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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
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未来を紡ぐ

 魔法を完全解放し、体の内にある魔力を全て使い切った後、ユティスは床に尻餅をついた。呼吸すら整わぬ中で、前方に存在する真っ白な光を見据える。


「大丈夫か?」


 オズエルが問う。ユティスは頷こうとしたのだが、体が上手く動かない。


「さすがに、これ以上は無理だな……」

「それは見ていればわかる……が、もう必要ないさ」


 その言葉と共に光が消える。前方にあったのは、器を出ようとする寸前、その右腕が解放された大天使が、消滅し始める姿だった。

 わずかな時間。あと少し遅れていればどうなるかわからなかった。大天使が解き放たれて、逃げに徹していれば、もうユティス達に抵抗の余地はなかった。


「……終わった、か」


 ユティスは呟く。それと共にフレイラやティアナが駆け寄ってくる。


「ユティス様、お怪我は?」

「負傷はしていないよ。もっとも、この状況だから怪我よりもダメージは大きいかもしれないけど」


 言うと同時に大の字に寝転がる。完全に力尽きた。


「体調は悪くないけど、魔力が空っぽだから動けないな」

「なら、さっさと部屋に運ぶとしよう」


 ジシスが近寄ると、ひょいとユティスの体を抱えた。そこでリザが、


「フレイラさんとかが抱えてあげれば面白かったのに」

「私が騎士だから?」

「正直、それはボクの方が格好つかないから、勘弁して欲しいけど……」


 ユティスの言葉にリザが笑い始める。そこでふとフーヴェイへ視線を移した。彼はただじっと、ユティス達彩破騎士団を見据えていた。


「……ありがとう、本当に」

「――あなた方の活動が実を結んだ、と言えなくもありませんね」


 ユティスはそう返答する。だが、


「しかし、多大な犠牲を生み出したこともまた事実」

「大天使を倒したから、私達のやり方が合っていたなどという気にはならないさ……これから、組織は崩壊してしまったが、できる限りのことをさせてもらう」

「ならまずは、マグシュラント王国の復興からですね」

「そうだな。ジュオンと手を組み、精一杯やらせてもらおう」


 そんな会話の後、騎士団は階段を上り始める。その寸前、ユティスは一度だけ大天使が封じられていた器を見据えた。

 完全に気配が喪失し、ガランとした空間が広がっている。今ここに――二千年続いた戦いは終止符が打たれた。けれど同時に、達成感よりはようやく終わったのだという、安堵感の方が強かった。






 地上に戻るとジュオンは多数の配下に指示を出し、地下室へ向かわせる。大天使は消滅したわけだが、その魔力がまだわずかに残っている。それが悪さをする危険性を考慮し、夜通し監視する予定らしい。


「とはいえ、そう心配はしていない。いくら強化された個体とはいえ、兵器としての性質は変わっていない。消滅レベルまで到達すれば、復活はしないさ」


 ジュオンの言葉にユティスは頷きつつ、


「けれど、念のための警戒は必要ですね……それこそ、大天使は二千年という歳月で人間に被害をもたらした相手だ」

「そうだな……後のことはこちらでやる。安全が確認できるまでもう少し滞在してもらう必要はあるが……これで、終わりだろう」

「後は、凱旋だけね」


 と、サフィ王女が横から話し掛けてきた。それに対しユティスは苦笑し、


「凱旋、ですか……けれど僕らは、目に見えて功を上げたわけではないと思いますが」

「大天使のことを知る者は少ないからね……けれど、国民は彩破騎士団が大きな戦いに勝利した、というくらいのことは認識できるのよ。色々と活動し、異能者を止めた実績もあるし、あなた達の活動はそれなりに広まるようになったから」

「そうですか……なんだか有名になって、困惑しますけど」

「そんなガラじゃないからね」


 リザが述べる。同意するようにアシラやオズエルなんかは頷いている。


「……ま、そうね。ともかく、ようやく……これからのことを考えることができるわね。どうするのかしら?」

「異能者はまだ存在している以上、僕らを含めどうするかを長い時間掛けて考えていかなければなりません。ラシェン公爵はそれに付き合うと言っていますので、僕らの仕事としてはその辺りのことになるでしょう」

「そうだな」


 と、オズエルが同意する。


「異能というのは、例えば子どもなどに遺伝するケースもある……大天使という目標が消え去っても異能という存在は残り続ける。これからはそれとどう付き合っていくかが焦点となるな」

「最悪、異能者同士の戦いになる……けれど、そんなことをさせないように、制度を構築していく必要があるんだ」

「長い戦いになりそうだな」


 ラシェンが近寄ってきて言及。ユティスは小さく頷き、


「はい……付き合ってもらいますからね」

「ああ、喜んでこの身を捧げるとしよう」

「なら、話は終わりですね……それで、少しの間僕らは滞在しますが」

「ああ、ゆっくりしてもらえればいい……特にユティスさんは疲労困憊といった様子だからな」


 ジシスに抱えてもらっている状況下に、ユティスは苦笑しながら小さく頷く。それによりサフィなども笑い、釣られて彩破騎士団もまた笑みを浮かべる。

 そこでようやく、ユティスは終わったのだと深く認識する。様々な犠牲が生まれ、このマグシュラント王国では、その被害も甚大だ。


 その傷を癒やすために必要な歳月は、気が遠くなるほどのものだろう。けれど、


(進まなければいけない……僕らは)


 立ち止まらず、前を向いた歩き続ける。ようやく人間は、未来を延々と紡ぎ続けることができるようになったのだから。


「まずは、暖かいベッドで休もうではないか」


 ジシスが告げる。ユティスは「頼む」と言って騎士団は動き始める。


 その時、ユティス達に歓声を上げる者達がいた。この場に集った異能者達――それにユティス達は手を振りつつ、何気なく空を見上げた。

 綺麗な快晴。ただ最後の戦いが始まる前よりも、澄んでいて気持ちが良いと感じることができた。


(未来、か)


 ユティス自身、どうなるのだろうと思い悩む。それと同時にこれからきっと大変そうだなと、心の底で確信することとなった。


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