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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第二話
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街の様相

 フレイラは城門付近にいる不死者の群れを見据え――小さく息を吐き、疑問を述べる。


「一つ疑問があるのだけど……首謀者が、ここにいると思う?」

「どうだろうな」


 オックスが肩をすくめながら答える。


「相手の目的がわからない以上、断定はできないよな」


 そこまで言うと、オックスは憮然とした表情を浮かべた。


「しかし……リーグネストは軍事的な意味合いを持って生まれた街だろ? だとしたら魔法の対策くらいは保有してそうなものだが……それは発動しなかったのか?」

「相手がそれをすり抜けた、という可能性もある」


 ユティスが提言。するとオックスは唸り始める。


「となると、相当特殊な魔法ってことか?」

「相手がどんな魔法を使っているのかで解釈は変わって来るけど……とりあえず」


 ユティスは少し間を置いてからオックスへ続ける。


「敵は事実、ここで魔法を使っている。で、僕らは状況を確かめないといけない」

「そうだよな……すまん、話が逸れた。で、内部に潜入したとして、どう動く?」

「まず行くべき場所がある」


 フレイラが告げる。それにはユティスも頷いた。


「騎士の詰所、だね」

「そう。現状街中で不死者が出現している以上戦ってはいると思うけど……詰所に待機している騎士くらいはいるはず。そうした人達にこうなった経緯を知っているか、確かめる必要がある」

「ま、そこからだよな……で、誰が行くんだ?」


 オックスはチラリとユティスに目を向ける。


「ユティスさんは体調悪いだろ?」

「この状況ではさすがに無理があると思う。僕は悪いけどリタイア……街の外で様子を見ることにするよ」


 言いながら、ユティスは腕をかざす。


「この数日で溜めた分の魔力があるから、多少の魔具は創れるけど、どうする?」

「なら、緊急回避用の結界を張れる腕輪でも創ってくれ」


 オックスが要求。それにユティスは頷き、


「フレイラも中に入る?」

「そのつもり……ティアナさんは?」

「私は、ユティス様の護衛をします。さすがに馬車に御者とユティス様だけでは」

「そう、だね」


 フレイラは一瞬目を細めた。何か考える素振りだったが――ティアナの真っ直ぐな目に根負けしたのか視線を逸らし、


「わかった。ユティスのことをお願い」

「はい」


 力強い返事。方針は決まった。


 後はユティスが魔具を作成。二人の腕のサイズに合った青い腕輪を創り、


「頭でどんな結界かを想像しつつ腕輪に魔力を込めて『守れ』と呟けば、瞬時に結界が形成される。使用者の魔力に応じて強度を高められるようにはしているけど……結界を構築するのに僕が注いだ魔力を使うから、ある程度の回数で腕輪が壊れると思う」

「十分だよ。ま、いざという時にこういうのが役に立ったりするもんだ」


 オックスは呟きながら腕輪を左腕にはめる。フレイラも同様に身に着けた後、二人は同時に視線を門へ向けた。


「それじゃあ、フレイラさん……行くとするか」

「ええ」


 二人がゆっくりと歩み始める。


「気を付けて」


 ユティスが背を向ける二人に呼び掛ける。すると二人はまったく同時に剣を掲げ――走り始めた。


「俺が先陣を切る!」


 オックスは宣言と同時に、刀身に炎を生じさせた。刹那、門付近にいた不死者が反応を示す。


 彼が剣を振り抜くと炎が放出され、門付近にいた不死者達を飲み込んだ。一瞬で炎は消え再度門近くの状況を確かめることができたが、既に不死者の姿は影も形も――

 いや、次の瞬間門の横手から別の不死者が現れる。それにオックスは再度炎を投げ、


「フレイラさん、飛び込め!」


 オックスは炎を放ちながら前進し、その炎へと突き進んだ。次いでフレイラも迷わず駆け――二人は炎と共に城門付近と突破した。


「……気を付けて」


 ユティスが呟く。二人なら無理はしないと思ったが、不安が生じるのも仕方がなかった。


「大丈夫ですよ」


 そこへティアナの声。視線を転じると、微笑む彼女の姿。


「三国の勇者様と、武の女神様ですから」

「……そうだね」


 ユティスは頷き、先ほどの不安を振り払うべく首を振る。嫌な想像は、それだけで不吉を呼ぶ。そう思うことにして、馬車へ戻るべく歩き始めた。



 * * *



 炎を突破したフレイラは、街の詳細を見て小さく呻く。

 大通り――そこに、不死者の群れが。とはいえ全てが緩慢な動きしかしていない。


「俺に続け!」


 さらにオックスが指示。彼はさらに炎を刀身にまとわせ、放出する。


 それによって大通りにいる不死者の一切が消えていく。すぐさま路地から新たな存在が出現するのだが、フレイラとしては魔法により際限なく出現しているという気配は感じられず、


