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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第二話
43/411

少女の存在

 ユティスは発見した絵をじっと眺める。結構精巧であり、女性と男性。そしてその中央に少女が並んで立っている絵。裏面を見たが何も記載されておらず、誰が書いたのかもわからない。


 けれど再度絵を見て――中央の少女が、赤い髪。


「もしや、この家が……」

「ユティス」


 呟いた時、部屋の外からフレイラの声が。


「リビングには何もないけど……どうしたの?」

「これ……」


 ユティスが差し出すと、フレイラは視線を向け、


「……絵?」

「部屋は大人用のベッドが二つだから、ここは夫婦の部屋で、両親のどちらかが書いたのかも」

「そうね……ふむ、農夫の言葉と特徴が一致しているし、この家が聖女の生家なのかもしれない」


 語るとフレイラは部屋を見回す。


「けど、一切破壊の形跡がないというのは……どういうことなんだろう?」

「少女があえて壊さなかったという可能性もあるけど……」

「この辺りは聖女に問わないとわからないかな。えっと、もう一部屋は?」

「まだ調べていない」


 ユティスは言うと引き返し、隣の部屋の扉を開ける。

 そこはベッドが一つと、衣装入れが一つだけ。部屋の規模は先ほどと同じなのに、恐ろしい程寂しく思えた。


 部屋に入り見回す。床に物が置いてあった形跡などを目に映しつつ――ユティスは小さく呟いた。


「ここがたぶん、聖女の部屋か」


 断定と共にさらに部屋を調べる。けれど衣装入れなどを確認しても特に目新しい物はない。


「見つかったのは、この絵だけということかな?」


 フレイラが探しながら訊く。それにユティスは頷き、


「あまり情報としては参考になるものじゃないかな……きっとここの大部分の資料は、詰所の中なんだろう」

「……そうだね」


 フレイラは歎息し部屋を出る。ユティスも合わせて部屋を出ると、ティアナとオックスがリビングで待ち構えていた。


「どんな感じだ?」

「見つかったのは、これだけ」


 フレイラが絵を差し出す。それを一瞥したティアナは、


「証言通りの女の子、ですね」

「この家がなぜ破壊されていないのかも気になるけど、ひとまず彼女が事件に関係していると考えて間違いはないと思う」

「……その少女も不死者とかいうオチはないよな?」


 オックスが気になったことを言及。それに答えたのは、ユティス。


「その可能性の方が高いんじゃないかな」

「え?」

「この村を襲撃し……少女は見た目人間そのものだったみたいだから、きっと使用した魔法も他の不死者と比べ強力なものだと思う。だから彼女が不死者の司令塔と考えてもいいかもしれない」

「でも、彼女は不死者を滅ぼしているんだぞ?」

「不死者を生み出すという実験を行い、ある程度用が済んだら少女自身が駆除する……なんて可能性もある。敵の行動動機がわからないからこれ以上の言及はできないけど……この仮定だとすると、少女は自分の家だけは破壊することができなかった……強力な魔法で不死者になったけど、生前の記憶は保有していたため、こういう現象が起きたのかもしれない」

