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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
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滅びる使徒

 ユティスが構築した光の槍が、輝き視界を埋め尽くし始める。その中で感じられるアルガの魔力。彼の攻撃は脅威でありいつ何時槍の先端がユティスの首下へ来るか――不安の中で、それでもユティスは超然としていた。

 それは自分が不安になればそれだけで勝敗が決するという考えと、アルガという存在に真正面から立ち向かわなくてはならないという、強い確信からだった。


(追い込まれた以上、アルガはシンプルな動きしかできない)


 となれば至極読みやすい。実際、アルガが放った槍も直情的な刺突だった。


(けれど、これはこの国を……マグシュラント王国を壊した一閃なんだ)


 耐えられなければ、間違いなく自分が死ぬ。そういう予感を抱いたからこそ、ユティスはなおも魔力を放出し続ける。

 果たして自分に討てるだけの力を出せるのだろうか。魔力はまだ残っているが、それでも数分も経てば消費し尽くす。彩破騎士団の面々がアルガの行動を止めようと動いているはずだが、それでも彼の槍は鋭くユティスを狙い続けるだろう。


 その時、上空から濃密な魔力が発生したかと思うとアルガのいる場所に飛来した。それは天からの雷。ソウラの異能が、アルガの体を包み込んだ。

 彼の一撃は確かに決定打にならない。だが、足止めすることはできる。彩破騎士団の妨害では成されなかったアルガの邪魔を、彼の異能がとうとう果たす。


 今だ――と心の中で呟いたユティスは、限界まで魔力をメダルに注ぎ、槍を突き出した。直後、真正面が白い世界に包まれる。全てが一時純白に染まり、ユティスは体の感覚が一時途切れる――が、少なくともアルガの槍に刺されるなんてことにはならなかった。

 魔力で相手を確認した直後、槍の光が弾け視界が元に戻る。アルガは光の槍の衝撃によって数メートル飛ばされていた。なおかつ肩で息をしており、その体には深い傷跡が。


「……決着は、お前がということか?」


 アルガは問い掛ける。それは恐怖も警戒も余裕もなく、純然たる問い掛けだった。


「僕が最後の役目を担おうと決めていたわけじゃない」


 対するユティスは光の槍を再度生み出しながら答える。


「そちらの動きによって、僕が一撃を決める役割になっただけだ」

「戦略……か。俺はその全てを塗りつぶしてきたはずだった。いかなる策も、いかなる戦術も、全て破壊してきた。しかし」


 アルガは槍を握る。とはいえ先ほどと比べても魔力が落ちている。加え、再生能力も上手く働いていない。


「結局……俺は、国を滅ぼしても負けるのか」


 駆ける。だがユティスは既に準備を完了させており、光の槍が、アルガの胸部へ着弾した。

 直後、彼は握っていた槍を取り落とす。それはもはや槍を持つ力さえも、なくなってしまったということ。


「その力ならば、確かに大天使を滅することができるかもしれない」


 膝から崩れ落ちる。次いでその顔に、笑みがこぼれた。


「俺は……この場所に、自分が死ぬためにやって来た。大天使の力に侵食された俺は、少しずつ体が言うことを聞かなくなっている……自殺すらできず、圧倒的な力で憎悪を携え国を潰すことしかできなかった」


 アルガは述べると、視線を変えた。その先には組織の長であるフーヴェイがいるはずだった。


「この俺を生み出したことは、間違っていた。そうだな?」

「ああ。肯定しよう……君に背負わせてしまい、本当にすまなかった」

「ふん、その言葉で許されると思うな……と言いたいところだが、心のどこかで満足している自分がいるな。ああ、そうか」


 理解するように、アルガは天を仰ぐ。


「俺は、浸食されていく中で救ってもらいたかったんだ。もし誰かに謝罪されたら、それで終わっていたかもしれない……まあ、今になって言っても空虚かもしれないが」


 彼の言葉を、ユティスは黙って聞き続ける。


「異能者……お前は、千年という単位で暴れ回る大天使を滅するのか? その力で、この因縁に終止符を打つのか?」

「そうであって欲しい、と願っている」

「そうか……ああ、そうだな。確かにこんな世界狂っている。間違いは正さなければならない」


 刹那、アルガの体が崩れ始めた。人間が果てる姿ではない。もう彼は――


「終わりだ……ああ、終わりだ」


 最後にアルガは何かを言った。それは声にならず口の動きでしか読み取ることができなかったのだが、ユティスは礼を言われたような気がした。

 彼の体が霧散する。国を滅ぼした元凶。あまりにもあっけない終わり方だった。


「……礼を言うよ、ユティス=ファーディル」


 ジュオンが近づき、ユティスへ告げる。


「この国は……あまりにも多くの犠牲者が出てしまったが、それでもまだ、全てが消え失せたわけではない。マグシュラント王国は傍から見れば異様な国かもしれないが……それでも、国の炎は消えなかった」

「……復興は、険しい道のりだと思う」

「わかっている。ここからはこの場にいる者達が中心となって、再建していくことになるだろう……だがその前に、もう一つか」

「……大天使を、滅しなければ」

「だが、一年という期間がある。それまでにさらに入念な準備を進めるのか?」


 ジュオンからの問い掛けに対しユティスは一考する。そして、


「……どうするかは今後の相談次第で」

「それはつまり、場合によってはここで決着をつけるということか?」

「はい」


 ユティスの返事にジュオンは沈黙する。そのような答えは想定していなかったらしい。


「これはあくまで可能性の話ですけどね……時間をおいて準備をした方が可能性は高まりますし。ただ」

「ただ?」

「……大天使の出方次第かと思います。アルガがここへ来たことで何か変化があったりしたら」

「なるほど、確かにそうだな」

「まずはその当たりの検証をしようか」


 フーヴェイが近づいてきて口を開く。


「一両日様子を見れば、結論は出るだろう。そこはこちらで調査をする。任せてくれ」

「わかりました……まだ戦いは終わっていません。気を抜かないようにだけ、お願いします」


 ――アルガが滅び、歓声が上がってもおかしくない状況。けれどこの場にいる誰もが声を上げることがない。

 それはまだ戦いが終わっていないから――そうなのだと全員が認識しており、やがて一人、また一人と次の戦いに備えて行動を開始した。


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