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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
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命を捧げる

 魔力が鳴動し始めた――それを感知したラシェンは、いよいよ始まったのだと理解する。サフィ王女へその旨を提言した後、外でただ一人、空を見上げていた。


「悠長、だな」


 そこへやってくる一人の男性。ジュオンであり、ラシェンは彼へ体を向けると、


「やれることは全てやった。ユティス君達もそれは同じだ……後はただ祈るのみ」

「あなたのことは聞いている……色々と後ろ暗いこともやっていたようだが」

「全ては大天使を打倒するため、だな」

「……なぜ、あなたは組織へ協力しようと思った?」

「世界を破滅させる存在。さすがにそんな話を聞けば、半信半疑ではあったが……手伝うしかないだろうと考えたまでだ。その中で、私にとって最善の策を講じたまで」


 と、ここでラシェンは苦笑する。


「まあ、彼らに託すのが正解だった以上、私の辿った道は破滅一直線だったわけだが」

「そうなっていた場合は……」

「彩破騎士団が活躍する未来を夢想するなどできないだろうから、無念の一言で私は死ぬだろうな」


 切って捨てるような返答と同時、ラシェンの近くにサフィとヨルクがやってくる。


「どうしたのだ?」

「準備が整ったという報告を。そちらは――」

「私がいても何の役にも立たないだろう。放っておけばいいさ。今更悪さをするつもりもない」

「役目は終わっている、とでも言いたいのか」


 ヨルクが問う。それにラシェンは頷き、


「私の仕事は既に達成された。だから後は、託すだけだ」


 その直後、突如地面から震動を感じ取った。加え、どこからか濃密な魔力。これは、


「始まった、か」

「異能者は全員配置についている。けれど、大天使を止められるかは未知数だから――」

「一体でも残れば、まずいことになるか?」


 ヨルクの問い。それにジュオンは口元に手を当て、


「どうだろうな……ただ残り一体だけであれば、町や城を壊して回るのに時間は掛かるだろう。その間にできる限り準備をして……という筋書きが妥当だろうか」

「それが無難か……あなたは勝負が決まると思っているか?」

「決まらなければ、この場にいる者達は全員死ぬだけだ」


 どこか達観するように、ジュオンは応じる。


「もし一体だけ残り、この場にいる者達が全滅したのならば……大天使を滅せられる者は誰もいなくなるだろう。残る戦力をかき集めて、対抗する……大陸中の戦力が集えばまだ勝ちの目はあるかもしれないが、そんな連携が果たしてできるのか」

「異能者達をこうして集めるだけでも一苦労という現状だ。厳しいと言わざるを得ないな」


 ラシェンはジュオンの言葉にそう指摘した。


「国家間で連携をとるのはまず不可能。であれば、やはり滅びるのが定めか……」

「ならば、彩破騎士団に勝ってもらうしかないな」

「さっぱりしているな……ま、そのくらいシンプルな話の方が俺は好きだが」


 ヨルクは笑う。そこでラシェンは一つ言及する。


「君はてっきりユティス君達を助けるものだと思っていたが」

「そういう案も提示したが、作成した武具に適合できないため断念した形だ」

「なるほど、な……もし大天使が地上に現われた場合、この場において最大の戦力はおそらく君だ。もしもの場合は、頑張ってもらう他ないな」

「覚悟はとうにしている……不幸な結末にならないよう祈るさ」


 そう述べたヨルクは一度肩をすくめた後、


「もし平穏無事に終われたのなら、盛大に宴でも開きたいところだな」

「そのくらいの準備はしている」


 と、ジュオンが発言。それを聞いてヨルクは一度キョトンとした表情を見せた後、笑い始めた。


「用意周到だな、ずいぶんと」

「大天使という脅威を取り除いた以上、その報酬はあってしかるべきだとは思う……まあ、マグシュラント王国の状況を見れば、それほど盛大というわけではないが」

「いやいや、十分だと思うぞ。それよりも、唐突に来た異能者や俺達がそれに参加して良いのかという疑問があるわけだが」

「異能者達に労いは必要だろう。異能を持っているというだけで、今まで踊らされてきたのだから……」


 目を細め語るジュオン。彼なりに思うところがある様子だった。


「私は異能者を生みだし、この世界へ転生させた当事者ではないが……少なくとも大天使を見守ってきた存在であることは間違いない。だからこそ関係者だと自認しているし、相応の対価は支払うべきだとは思う」

「ずいぶんと真面目だな……ま、いいさ。そういうことなら遠路はるばる集った異能者達も喜ぶだろ」


 ヨルクはそう述べた後、ラシェンへと視線を移す。


「この戦いが無事に終わったら、それこそ悠々自適とはいかないだろうな?」

「承知の上だ。この体に鞭を打って世界に貢献させてもらおう。それが私にできる罪滅ぼしだ」

「……それで、いいのかしら?」


 サフィが問う。大地から感じられる魔力を意識しながら、ラシェンは応じる。


「無論だ。そもそもクルズ……組織の人間と出会ったときから、人類の運命を知った時から、私はこの戦いに命を捧げようと決めていた。それは大天使が滅んでも同じというだけの話だ」

「そう……なら、私から言うことは何もないわね」


 サフィは応じるとラシェンへ背を向けた。


「ヨルク、最後の仕事をしましょうか……といっても、私達だって最悪の事態が起きないよう祈るしかないけれど」


 言って歩き始める。ヨルクもそれに追随しようと足を動かし始めたのだが、


「一つ、いいか?」


 ジュオンだった。サフィが振り向くと彼は、


「マグシュラント王国は崩壊した。どうなるのかも今後予想はつかない……が、私達は世界と手を取り合って復興していくつもりだ。もう閉鎖的な国家ではない……もし良かったら、ロゼルスト王国の王様にそう伝えておいてくれ」

「抜け目がないわね、あなたは……わかったわ。ロゼルスト王国がどのような反応を見せるのかはわからない。けれど、あなたの言葉を尊重し、できる限りのことをすると約束するわ」

「ありがとう」


 再び魔力が鳴動する。そこでヨルク達は急ぎ、ジュオンもまた場を離れる。

 唯一ラシェンだけが残される。そんな彼は周囲を見回した後、ただひたすらに空を見上げ始めた――


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