「なるほどな……ちなみに、この村を襲撃した理由とか推測できているのか?」

「少女の力などを確かめる首謀者の実験、という可能性もある。魔女の話を聞いて不死者として生み出し、近くの村だったこの場所を襲撃したとか」

「ずいぶんと酷い話だな……で、首謀者は現在もロゼルスト内で動き回っている」


 そこまで語るとオックスは神妙な顔つきとなった。


「敵の目的が不明確なんで推測でしかないが……他の国々で起きていないということは、どこかの国の手先か何かか?」

「どうだろう……けど、少なくともロゼルスト王国に仇名す存在であることは間違いないと思う」

「……ま、その辺りはこれから調べて行けばわかることか。というわけで情報収集はこのくらいだろうし、街に帰るか?」


 提案に対し、ユティスはしばし考える。


 これ以上の情報は無い――というのはほぼ間違いないだろう。ならば一度帰るというのもありなのだが――ユティスとしては、もう少し何かなければと思うのも事実。


「納得いかない、という表情ね」


 フレイラが言うとユティスは「まあね」と返事をする。


「きっとリーグネストに戻ってもどうしようもないし、もう少し調査しても」

「面倒だが、やるか? でも、こんだけさっぱりとした家の中を調べるにしても、あっという間だぞ」


 オックスは語りつつ部屋を見回す。


「兵士達もこの家は重点的に調べただろうからな」

「だよね……けど」


 ユティスは引き出しに眠っていた絵を見つつ一言。


「ゼロではないと思うけど」

「……もう少しだけ、調べてみるか」


 オックスの言及で、再度家の中を調べ始めるユティス達。とはいっても基本物がほとんどない以上、調べるにしても――


「ん?」


 ふいに、部屋の中を調べていたオックスが声を上げる。ユティスが覗いてみると、窓近くの部屋の端に立ち、床を見据えていた。


「どうしたの?」

「……ここに、収納庫があるな」


 オックスの断定を聞いてユティスは興味を引き近寄る。


「たぶん開けるために何か仕掛けがあるんだろうが……面倒だから破壊しよう」

「いいのかな……」

「情報を探りに来たんだろ?」


 オックスは言いながら剣を抜き、床に突き立てた。すると床が大きく損傷し、下から収納スペースが。


「切れ目なんかも目立たなかったから、兵士も見つけられなかったんだな」


 オックスは言いながら手を伸ばす。中から、何枚もの紙が出てきた。そして彼は紙を何枚かユティスに渡し、確認。


「……また、絵だ」


 先ほど見つけたものと同様、絵。最初目に入ったそれには、母親と娘の二人が描かれた絵。何気なく一枚目の裏を見てみると、作成したと思しき日付と一言添えられていた。


『親愛なる娘と私』


 それだけ。ただこの情報で絵を描いたのは母親であることがわかる。


「全部、似たような感じだな」


 オックスはさらに取り出した紙を見ながら告げる。


「家族を描いたものばかりだな……風景画なんてのも一切無い」


 彼の言及を聞きながら、ユティスは持っている絵の内容と裏の内容を確認する。奇妙なことに全てが家族の絵。さらに日付が全て半年以内のものばかりだった。


「……ここの少女は、魔女狩りによって殺された」

「ああ、そういう話だったな」

「裏の日付を見ると、おそらくその魔女狩りがあった以降にこの絵は描かれている……母親は、忘れることができなかったということなんじゃないかと思う」

「……だろうな。で、こんな絵を描いていると自分も魔女に認定され……などと思い隠したのかもしれない」


 オックスはユティスの言葉に合わせ裏面を確認し始める。


「俺の持っている物も、全部半年以内だ。魔法を排斥しているとはいえ、娘が殺されるという事実に耐えられなかったということか?」

「……そういえば、母親はどうしたんだろう? 村の人々は全員死んだらしいけど、どのように亡くなったのか……」

「そこは案内の商人に聞いて……わからなければ詰所に行くしかないな」


 しかし、それはできない――ユティスは、深いため息をついた。


「……家の中を見るに、普通に生活をしていたとは思うけどね」

「確かに、少女が死んで以降も家は荒れていないしな……ま、この辺りは調査しても情報が手に入らないかもしれないな」


 オックスは言うと、絵をユティスへ押し付け立ち上がる。


「……さて、隣の部屋はどうだ?」

「調べましたけど、何もありませんでした」


 部屋の外からティアナが呼び掛ける。


「オックス様の話を聞いて床も調べましたが、成果なしですね」

「そうか。となるとこれ以上の情報はなさそうだな」


 オックスが再度述べた後、ユティスは再度指示を出す。


「……念の為村の中を見回った後、戻ることにしよう」

「了解」

「わかりました」


 オックス達は返答すると共に歩き出す。ユティスはそれに続き部屋を出て、他の面々と共に外へと出た――



 * * *



 不死者が現れた場所は、リーグネストから北へ数時間の場所。既に報告と同時に周辺にあった村の避難は済ませているらしく、田畑の中を縦横無尽に動く不死者の姿だけが目に付く。


「では三人、頼んだぞ」


 カールが馬上から告げる。シャナエルは「はい」と短く応じた後、残りの二人――レイルとベルガの二人と共に、馬を疾駆させる。

 その音に不死者は反応し、緩やかな動きと共に首をシャナエル達に向ける。


 ――シャナエル自身、この時点で明確な違和感を覚えていた。理由としては目の前にいる不死者そのものの力。これまで騎士や農夫の証言だけで気付けなかった事実。


「ずいぶんと魔力が大きいですね」


 並走するレイルが告げる。シャナエルはそれに内心同意した。


 不死者は馬に反応しているが動きは緩慢で、戦闘能力が高いようには見えない。そもそも通常装備の騎士や兵士で駆除できる存在であると聞き及んでいる以上、大したことのない相手であるのは間違いない。

 しかし、目の前にいる不死者の群れは――明らかに強い魔力を発していた。


 シャナエルはこうした存在の駆除を行った経験もある。そうした以前の事件で遭遇し戦った不死者と比較しても、目の前で群れを成している存在は魔力だけ見れば恐ろしい程力に溢れている。


