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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
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心の摩耗

 心理戦を含めた攻勢により状況が有利に傾く中で、それでもユティスはどう動くかを必死に考えて次の手を決める。アルガは雄叫びを上げながらジシスの剣を槍で弾く。そこで彩破騎士団の面々は距離を置き、次誰に武器を渡すかを決める。


(一応、目論見は成功している……はずだ)


 アルガの目には迷いがある――その理由は幾度となく切り札により傷を受けたため。しかも彩破騎士団の面々が次々と攻撃を仕掛けている。これは複数武器があるものと推測しているはず。

 切り札による同時攻撃がないため、そこに気付けばアルガは切り札が一つしかないと察することもできる。けれどユティスはそんな風に結論付けるのは厳しいだろうと思った。この状況下で、自分が負傷している中、断定はできないはずだ。


 そこでユティスはアルガを観察。憤怒の形相を見せる相手は、

「……そうやって、少しずつ削っていくつもりか?」

「再生するといったのはそちらだろう?」


 ユティスは淡々と応じる。会話をする間にもアルガから魔力が生まれ、傷口が少しずつ塞がっていく。

 痛みにより動きが鈍るのであれば再生速度を上げればいいはずなのだが、アルガはそれをする様子がない。おそらくそちらに集中すれば必然的に攻撃が疎かになる――現状を考えればその一手は致命的だ。


 ならば次は――アルガは槍を握り締める。次いで、


「ああ、理解した……全て理解できた」


 呟くように。それでいて、言い聞かせるように。


「だから俺の答えは……これだ」


 駆ける。がむしゃらに、ただユティスだけを見据え、突撃を敢行する。


(来たか……!)


 同時にユティスは心の中で呟いた。

 ユティスがこの場における司令塔であることはアルガも深く認識したはず。よって次の行動としては指揮官の打倒。切り札が本当に一つなのか複数なのか不明ではあるが、そこがわからなくとも指揮官を失えば確実に浮き足立つ。だからこそ、この手で来た。


 しかし、ユティスは無論想定している――とはいえ、対抗策は確実に通用するかわからないもの。


(けど、この判断をさせたのは追い込んでいる証拠……だから――)


 ユティスは握り締める杖でコン、と地面を打った。刹那、ユティスの真正面に結界が構成される。

 アルガからすれば、その程度の障壁で――と思うところのはずで、アルガは実際に結界など存在していないかのように突っ込んでくる。


 そして槍を――直後、結界と槍がぶつかり合い、魔力が拡散。金属を打つような轟音が鳴り響いた。

 凄まじい魔力の衝突だった。ただ、結界はアルガの攻撃を防ぐことに成功し、槍は――弾かれた。


「馬鹿、な……!?」


 絶対の自信を持つ一撃だったはずだ。しかしそれを防がれた。


「……僕を狙ってくることくらい、予測済みだ」


 ユティスはアルガを真正面から見据えながら、告げる。


「だからこその、対策だ……他ならぬ僕が切り札を作り上げたんだ。このくらいはやってのけると推測はできただろ?」


 ――実際は、防具の力を利用して結界を構築しただけだ。この結界そのものもオズエルが構築しているもので、杖で打ったのはあくまで単なる合図に過ぎない。

 しかし、アルガにはユティスが結界を生成したものだと認識したはず。状況を考えればそうではない可能性も、彼の精神が普通であったのなら、察することができたかもしれない。


 彼は気付いているだろうか。確実に視野が狭まり、目の前の状況しか考えられなくなっていることを。


「ちいっ!」


 だが、アルガは負けじと槍を振った。二度目の斬撃も凄まじい魔力が衝突し、結界を軋ませる。だが、破壊には至らない。

 あと幾度耐えきれるだろうか――ユティスは内心多少なりとも不安はあったが、それでも表情だけは変えない。ここで弱みを見せれば確実にアルガの精神は元に戻る。そうなってしまえば、非常に危険な戦型になる。


 三度目の斬撃。けれどそれでも壊れない。


「こ、の……!」


 ここに至りアルガは選択に迫られた。結界を破壊するべくさらに攻撃を繰り出すのか、それとも一度退却するべきなのか。アルガとしてはせめて魔物を生成できれば逆転の芽はあるはずだ、と考えたかもしれない。実際、彼の視線がユティスの杖などに向けられた。目の前の人間さえ倒すことができなくとも、杖さえどうにかすれば――そういう思惑があるのは間違いなかった。


 退避か、攻勢か――アルガは再び槍を振るった。破壊する選択をとった。ここも正常な心理であれば、無理はせず引き上げてもおかしくない。


(だが、アルガは攻撃を選択した……追い詰められているんだ)


 人はパニックになれば思考が狭まる。周囲の状況を把握する能力が減少し、目の前のものを片付けようとする。戦場でもそうだ。精神的に余裕があれば周囲を見回し危険な場所などいくらでも考えられるし、最悪のケースなどを想定して行動することができる。けれど、追い詰められたら――最後の最後で無策な突撃を選ぶことだってあり得る。


 心理戦を選択したのはアルガにそういう思考をして欲しかったからだ。魔物の生成を封じられ、自身の攻撃が通用しない状況となった。その上で、傷を負わせることができる。いかなる異能でさえも防ぎきったアルガはまさしく無敵だが、逆にその無敵が通用しなければ、心が摩耗していく。訓練を受けていない者の弊害とも言えた。

 アルガはさらに槍を振るう。だが結界は一向に壊れない。軋んだ音を上げているのは事実だが、破壊まではまだまだ遠いように思えた。


「く、そ……!」


 悪態をつきながらアルガはここでようやく後退を選択した。一度態勢を立て直す――そう思いながら足を後方に転じようとした。

 だが次の瞬間、足が止まった。理由は明白。後方では既に準備が整っていた。


「……な」


 圧倒的な魔力。囲んでいた騎士達の力がさらに増し、切り札の存在を一層覆い隠す。


「……決着をつけよう、アルガ」


 ユティスは準備が完全に整ったのを悟り、相手へ告げた。

「これで終わらせる……マグシュラント王国の中で果てていった者達の、報いを受ける」

「……ぐ、う!」


 唸り、怒りをたぎらせるアルガ。それと同時、彼は槍の切っ先をどこに向けて良いのかを見失った。

 直後、彩破騎士団の面々が走る。ユティスは結界越しに、決着がつくと悟りながら、杖を強く握り締めた。


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