(相当な数を、一度に出現させたということ?)


 しかも、これだけ魔力を溜めた不死者を――騎士風の不死者はフレイラ達を見つけると反応を示すが、剣を向けなければ襲い掛かっては来ない、専守防衛型だった。それもまた、遠距離からオックスが炎によって一蹴する。


 ここに至り、フレイラはオックスが放つ炎の特性をおぼろげながら理解する。先ほど炎に飛び込むようにして門を抜けたが、髪などは焦げず、熱さすら感じなかった。剣から放出する炎は、対象のみに攻撃できるよう調整が可能なのかもしれない。実際、建物などに燃え移ってもおかしくないのだが、その兆候すら見られない。


 炎の質を変えることができるというのは、おそらく彼の専売特許なのだろうと察する――考える間に十字路に到達した。見回すと、そこかしこから不死者が出現している。


「詰所はどっちだった?」

「こっち」


 フレイラが指差す。オックスは「悪い」と言いつつ、


「ここまでは派手に来たが、こっからは節制していくぞ。不死者は数を増やしている気配はなさそうだから倒し続ければ減っていくはずだが……数が数だ。できれば騎士合流までに余裕を持っておきたい」

「そうね……さっきの攻撃、どのくらい撃てるの?」

「十や二十で力尽きないことだけは約束するさ」


 オックスは言うと近くにいる鎧を着る不死者に目を向ける。


「あっちの奴も能動的に仕掛けてこないようだが……剣を持っている以上、詰所の騎士も捨て置くわけにはいかないだろう。剣を合わせたわけじゃないが、騎士を食い止めるくらいの役割は果たしているかもしれん」

「……不死者の行動を考えると、敵は混乱に乗じて何かをする気なのかも」

「だろうな。とはいえ数の多さから考えて、騎士達は敵の魂胆を理解しても対応できないだろう」


 よって、現状敵の思い通りに事が進んでいる――そうフレイラは頭の中で結論付けるが、疑問もある。


「敵はなぜ攻撃をしないのだろう……さらに混乱を呼び込むためなら、住民を殺してもおかしくないはず」

「こればっかりはわからないが……殺すことによって何かデメリットが生まれると考えた方がいいな」

「デメリット、か」


 フレイラは剣を握り直し、周囲を見回す。十字路のどの道にも不死者は存在し、この様子だと路地にも多数いることだろう。街の住民がいないのもフレイラにとっては気掛かりだったのだが――


 考える間に、犬の遠吠えが聞こえてきた。けれど悲鳴などは一切聞かれず、さらに大通りに一切人影が見られない。

 その状況下で、不死者がどんどん通りにやってくる。フレイラはそこで、一つ推測を立てた。


「……大通りに人がいないのは、不死者がここに集まって来るから?」

「かも、しれないな……どうする? 周辺を見回ってみるか?」


 問い掛けるオックスだったが、フレイラは首を左右に振る。


「先に状況把握した方がいい……詰所に急ごう」

「了解」


 オックスは応じ、走り出す。フレイラが続き――直後、鎧の不死者が路地から目の前に出現した。


「ふっ!」


 それにオックスは即座に反応し、横に一閃。相手は攻撃を見て剣で防御したが――彼はそれをものともせず両断した。


「感触は、土のそれだな」


 彼が呟くと同時、さらに路地から鎧の不死者。それに反応したのはフレイラ。放たれた剣を一度弾き、金属音。

 オックスは一撃だったが、やはり強度はそれなりにある――フレイラは思いながら胴へ剣戟を放った。不死者は回避することができず、斬撃が直撃し、さらに連撃を重ねて不死者を塵とした。


(魔具を持たない兵士では、こちらの不死者は厄介かも)