 一体これは――不可解な状況にシャナエルは眉をひそめつつ、歩むだけの不死者に接近し、馬上から一閃した。

 攻撃は見事に直撃し、不死者は塵と消える。感触的にも凡百のそれと何ら変わりのないもので、その異様なまでの魔力の高さにシャナエルは疑問しか湧かない。


「確かに、妙だな」


 ベルガもまた呟きつつ、剣を振る。


「魔力の多さと強さがまったく関係していないようにも見えるが、これは何だ?」

「一体生け捕りにして、調べてみますか?」


 問い掛けはレイルから。けれどシャナエルは首を左右に振った。


「当初の目的通り、少女を探すことにしよう」


 ――シャナエル達の目的は、あくまで近くにいると思しき少女の確保。現状たむろしている不死者は、後方にいる騎士や兵士に任せることになっている。


「とはいえ……」


 シャナエルは周囲を見回し息をつく。これだけ目立つほどに魔力を込めているというのは、間違いなく何か意味があるのだろう。それが一体何なのかわからず――


「術者を発見し、縛り上げればいいだけの話か」


 シャナエルは結論付けると、馬を走らせ目的の少女を探す。

 その少女が原因でこのようなことになっているかもわからない。しかし、鍵となるのは間違いなく、だからこそ最優先して探すこととしており――


 兵士達が不死者と交戦を開始する。とはいえ敵は有象無象といってよく、単純な槍の攻撃でもあっとう間に沈むくらいのものだった。


「これ、聖女も大したことないんじゃないか?」


 ベルガが意見する。シャナエルは確かにと内心同意したが、このあっけなさが逆に気持ち悪いのも事実で――ふと、


「ちょっと待ってください」


 レイルが呼び止めた。そして馬を止めると一点を見据える。

 その視線の先には、木々。田畑が広がる中で他の場所と隔絶するように存在する、小さな森だった。


「何か、他のものとは違う魔力が」

「進もう」


 シャナエルは端的に告げると、下馬した。次いでレイルが下りると、


「俺は残っている」


 ベルガが言う。シャナエルは「馬の番を」と端的に告げた後、レイルと共に森へと入った。

 そこにも、田畑と同様不死者が存在していたのだが――森に入った直後から、確かにレイルの言う通りおかしな魔力があるとシャナエルも理解する。


 その魔力は、並の魔術師ならば気付けないだろうレベル。もしかするとこの魔力をカモフラージュするためにあえて不死者に魔力を――などと思った時、


「いました」


 レイルが言う。真正面方向。そこに、白い外套を羽織った赤髪の少女が立ち尽くしていた。

 横を向いているために表情は窺えない。けれど遠目から見てその姿は、どこか悲しんでいるようにも見えた。


「……どうします?」


 レイルが問うと、シャナエルは剣を構え、


「私が先陣を切る」


 告げた直後――疾駆する。


 すると、少女もまた気付いた。振り向いたことによってシャナエルと視線が重なり、その黒い双眸(そうぼう)が戸惑っているように見えた。

 直後、森に存在していた不死者がシャナエルへと行動を開始する。やはり動きは緩慢だったが、その動きはシャナエルを包囲するようであり――


「――ふっ」


 僅かな呼吸。それと共に薙いだシャナエルの剣先から――風が出現する。

 それは多数の刃へと変じ、周囲にいた不死者を正確に射抜いた。


「風の力……!」


 シャナエルの力の一端を見たレイルが声を上げ、一方のシャナエルは声に構わず少女へ突撃し、


「――終わりだ」


 彼女の首筋に剣を突きつけた。


「この不死者を使役するのは、お前か?」


 問うが、答えはこない。少女はただ真っ直ぐシャナエルを見据え――


 次の瞬間、彼女の表情が無機質なものへと変じた。


(何……?)


 不可解な変化だとシャナエルは思う。けれど、不死者を生み出しているようには見えないが、その取り巻く魔力は異質なものだと感じる。


「シャナエル様」


 後方からレイルの声。彼は横まで到達すると、少女を見据え、


「……魔力も、閉じましたね」


 そこで、シャナエルもまた彼女から魔力を感じられなくなっていることに気付く。


「……どうする?」


 その無抵抗さにシャナエルは戸惑う。生殺与奪の権利は確かに持っている。けれど逃げも抵抗もしないとなると、どう対応していいのか咄嗟に迷う。

 加え、現時点では彼女がこの不死者達を生み出した諸悪の根源だという確固たる証拠もない。むしろこの場で始末すれば、逆に手掛かりを失くし首謀者捕縛から遠のく可能性もある。


 僅かな沈黙。その後、レイルが声を発する。


「一度、カール殿に確認してみるしかなさそうですね」

「……わかった。その間、私は見張っておく」

「お願いします」


 レイルはその場を立ち去る。それを見送ったシャナエルは、剣先を突きつける少女を一瞥。


「お前は、何者だ……?」


 問うが、答えはこない。まるで最初から意思はなかったように、虚無のような瞳を伴い佇んでいた。


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