国の再建
そこからユティスは、アルガと戦う前よりも活動的になった。マグシュラント王国に存在する魔力集積点を巡り、武具を作成していく。作業量そのものは多くなってしまったが、反面どのように作成するのかについては大筋でまとまっていたため、ユティスとしては精神的には楽だった。
アルガに十分な傷を負わせることができたのも大きい。彼の存在によって攻撃が通用することを立証することができたため、作成がスムーズにいくようになった。
その道中でユティスはマグシュラント王国内を見て回ることにする。魔力集積点は山中などにあるわけだが、中には町の近くにも存在する。そこの様子を見て、魔物がはびこっているのであれば対処するつもりだった。
結果として、町に存在していたアルガの魔物は消え失せていた。より正確に言えばアルガからの命令を受けることができなくなり、動きを止めた。どうやらアルガという司令塔がいなければ何もできない個体だったようで、魔力なども自ら吸収することすらなく、滅び去っていた。
よってアルガが消えた直後から魔物の姿は見かけなくなり、避難場所へ退避していた町の人間達が戻ってくる。とはいえアルガの虐殺から逃れた者はそう多くはない。町へ戻っても立て直すことは困難だろう。
「……どうなるんだろうな」
と、ユティスは遠方から町を眺めながら呟く。暮らしていた人が戻ってきたようだが、彼らは町の惨状に嘆いているように見えた。
「たぶん、避難所へ戻ることになると思う」
横にいるフレイラが告げる。
「町において生活基盤が破壊されてしまったし、しばらくは避難場所でライフラインを確保して活動することになると思うけど」
「それが無難か……組織の人も一応はいるし……ただ、今後も無政府状態とはいかないよな」
「そこはジュオンさんとかがなんとかするんでしょ。組織の長であるフーヴェイさんがどう動くかはわからないけど、まだ組織の構成員を動かしている……つまり『星の館』はジュオンさん達と連携して復興に協力していくと」
「それしかなさそうだね……暫定政府ができるにしても、どのくらい時間が掛かるのか」
マグシュラント王国という名称の国家は既に息絶えてしまったと言ってもいい。王を神と同義とするような場所であったため、その精神的な支柱が消え失せれば、自然と国家も瓦解する。
ジュオンを担ぎ上げて、というのも一つの方法ではあるが、彼自身王になるにしても神になることは否定した。
『そもそも器ではない。ただ、さすがに民衆で政治を行うなんて無茶もできない。お飾りでも王が存在すれば、まだ統治はできるが……どうであれ神という概念は捨てる他ないな』
そんな風にジュオンは告げた。自身が王家の血縁ではあるが、王族とは遠い人間であることも自負している。王を継ぐ者が彼だけであっても、さすがに違和感を覚える人間だって出てくるだろう。
『これからは普通の国家として、運営をしていくことになるだろう。とはいえ、執政を司っていた貴族達もあらかた消えてしまった。きちんと国家の機能を再生するには時間が掛かるだろう。今は生き残った人達と共に、日々頑張るしかない』
「……苦難が待ち受けるな」
ユティスは呟いた後、天を仰ぐ。
「ただ、その苦難の前にもっと厄介な戦いが待っているけど」
「ユティス、算段はつきそう?」
「動き回って武具を作成した結果、それなりに準備は整った。後は、本国がどうするか」
今回の戦いの結果などについてはロゼルスト王国へ既に報告はした。それが届いて各国に伝達されるだろう。
大天使との戦いはまだ残っているし、ユティス達がこの場で決着をつけるということも書簡にはしたためている。ここでどう反応するか。援軍が来るのか。あるいは、彩破騎士団に任せるのか。
「大天使と戦うにしても、ロゼルスト側からの連絡を待とうか。ラシェン公爵へ手紙を送ったし、それほど経たずして返信は来ると思うけど」
そんな風に会話をしながらユティス達はジュオンのいる拠点へ戻る。そこで彼から、
「ロゼルスト王国から手紙が」
差し出したのはフーヴェイ。組織のネットワークを経由してここまで辿り着いたようだ。
早速だなとユティスは思いながら宛名を確認。ラシェンからのものだった。すぐさま封を切り中を確認すると、
「……公爵もここに来るようだ」
「公爵が?」
「異能者を引き連れてくる……大天使との戦いだから、後腐れ無いようにってことかな」
心強い話ではあるのだが――戦力になるかどうかはわからない。
「場合によってはもう少し武具を作成する必要性があるかな?」
「さすがに援軍がどの程度かわからないし、それはさすがに無茶じゃない?」
「うーん、そうかもしれないけど……」
「彼らには援護役をやってもらうってことで。その方がいいし、何より攻撃役はまとめた方がいいよ」
「……彩破騎士団に?」
「ユティスだってそのつもりで武具を作成しているんでしょう?」
確かに――魔力集積点の場所などから、武具をいくつも作成するにしても限度がある。一つの集積点で一つしか作れない以上、援軍の異能者全てに渡すのは困難だ。
あるいは、マグシュラントを離れ他の場所で――というやり方も考えられるが、
「……公爵だって来るし、相談して決めるとしようか」
フレイラは小さく頷き「わかった」と応じた。
着々と準備が進められ、いつ何時戦っても良いような形になりつつある。フーヴェイの報告によれば大天使は魔力の揺らぎはあるにしても目覚めることはなさそうな様子。とはいえ、揺らぎがあるという情報だけで警戒するには十分過ぎる。
「……準備の速度は変わらない。フレイラ、明日には別の魔力集積点へ向かうから」
「ん、わかった」
フレイラの返事と共にユティスは自分の体を確認。まだ問題はない――もし倒れたらそれだけ時間のロスになる。
だから、大天使の戦いが終わるまでは――少しばかり不安を抱きながらも、ユティスは次の魔力集積点へ向かうべく、準備をすることにしたのだった。