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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
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騎士団のために

「まずは、何から話すべきか」


 顔を合わせた直後、ラシェンはユティスへ口を開く。


「異能者についてからか……ここを訪れた異能者については、どういう風に配置するのかは君達の自由だ。とはいえ、わかっていると思うが……それほど戦力にならないだろう」

「わかって上で、ここへ連れてきたと」

「そうだな……戦力的にいけるかどうかの判断も任せる。とはいえ役に立つ可能性がある以上、集結させることは意味があっただろう」


 そうラシェンは述べた後、砦へ目を向ける。


「さて……私がやり取りしていた組織も消え去った。しかし私は君達の味方として生き残った……なんとも面白い因果だ」

「自分は戦いのどこかで死んでいたと?」

「その可能性も……覚悟はしていた。それくらいのことをやっていた自覚はあるからな」


 ラシェンは語った後、小さく肩をすくめた。


「ウィンギス王国との戦い……私は、多数の兵士を作成できるあの異能者のことを買っていた。組織『星の館』から事情を聞き、どの異能者であれば大天使と戦うことができるのか……私は、あの異能者だと思った」

「だからこそ、国を……」

「正直に言えば、私は逃げられる準備をしていた。しかし、戦争の成り行き次第では無理かもしれないと覚悟はしていた……自分の故郷を……国を狙った以上、その時点で死の可能性は考慮していた」


 ここでラシェンはユティスを見据える。


「しかし、それをはね除けた存在……君と知り合いという事実を忘れていながら、君のことを見出してフレイラ君は行動を起こした。そして、異能を用いて刺客を除けた……果ては十万の兵と戦うだけの策があった。あの流れは見ていて惚れ惚れするほどだった」

「……その時から、僕に鞍替えしたと?」

「そうだな」


 嘘偽りなくラシェンは語る――憤りを覚えてもおかしくない内容だ。自分だけは助かる手段を保有しておきながら、国を売ろうとしていたのだ。


「……ウィンギス王国の異能者。仮にロゼルスト王国を蹂躙して、その後どうするつもりだったんですか?」

「順次異能者を喰っていく予定だった。とはいえ私も異能者を殺せば異能を奪い取ることができるというルールは知らなかったため、魔力集積点などを用いて強力な兵士を作成し、国へ戦争を仕掛ける……十万の兵を操ることができるのだ。蹂躙していくことは難しくないと思う。だが」


 と、ラシェンは天を仰いだ。


「アルガという人物の力は……それを平然と返したいただろうな」

「そうですね……もしあの異能者がアルガに挑んでも勝てなかったでしょう」

「私は間違った選択をしていたというわけだ……もっとも、この戦いは何が正解なのかわからない完全な手探りだった。私としては、他にとれる選択肢もなかった」


 ラシェンは小さく息をつく。そして、


「結果的に、君がここに立ち大天使を討つための準備を進めている……おそらくこれが最後のチャンスだろう。もしここで大天使を討てなければ、今度こそ文明は完全に消滅し、人類は技術をなくし原始の時代へ逆戻りだ」

「……そうは、なりませんよ」


 ユティスの言葉にラシェンは小さく微笑む。


「心強い言葉だ……では、次の話といこうか。私をどうする? この戦いが勝利に終わった後、私のことを糾弾するか?」


 ユティスはラシェンの所業を理解した後も、選択に一定の理解をすることで放置した。罪を償えとも言っていないし、その代わりに情報を得た。しかし、


「具体的な証拠はない。しかし君の今持っている発言力であれば、私のことを追い落とすことは可能だろう」

「そうですね……しかし、僕としてはあまり良い答えとは思えません」

「ほう?」


 ラシェンの眉がつり上がる。


「私のことは不問にすると?」

「どうするか、選択肢があります……もちろん、公爵のことを糾弾する手段もあります。フレイラとかであれば、そういう決断をするかもしれません。しかし」


 ユティスはここで、笑みを浮かべる。


「それでは、僕らに得はありませんよね。溜飲を下げるだけだ」

「利益を得ると……? 具体的には?」

「まず、この戦いが終わった後に彩破騎士団の処遇がどうなるのかわかりません。団員もその点については不安を感じています。まずは、それを払拭したい」

「なるほど……騎士団の存続か」

「理由は公爵にお任せします」

「私に丸投げで良いのか?」

「政治的な話は任せておいた方が無難でしょう?」


 そこでラシェンは笑い始める。


「……まったく、つまり彩破騎士団を維持するために私をこき使うつもりだな?」

「糾弾されるよりはずっとマシでしょう?」

「いやいや、マシなどという話ではない……元々、私は騎士団を存続するために動こうとは考えていたのだ」

「それは、何のために?」

「別に大天使がまだ存在しているとは思っていない。しかし、異能者という存在がいる以上は、いずれ脅威となり得るだけの力を持つ者が出現してもおかしくはない……それに対抗するため、抑止力くらいは保持するべきだというのが、私の考えだ」

「大天使以上の存在が出てくると?」

「そこまでは言っていないが、決して楽観できる状況でもないだろう? 異能者は国が保護している……いや、平たく言えば国が管理することになる。彼らは転生者……組織により生まれ出た存在ではあるが、後世そのような存在が出ないとも限らないわけだ」

「場合によってはアルガのような存在が……」

「可能性はゼロではない。よって、彩破騎士団の成した功績などはしっかりと保存しておく必要がある。加え、騎士団がまだ存在しているのであれば……今後の対策も立てられる」


 そこまで語るとラシェンは肩をすくめ、


「いずれ『星の館』のように、独立した存在になる……いや、後世に伝えるならそのような形が望ましいかもしれない」

「ロゼルスト王国の手を離れ……ですか。しかしそれは――」

「途方もない話ではあるし、私やユティス君達には無理な所業だが……まあ、未来のことを考え取り組む内容としては希望があるし、やりがいもある。私は一度国を脅かした身だ。そうした組織設立のきっかけくらいは、作るとしよう」


 それはつまり、異能者のために残る人生を費やすことを意味している。その意義ならば、ユティスもこれ以上語ることはない。


「……お願いします」


 最後にユティスはそう告げる。ラシェンは「任せろ」と告げ、会話は終わりを告げた。


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