終わりの先
大天使を打倒した夜、ジュオンが主催で異能者達への宴が行われることとなった。住民達も交え歓喜に包まれたわけだが、ユティスはまだあまり動けなかったのでそれほど長く参加できなかった。とはいえ、雰囲気を浸って楽しむことはできた。
また同時に、異能者達は相互で一つの誓いを行った。立場などが違う異能者。所属する国などによって、スタンスも違ってくる。異能者を積極的に利用しようという国もあれば、保護し管理しようとする国もあるだろう。
「異能者の存在については……いまだ在野にいて気付かれていない人達もいる。そういう方々を含め、戦争の道具にはしたくない……だから国の保護とは別に、異能者について情報を保有する機関が必要になる」
そうユティスは主張した。ラシェンはその組織作りに今後従事していくことを表明。また異能者達はこうして集った以上、互いが対峙して戦うことは避けたいというのが総意だった。
「大天使という脅威が消え去ったことにより、国の考えなどは変わるだろう」
と、ラシェンは異能者達へ告げる。
「脅威に対し手を取りこうして異能者が集うことができた……しかし、ここからはそうもいかない。間違いなく、異能者の奪い合いになる。それは争乱を呼び起こすことになるだろうが、この場にいる者達は誰もそれを望まないだろう」
全員が一様に頷くと、ラシェンもまた首肯した。
「うむ、であるならば、国とは別に異能者達のことを保護する場所が必要になる……どのような組織になるのか不明だが、まずはそうしたことから始めなければならないな」
「僕達の代でどこまで進むか、ですね」
ユティスは語る。正直、どれだけの歳月を必要とするのかわからない。
「大天使の脅威が差し迫っていた私達であるからこそ、実行できるものだ。むしろ私達がすぐにでもやらなければ、おそらくそうした組織はできない……もし完成できなかったら、それこそ『星の館』のように秘匿された組織になる」
「それは、あまり望ましくないですね」
「そうだ。異能者のための組織は、開かれたものでなくてはならない……これから忙しくなるが、この私にとって最後の大仕事と考えれば、まあやりがいもある」
ラシェンはそう語ると、異能者達に宣言した。
「君達の立場が良くなるよう、私は全力で取り組むことを約束する……ここからは、私を始め政治を行う者達の戦いだ――」
その後、ユティス達は異能者と別れロゼルスト王国へと帰還した。サフィ王女の語る通り、ユティス達を出迎えてくれる民衆がいた。それに手を振りつつ城へ入ると、まずは大天使討伐を報告。そして今後彩破騎士団の活動について言及すると、王はそれを了承した。
そこからようやく休むことが――と言いたいところだったのだが、大天使討伐を果たしたということで、祝宴が行われた。ユティスにとってはありがた迷惑といっても良い形ではあったが、フレイラが「今くらいしかもてはやされることはないだろうし」と受け入れ、ユティス達は祝宴に参加。そうしてようやく都内にある屋敷に腰を落ち着けたのは、翌日の昼のことだった。
「やっと休める……」
ベッドに突っ伏したかったがそれを堪え、ユティスは今後のことを考える。
彩破騎士団が組織として維持することは王も許可していた。よって、ロゼルスト王国の騎士という形で、今後異能者達の新組織と関わっていくことになる。
「僕らに何ができるのか……それを考えていかなければならないな」
やることは多い。そもそも彩破騎士団の立ち位置だってややあやふやな部分がある。まずは地に足を着け、国内でしっかりとした立場を確保する。また個人的な問題もある。特にティアナのことなどは――
「……二人でしっかりと話もできていないな」
告白してから、流れるようにアルガとの決戦にまで至った。彼女のことについても顔を突き合わせ、改めてきちんと話をしなければならない。
家族とかにも紹介しなければ、などと考えつつユティスは椅子に座る。ふと窓へ目を向け青い空を眺める。
「……旅の果て、か」
ポツリと呟く。最後の最後で得たものは、自分が欲しかったかもしれない、確固たる地位。異能者との戦いを通して得られたものとしては少ないくらいかもしれないが、ユティスとしては満足していた。
「……ま、この地位に負けないよう、これからも功績を残していかないと」
そんな結論を呟いた時、ノックの音が。ユティスは立ち上がり扉を開けると、フレイラの姿があった。
「や、ユティス。屋敷にいる人達が、帰ってきたということで簡単なパーティーでもしないかって提案をしてきたんだけど」
「またパーティー? あ、でも今度は身内だけか」
「そう。彩破騎士団だけで」
「思えば、そういうのはまだやっていないな……うん、いいんじゃないかな。今日やるの?」
「そうね」
「なら全員、夕食時に食堂に集合だな。無礼講ということで、存分に飲み食いしようじゃないか」
「昨日の祝宴から立て続けだし、太りそう」
「なら明日から、腹に入ったものを全部消費するくらいの勢いで仕事をしないといけないな」
「……そうね。やることはたくさんある」
フレイラはそう述べた後、ユティスの目を見た。
「……記憶を失っている中でユティスと出会い、肩を並べて戦った。ユティスはこの結果に、満足してる?」
「もちろんだ。遠回りだったかもしれないけれど……僕達は、正解の道に辿り着いた」
確信を伴った言葉。けれどユティスのセリフには続きがあった。
「でも、それはあくまで大天使との戦いにおいてだ。異能者のための新組織……そして、異能者についてどう向き合っていくのか。そこについては、今から腰を据えて取り組まなければならない」
「まだ答えは見出していない……か」
「その通り。だからまあ、これからも大変だけど」
「望むところ」
フレイラは力強い口調だった。苦難がまっていようとも、絶対に逃げないという意志が備わっていた。
「なら、今日くらいは飲んで騒いで、備えようじゃないか……それと騎士団のみんなは、これからもついてきてくれるかな?」
「大丈夫よ。共に戦ってくれる」
「なら頼もしい……頑張ろう、フレイラ」
「ええ」
互いに笑う。戦いの果てにあった終着点。けれどこれから、苦難が待ち受ける新しい世界が待っている。
ユティスはそれに、真正面から向き合おう――決意を抱き、騎士として、未来を紡いでいく――
完結となります。お読み頂き、ありがとうございました。