 とすると、やはり時間稼ぎか――考えながらひたすら詰所へと向かう。以後はオックスは不死者に対し発言通り節制に努め、走るのに邪魔な存在を倒すくらいに留めている。


「もしかすると、不死者は住民達を外に出さないよう動いているのかもしれないな」


 途上で、オックスが呟いた。


「大通りにこれだけ不死者が現れているのに、死体なんかが無い以上犠牲者だっているにしても少数だろう……住民は、生きたまま人質にした方がいいなんて考えかもしれない――」


 オックスはそこで立ち止まる。フレイラにも理由を認識できた。真正面に、鎧が数体。


「俺がやる」


 オックスは告げると剣を振る。刀身から炎が流れ、鎧へと向かう。

 敵はそれを回避する素振りを見せたが――炎は突如軌道を変え、直撃。それにフレイラは一つ言及する。


「もしかして、制御もできる?」

「当然だろ。けどまあ流れを変えるくらいだぞ」


 言っている間に炎が消失。鎧の姿はもうなく、オックスは息をつく。


「魔力的にはフレイラさんくらいなら問題ないだろうけど……地方騎士クラスとなると、倒すにしても対処に手間取るかもな」

「そうね」


 フレイラが答えたところで詰所が見えた。よって少し足を速めようとした時――視界に騎士の姿が目に入る。


「おい!」


 すかさずオックスが呼び掛ける。それに反応した騎士がフレイラ達を一瞥し、


「……あなた方は!」


 憶えがあるらしく声を上げた。


「あなた方も……状況を知りここへ!?」

「いや、偶然戻ってきた時に街の状況を知り門を抜けた」

「状況は?」


 オックスに続きフレイラが問う。騎士と目が合い、一瞬だけ口の動きが止まる。詰所に入れるなという指示を思い出しているようであり――


「この状況下で指示も何もないでしょう!」


 フレイラが叫ぶ。それに騎士はすぐさま頷き、


「はい、申し訳ありません……状況ですが、現在詰所にいる騎士達は総動員で駆除に当たっています」

「住民は?」

「不死者達は建物の中に侵入しないようなので、各々家や建物の中に閉じこもっています……レイル様が魔法により、それが安全だと街中に呼び掛けたことが幸いしました」


 レイル――名だけ聞くと、ファーディル家の四男と同じ名。フレイラは彼が今回の競争相手なのかもしれないと記憶しつつ、さらに問う。


「ということは、住民に犠牲は出ていないと?」

「詳しい調査をしていないため、確実なことは言えませんが……不死者は能動的に住民を狙ってはいないようなので、直接的な犠牲者はゼロに近いと思います」


 ――情報により、疑問が頭の中に生まれる。とはいえフレイラも今考えても仕方がないと判断し、事実だけを受け入れさらに騎士へ告げる。


「わかった……ひとまず私達も討伐に協力を」

「ありがとうございます。既に各所へ伝令は送っているので、直に援軍は来ると思うのですが……」

「そのレイルって人物は今どうしている?」


 問うオックス。それに騎士は難しい顔をして、


「勇者シャナエルと、街の中を調べ回ると」

「やっぱりあいつもいるのか……わかった。で、こうなった経緯は?」

「それは……」


 騎士が口をつぐむ。なんだか自分たちが悪い事をしたという所作に見え、


「聖女を、ここに連れてきた?」


 フレイラが問うと、騎士は肩を震わせた。


「そう。きっと何かしら利用できると思ったんだ」

「……現在、聖女は逃げ出しています。そして」


 と、騎士は一拍置いて告げた。


「宝剣が、奪われました」

「……不可解な点はあるが、それを奪うことが相手の目的の一つだったのかもしれないな」


 オックスは小さくため息をつきつつ、フレイラに言及。


「この一連の結果、フレイラさん絡みの政争に関係することか?」

「そう考えて良いと思う」

「となるとそれが裏目に出たわけだな」

「そうね……状況把握もしたし、動こう」

「よろしくお願いします」


 騎士が告げると、フレイラ達は動き出す。詰所の中も多少は気になったが――今は一刻も早く、事態を収拾させる。


「行こう」


 フレイラが言うとオックスも追随。そして目前に不死者の群れを発見し――二人は、同時に走り出した。


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