるとするか」


 オックスは述べると、先んじて走り出す。特攻――無謀とも言える所作だが、それに魔物は見事に反応した。


 次いでシャナエルが動き――加え、後方からレイルによる魔力の胎動。それに魔物は反応したか唸り声をあげ――その時、オックスとシャナエルの剣が薙がれた。

 炎と風が荒れ狂う――見事直撃した双方の魔法だったが、魔物にとってはさしたるダメージとはなっていないのか、咆哮を上げ突撃を開始する。


「――守れ!」


 刹那、オックスは腕をかざし声を上げた。ユティスの結界――フレイラが認識すると同時に結界と魔物が激突した。

 けれど次の瞬間、結界が破壊される。魔物の質量に結界が耐えきれなかった形だが――動きを鈍らせたのは事実であり、オックスは余裕で回避する。


 そして魔物はオックスの横を通過しようとし――彼は、すれ違いざまにその胴体を横から縦に薙いだ。

 刃が入り、魔物は呻く。決定打にはならないようだったが、それでも突撃が鈍った。


「アリス!」


 刹那、シャナエルが叫んだ。このタイミングで魔法を打ち込めという指示――アリスは待っていたのか即応し、光の矢を魔物へと降り注いだ。


 数は、一目でわからない。もしかすると百を超えるかもしれないその魔法。一つ一つの威力は低いが、魔物を押し留めることには成功した。

 そして後方から、さらなる魔力。それを感じ取ったフレイラは、魔法が完成したのだと確信できた。


「破れ――聖の巨人!」


 同時、レイルの言葉と共に魔法が発動する――腕の先から放たれた光は、人間の胴体程もある大きなものであり、それがアリスの魔法に続いて魔物に直撃した。


 轟音と閃光。さらに魔物は吹き飛び、フレイラは目を細めつつ視線を逸らさないよう努めながら、事の推移を見守る。確実に魔物へ攻撃は入った。これで勝負が決まってくれれば――


 フレイラが胸中で思った直後、魔物の姿が見える。レイルの魔法によって弾き飛ばされ少なからず後退しているが、まだ健在。とはいえ体のあちこちに傷が生じており、ダメージがゼロというわけにはいかなかったようだ。

 加え、魔物が一歩前足を出した時、動きが僅かながら鈍くなっていることにも気付く。このまま畳み掛けられればフレイラが思った瞬間、オックスが動く。


「シャナエル! 決めるぞ!」


 声と共に再度炎――けれどそれは先ほどのような荒れ狂うものではなく、凝縮し一本の槍のように変ずる。

 シャナエルもそれに応じるように動く。風が一つとなり、刀身へと集中する。


 その二つが、同時に魔物へと放たれ、それもまた直撃。魔物の咆哮が上がるのだが――まだ、倒れない。


「耐久面を重点的に強化したようですね……!」


 レイルが言う。再度魔法を使おうという姿勢を見せたのだが、それよりも先に魔物が動いた。


 突進を繰り出す。オックスとシャナエルは受けることなく左右に分かれかわし、同時に魔物の横から剣戟を叩き込んだ。

 けれどそれでも倒せず、さらにアリスの魔法が注がれる。それによって体を僅かに鈍らせたが――魔物はとうとう、傷を負いながらもフレイラ達の近くへ到達する。


 フレイラは即座にレイルを庇うように立ちはだかる。そして繰り出された突進に対し、


「――守れ!」


 結界を構築。それと共に魔物が衝突する。

 僅かな時間、せめぎ合う。おそらくオックスの結界を破った時と比べ勢いが落ちているのだろう。だが結界にはヒビが入り始める。


 フレイラとしては予測の範囲内。時間を稼ぐことはできた。


 そこで背後に一瞬だけ振り向く。レイルは回避行動に移っていた。

 これなら大丈夫――フレイラは思いながら身を捻り魔物を避ける。そして、


 オオオオオオ――雄叫びがフレイラの耳に入り顔をしかめる。そして魔物はそのままフレイラ達から離れるように大通りを驀進(ばくしん)し始めた。


「逃げる気か……!?」


 レイルは呟き、なおかつ魔物の進行方向に兵士がいるのを発見し声を上げる。


「危険です! 避けてください――!」


 声の後兵士はどうにか横に逃れ、オックスやシャナエルは追うべく動く。けれど、


「このままだと見失うぞ!」


 オックスが言う。巨体にも関わらず俊敏で、あっという間に魔物の姿が小さくなろうとしている。


「僕が魔法で――」


 レイルが宣言した直後、今度はアリスが飛び出た。フレイラは目を丸くしながら視線で追う。明らかに常人とは比べ物にならない速度で、魔物を追っている。


「『潜在式』ならああした魔力強化もお手の物ってわけか……」


 オックスが呟く間に、魔物とアリスの姿も消えた。フレイラはレイルを見やる。彼はまだ詠唱の最中だった。

 そこへ、騎士達がフレイラ達へと近づいてくる。対応したのはシャナエル。フレイラはその光景に視線を送った時――


「できました」


 レイルは呟き、フレイラやオックスを一瞥。


「風に干渉して高速移動をする魔法です……お三方くらいならどうにか運ぶことができますが、どうしますか?」

「俺は行くぞ」

「私も行く」


 オックスとフレイラが相次いで応じる。そしてシャナエルもまたレイルへ告げる。


「騎士達には、残っている不死者の掃討をお願いした……私も同行する」

「では――急ぎましょう」


 レイルは呟き、両腕を広げる。


「包み飛翔せよ――銀の精霊!」


 刹那、フレイラの体に魔力がまとわりつく。同時、風を伴い足を動かしてもいないのに移動を開始する。


 ――個人ならともかく、他人三人を巻き込んでこうした移動ができるということ自体、レイルの魔法がどれだけ洗練されたものなのか、フレイラにも理解できた。同時にこれほどの技量があれば、カールのような人間が接近し色々と画策するのも無理はないと思う。


 その時、魔物の遠吠えが聞こえた。それがどこからなのか判別はつかなかったが、レイルは魔法を操作し大通りから離れた。


「場所、わかったの?」


 フレイラが問う。それにレイルは小さく頷き、


「嫌な予感がします……もしかすると」


 レイルは苦しい表情と共に、視線を城壁へ移す。


「……あれは」


 声。フレイラも合わせて視線を送る。そこには――


「最悪じゃねえか」


 オックスの言。そう、それは間違いなく最悪な事態。


 ――魔物は城壁まで到達し、さらに垂直であるはずの壁を、手足だけで登り詰めようとしていた。


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