集結
増援を待つ間に、ユティス達は粛々と準備を進めていく。その間にラシェン公爵が引き連れてくる者達についても情報が入ってくる。以前会議の席で顔を合わせた異能者が駆けつけてくれるらしい。
この国の人によっては「なぜ最初から来なかったのか」と不満を述べる者だっているだろう。しかしユティスはそれ自体無理だとわかっている。アルガを倒したからこそようやく動けるようになった。
大天使との決戦については、絶対に負けられない。よって、万全を期する形でラシェン公爵が事前に根回ししていたのだろうと予想できる。
「とはいえ、戦力になるかは微妙なところだな」
と、ユティスは結論を述べる。現状魔力集積点を訪れ武具を作成しているが、援軍としてやってくる者達の魔力などを解析できているわけではないため、異能者に見合った武具を作成することは難しい。それなら魔力をしっかりと把握している彩破騎士団の誰かに武具を渡した方が効果は高い。
「まあ、これはきっと政治的な意味合いも兼ねているんだろうけど」
「政治的、ですか?」
隣を歩くアシラが呟く。現在は彼に加えティアナとオズエルが帯同し、歩を進めている。
オズエルについては毎回帯同しているため疲れていないか確認するのだが、彼は「ユティスさんが頑張っているのに休めるわけがない。それに、まだ平気だ」と返答して変わらぬ歩調でついてきている。
「うん、最後の戦い……これが正真正銘最後の戦いだ。異能者達は大天使と戦うために存在している……公爵は僕らが戦いに出ている間に、決戦の場に集うよう要請したわけだ」
「けど、諸国がそれに従うかどうかは……」
「そこはラシェン公爵の腕前ってことかな。僕としては公爵がどんな風に説得したのか想像できないけど……ともあれ、今公爵が異能者を率いてこちらへ来ている。交渉は成功したわけだ」
「たぶん大天使を打倒することで恩賞でも用意したんでしょう」
と、ティアナが横槍を入れる。
「どこからそうした物を用意したか、ですが……可能性としては『星の館』が事前に用意していた物とかでしょうか……大天使との戦いに参加すれば、分け前がもらえると」
「国を動かすレベルだから、結構なものなのかもしれないな……ともあれ、大天使に敗れれば国は崩壊する。その事実に加え報酬だから、参加したってことかな」
「しかし、最後の最後で来ても……」
「彼らが戦闘に参加するかどうかは……あるいは戦いに貢献するかどうかは不明だ。そもそも『全知』系の異能者ならば戦えないし。でも今回はそうした人達も来るから、この戦いは異能者の総力戦であることを大陸中に知らせる意味合いがあったんじゃないかな。そうして各国が連携することで、大天使との戦いに挑める。邪魔立てされるよりはずっと良い」
「全ての国を巻き込む形にすることで、私達への妨害などを減らそうというわけですね」
「政治的な闘争を考慮する必要性がないのは大きいけど、その代わり人数が多いから統制はしないといけないんだよなあ」
「そこは公爵にやってもらえば良いのでは?」
「まあそうなんだけど……」
ユティスは公爵について思い起こす。彼は故国であるロゼルスト王国すら飲み込ませようとした。それだけ『星の館』という組織に入れ込んでいたわけだ。
ユティスは異能者と戦うため、公爵の成した物事について言及は避けた。蒸し返そうと思えば蒸し返せるし、この戦いが勝利に終わったら、槍玉に挙げても一向に構わないだろう。けれど、ユティス自身やる気はあまりなかったが、
「公爵が来たら、決戦前に一度話をしてみたいな」
――そうした願いは、比較的あっさりと叶えられることとなった。幾度目の武具作成を行い砦へ戻ってくると、そこには多数の異能者が。
「ルオンさん!」
エドルの声だった。振り向くと彼の護衛なのかヨルクが歩み寄ってくる。
「ご無事でなによりです」
「うん……どうにか大陸で暴れ回っていたアルガは倒した。でも」
「まだ残っている……想像を絶する相手が」
ヨルクが述べる。そこで彼は肩をすくめ、
「ロゼルスト王国はラシェン公爵の話を受け、本腰で今回の戦いに参加する」
「本腰……?」
「さすがに防衛のことがあるため銀霊騎士団は出陣できなかったが、精鋭を連れてきた。しかもその指揮は」
と、ヨルクは視線を投げる。釣られて目を移すと、予想外の人物が。
「……サフィ王女!?」
「そういうことだ」
「で、でも王女自身が……」
「他ならぬ彼女の申し出だった。この戦いは、絶対に間近で見なければならないと……強い覚悟を伴っていた」
ヨルクはそう述べると小さく息をついた。
「彼女は記憶を改変される前からずっと彩破騎士団を支持してきた。だからこそ、ユティス達の戦い……最後の戦いをしかと目で焼き付けたかったのだろう」
騎士を束ねるサフィ王女の下に、留守番をしていたフレイラが駆け寄る光景が見えた。双方は再会の挨拶を交わし、談笑を始める。
「王女がいるためか……異能者達はおとなしく従ってくれたよ。彩破騎士団の威光も大きかった。つつがなく進めたことは何よりだし、この場所はこれだけの人数を受け入れてもらえるらしい……安心して休める場所があるのは良かった」
「安全、とも言い切れないですけどね」
苦笑するユティスに対しヨルクは小さく笑い、
「砦の地下に大天使がいるんだったか……ま、確かにいつ何時復活してもおかしくないのだから、危険地帯にわざわざ足を踏み入れたと考えてもいいが……ともあれ、準備はまだ終わっていないんだな?」
「はい。あと数ヶ所魔力集積点を巡り、武具を作成します。しかしそれでマグシュラント王国内における主立った集積点は尽きる」
「国外へ足を向ける……とは、いかないか」
「大天使の状況を観察しながらですが……多少の動きがあります。もし復活の兆候が見られた場合、国外へ出ていたなら、間に合わない可能性もある」
「さすがにそれは避けたいな……ま、いいさ。どうするかは話し合って決めよう。ただユティスは、それより前に話したい人物がいるな?」
その時、異能者達のいる場所にラシェン公爵の存在を見つけた。ヨルクもそちらへ目を移し、
「最後の最後だ。たっぷり話し合ってくれればいいさ」
「……はい」
ユティスが返事をすると、ラシェンが気付いた。すると手を振り、ゆっくりとした足取りでユティス達へと近づいてきた――