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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
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終わらせる力

 動けないアルガに対し、彩破騎士団が問答無用で迫る。魔力が周囲に拡散し、誰が切り札を持っているのかまったく理解できない。

 アルガとしては、面倒極まりないに違いない。無論、全てが本物で自分を傷つける力を持っているとは思わないだろう。しかし複数あったらそれで決着がつくかもしれない――そう思わせて迷いを生み出すだけでいい。後は彩破騎士団が動く。


 先んじて仕掛けたのはアシラ。彼の剣が鋭くアルガの首下を狙う。それに対し相手は槍を反射的にかざした。本能的に急所は守るようにしている様子だった。

 剣は弾かれ、アシラは一歩後退する。今までのアルガであったならば反撃に転じてもおかしくなかった。けれど今度は入れ替わるようにジシスが近づいてくる。アルガはそれに注目し、アシラから視線を外した。


 ――これこそ、ユティスが望んだ形。ここまでの戦いで彩破騎士団の誰が切り札を持っていてもおかしくないと認識しているはず。であれば、誰の攻撃であっても警戒すべき対象となる。

 魔力が周囲に発せられている中で、誰が自分に傷を付けるのか。アルガとしては全てに意識を向ける対応を余儀なくされる。それは周囲に注意を向けると同時に守勢に回るということ。囲まれている状況下でそれは間違いなく悪手であった。


 とはいえ槍が強引に振り回されたりして騎士団の面々が負傷したら、それだけひっくり返るような戦況。アルガにはまだ逆転の芽は残されている。もし形勢が少しでも傾けば、今まで築き上げてきたものが脆くも崩れる。

 騎士団の面々もわかっているのか――いや、この場における全員がわかっているためか、油断など誰の目にもなかった。今ここで、作戦を遂行し勝利する。その一心だった。


「――っ」


 その時、アルガの視線がユティスを射抜く。絶えず彩破騎士団の者達が攻撃を仕掛けてくる。それを打ち払い、受け流しながらユティスを狙おうとしているのか幾度も目線が向けられる。


(まだ僕を倒すことはあきらめていない……か)


 ユティスは心の中でつぶやきながら、杖を強く握る。自分がここに立ち続けているからこそ、アルガは警戒している。一歩でも下がれば、こちら側が打つ手無しと判断してアルガが増長するかもしれない。


(まだギリギリの戦いだが……問題はここで深手を負わせられなかったら――)


 ユティスは静かに魔力を高める。もしこの攻防でアルガを倒せなかったら、最後は――そこまで考えた時、アルガの絶叫がこだました。


 フレイラの剣が、アルガの皮膚を切り裂く光景があった。彼女は即座に一歩退くと他の団員がカバーに入る。武器を交換する姿などは物理的にアルガの目から隠す。こんな動きは不自然であるため、下手すると怪しまれかねないものであったが、決戦が始まるまでに動き方についてはしっかり訓練もした。それが功を奏し、アルガは何も気付いていない。


(いや、騎士になるための訓練とかを受けていない以上、動き方で相手の出方を推測するなんて、さすがに無理か)


 全て自らの力だけで国を滅ぼした。けれど必要なかった知識を持っていなかったが故に、この戦いで苦戦を強いられている。

 そして今度はアシラの剣がアルガを捉えた。フレイラ以上の勢いを伴った剣戟は、相手の背中を深々と抉ることに成功する。


(再生はできる……が、さすがに内蔵にまで達したら、短時間で修復は無理だろう)


 実際、アルガの動きが目に見えて遅くなった。再生しようとしている様子だが、そちらにリソースを注げば大きな隙ができる以上、できずにいる。けれど再生を始めなくとも攻撃を受け、敗北する。

 どちらをとってもアルガにとっては地獄――ユティスは杖でコンと地面を叩いた。それは合図であり、仲間達に畳み掛けるという意味合いのものだった。


 負傷し、再生も追いついていない。さすがに急所を抉られれば再生もロクにできないまま倒れ伏すはずだ――ユティスはそう判断した。果たしてタイミング的に問題はなかったのか不安ではあった。けれど、頭も混乱し負傷もした今が最大の好機。

 しかしそこまで追い込んだことで、アルガは予想外の行動に出る。


「――まだだ」


 痛みを堪え、脂汗が滲むアルガの口からそういう呟きが発せられた。同時に槍を構え、鈍くなりつつあった体を奮い立たせ、走る。狙いは、ユティス。

 脇目も振らずユティスへ仕掛ける。それがどうやら答えのようだった。ただ、問題はユティス達にとってやや想定外の動きであること。


(強引に……もしかすると痛みを誤魔化すために手近な目標を定めただけかもしれない)


 しかしこれは有効な一手だった。防御の結界は既に消失し、周囲の騎士を守るべく行使されている。加え、手元に切り札はない。ユティスはアルガに迫られたら、迎撃する術はない。

 だが――ユティスはここで悟った。そうだとしても、逃げるわけにはいかないし、また同時に自分が。自分こそが決着をつけなければいけないと。


 彩破騎士団の面々はそういうユティスの判断を理解したのか、速やかに動いた。アルガの背を単独で狙うようなことはせず、ユティスのバックアップをするべく動き始める。アルガが迫る中でまずジシスが相手を阻んだ。しかしそれをアルガは咆哮を上げながら槍を振りかざし、押し通ろうとする。

 ジシスとしては本気を出されたアルガに対し、耐えることは難しい――が、受け流すことは可能。彼が前に出たのはあくまで時間稼ぎ。ユティスがメダルを受け取り、切り札を行使する準備が整うまでの目くらましだ。


 即座にユティスは魔法を発動させる。切り札を用いたその魔法は、以前から使っていた光の槍に形状を変えるのだが――魔力が異質だった。正真正銘、全てを終わらせるだけの力を秘めている。


(僕が作成した武具だからこそ、僕自身相性が良いというわけか……)


 あるいは、自らが生み出した武具であるために魔力の制御も容易なのか。アルガがジシスを弾き飛ばし迫る。その時の表情は、痛みを堪えながら――苦痛に喘ぎながらのもの。彼はもう、余裕がない。

 だからこそ――ユティスは右腕をかざす。アルガの槍と自分の槍。どちらが上か――両者が放たれたのは、まったくの同時だった――


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