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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
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異能と魔法の極致

 ユティスの放った光が大天使を封じる器へと直撃した矢先、器が激しく軋み、封じられている大天使へと注がれていく。器そのものを破壊するより先に、魔力が侵食し大天使を狙い撃ちする――無論、大天使を打倒するための破壊力を生み出すためにいずれ器すらも破壊してしまうが、それより先に大天使を滅することができればいい。


「オズエル! 出力は!?」

「維持できている!」


 ユティスはその声音と共にさらに自らの魔力を引き出す。オズエルやイリアの補助があってこそのものであるため、均衡が崩れれば一瞬で終わる。

 しかし、だからといって恐れてはいけない。ユティスはこのまま突っ走るべく、さらに魔力を高め――次の瞬間、前方で何かが弾けるような音が響いた。


 そこで魔力が途切れた。さすがに延々と魔法を行使し続けることはできないが、連続で放てるように準備は整えている。魔力はまだ十分ある。ユティスは呼吸を整えながら、光が消えるのを待つ。

 やがて、視界に映った先にあったのは――器が砕け、なおかつ半身が消し飛んだ大天使の姿。とはいえそれは最前面にいた個体だけ。残る二体は器に封じられたまま健在だ。


「半分は破壊したけど……」

「いや、これで終わりだ」


 まだ動くかもしれない、とユティスが言おうとした矢先、フーヴェイから声がした。直後、大天使の体がサアアア、と砂のように消えていく光景が見えた。


「一体は、倒したのか……」

「君達の理論構築が完璧だった……とはいえ、まだ二体残っている」


 他の個体はまだ封じられたまま。しかし器が大きく損傷したため、大天使の方にも変化が生じる。

 ギシリ、と音を上げ器の中で大天使が動き始める。一体が消え去ったため防衛機構が働いているのか。どういう理屈にせよ、ユティス達を最大の脅威とみなし、攻撃を仕掛ける腹づもりだろう。


「オズエル!」

「問題ない、いける」


 ユティスが名を呼ぶとオズエルはそう返答した。直後、一挙に爆発的な魔力が生じ、ユティスは第二の矢を放った。

 残る二体は一体目が存在していた場所の少し奥に並んで存在している。狙ったのはユティスから見て右側の個体。器に光が直撃すると、凄まじい魔力を伴って大天使へ刃が浸食していく。


 ただ威力そのものは、マグシュラント王国がアルガへ仕掛けた攻撃と比べても低いだろう。フレイラがウィンギス王国との戦争で提案した剣のような、一挙に敵を滅せるような威力はない。魔力が拡散し体を打つほどのものだが、それでも大規模魔法のような攻撃力ではない。

 これはただ、大天使を討つために用意された牙。人類の敵である存在だけを滅するために用意された、異能と魔法の極地。


 ユティスは魔力の制御が甘くなり右腕が震え出す。それを左手で無理矢理押さえ込みながら、魔法の維持を行う。やがて魔力が弾け、視界が真っ白に染まる。手応えは確実にあった。魔力が途切れユティスは三つ目の矢を放つべく準備を行う。

 視界が開けると、二体目の大天使も崩壊が始まっていた。アルガを倒す過程で編み出された技法。それによりとうとう、大天使を二体、撃滅するに至った。


「このままいければ……」


 ユティスは自分を鼓舞するように発言するが、体には疲労感が溜まり始めている。元々異能を抱えているが故に病弱であり、数人がかりで制御し負担が軽減されているとはいえ、これほどの大魔法を連続で行使できるような体ではない。


(けれど、あと一体……それで全てが終わるんだ……)


 ここで踏ん張れば、誰も犠牲になることなく戦いを終えることができる。二千年に渡る戦い。文明が崩壊し、異能者達が集った千年前においても勝てなかった最後の敵。それを、あと一度の魔法で撃滅することができる。


「オズエル、まだいけるか?」

「無論だ。ユティスさんは」

「僕のことは心配しなくてもいい……アリス、そちらは?」

「大丈夫」


 しっかりとした言葉と共に、彼女は頷いた。それを見てユティスは呼吸を整える。


「なら、最後だ……オズエル、さすがに塵となった個体が再び再生とか、ないよな?」

「おそらく大丈夫だ。魔力を解析したところ、完全に分解した灰のようなものだからな。それから復元するほどの再生能力を持っていたら、人類などとうの昔に滅んでいただろうさ」

「それもそうか……とにかく最後だ。意識を集中してくれ」


 準備を始める寸前、ユティスは後方にいるフーヴェイへ視線を向ける。彼は無言で感情を表に出すことなく、目前の光景を眺めている。それを見た後にユティスは魔法準備を始める。

 あと一回――そう自身に言い聞かせた矢先、三体目の大天使が動き出す。器はまだ破壊できていないが、それでもはっきりとわかる――右腕が、動いた。


「反撃してくるか……!?」


 魔法を即座に撃ちたい気持ちに駆られるが、中途半端な出力で撃って器だけ破壊するという事態になったら目も当てられない。だからこそ最大出力で準備を行うわけだが、さすがに体に疲労が溜まりその進みが遅かった。

 大天使の様子から、器を壊すまでそう時間はないだろう。一分どころか十秒を争うような状況。ユティスは焦る気持ちを抑えながら、魔法準備を進めていく。


 けれど、三体目は一枚上手だった――いや、これはユティス達が想定以上に魔力を使い、準備に時間を要したというのが答えなのだろう。大天使を討つために必要な魔力については事前に分析していた。しかし、ユティスはそれ以上の出力で魔法を行使した。これは無意識のことで間違いなく、絶対に倒さなければならないという強烈なプレッシャーが、そういう行動を起こすに至った。

 だからこそ、大天使は動くだけの余裕があった。とはいえ器そのものが完全に砕けてはいない。二度魔法を受け器はかなり損傷しているが、三体目を覆う器そのものはまだ機能している。動き出したとはいえ、まだ余裕があってもおかしくはなかった。


 けれど大天使は、腕を動かす。すると同時、魔力を発した。自身を封じる器を、破壊しようとしている。

「間に合うか……!?」

「ユティス! 焦らないで!」


 フレイラが叫ぶ。同時、彼女は剣を握り締めて動き出そうとする大天使へ向かう。

 その狙いは、魔力を発した右腕へ、器越しに攻撃を仕掛けようとしている。ユティスが創生した武具を用いて、攻撃しようとする腕の魔力を、相殺するべく剣を振りかぶる。


 それはティアナも同じだった。彼女もまた剣をかざし、魔力を打ち消すべく剣を構える。器に触れ、魔力を直接叩き込む――ユティスが事前の作戦で伝えていた内容通りに、フレイラとティアナの剣は、器へと叩き込まれた。


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