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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
393/411

望んだ戦型

 再びアシラが走り出そうとする。だがアルガはそこですかさず槍を彼へとかざし、


「……驚きはしたが、それまでだ」


 言いながらアルガは呼吸を整える。同時にその傷が少しずつではあるが、再生を始めた。


「傷を付けることができる……だが俺は進化する存在だ。そうであればこの戦いで学習……対応できるだけの能力を発揮すればいいだけの話。加え貴様達が俺を殺すには、それこそ切り札を当て続けなくてはならない」

「そうだな」


 ユティスは淡々と応じる。再生能力や進化について。そこはもちろん考慮している。


 まず進化についてだが――ユティスが作成した武具、メダルの特性は大天使が持つ攻撃能力を付与したもの。それを進化で傷つけることができなくなる――あり得ない話ではないのだが、ユティスとしてはそこについて懐疑的だった。


 確かに進化する能力は厄介だが、そこにも間違いなく限界はある――大天使の能力を超えた進化はしないだろうというのが、ユティスの見解だった。

 よって、大天使自身が持つ攻撃能力を超えることはおそらくできない――無論確証があるわけではないが、他ならぬ大天使そのものに基づいた力である以上、アルガ自身が解析して、というのは厳しいという結論に至った。


 アシラはジリジリとアルガへ接近するが、それを警戒し、


「腕は確かのようだが、俺の力一つで全てが覆る」

「そうだな」


 ユティスは同じように応じた後、手をサッと振った。

 直後、周囲の騎士達が一歩前に出る。その手には剣や槍なのだが――


「……何?」


 アルガは気付いたはずだ。そこにはアシラが持つ武器と同じような魔力を込められていることを。


「さすがに一つではないさ……切り札という言い方は正解だけど」


 ユティスはアルガへ宣言する――とはいえこれはブラフだ。

 無論のこと、ユティスが創生により得た切り札は一つ。それを組織の面々が魔力の質を解析し、模造品を作り上げた。当然ながら殺傷能力は存在しない。


 コピーとはいえ、組織の協力がなければ作ることはできなかった。アルガとしては周囲の騎士を警戒する必要性が出てきたため、憎たらしいことだろう。

 もちろんこれがブラフであると看破したとしても、ユティス達にはもう一つ手がある。というより、この策の本質的な部分は別のところにある。


「……なるほど、少しは考えたか」


 アルガはあくまで冷淡に、言葉を紡ぐ。


「俺を傷つけるだけの力を持つ武器が複数とは……と、驚くべきところか?」


 ユティスは何も答えない。


「そもそも周囲の騎士達が俺へ向かってくる勇気があるとは思えん……だから、答えはこうだ」


 アルガはアシラへ接近しようとする。今度こそ容赦なく、反撃を受ける考慮など考えず、愚直な力技で蹂躙すべく槍を構える。

 しかし当の彼は既に大きく後退していた。気配を発することなく距離を置いている姿を見てか、アルガは訝しげな視線を送った。


 とはいえそれは、周囲の魔力に気を取られていたから――そう考えたようで、アルガは構わず次の標的をユティスへ定めようとした。その時、

 ユティスの背後より魔力が発生。アルガがそれを認めた矢先、彼へ一本の光の矢が――突き刺さった。


「なっ……!?」


 それと同時に彼は呻く。理由は明白。胸部へ突き刺さったその矢は、しかとアルガの皮膚を抉っていたからだ。


「ブラフかどうかは、自分の目で確かめてみればいい」


 ユティスはそう応じると、アルガはにらみ返した。しかし先ほどまでの眼力はない。

 どういうことなのか――とはいえやったことは大したものではない。アルガが周囲に気を取られている間に、アシラがメダルをティアナへ渡し、彼女が矢により攻撃した。ただそれだけである。


 とはいえ早業であるのは間違いない。アルガからすればメダルを受け渡しているようには見えないだろう。

 模造品を用意したのは、魔力をかく乱して本物がどこにあるのかを判別できなくするためというのも理由に入っている。アルガは訓練を受けているわけではないため魔力を知覚する能力などが低い。そこに狙いを付け、どこに本物の武具があるかわからないようにしたのだ。


 アシラからティアナへの受け渡しは迂回したにしろ魔力を探知しているのであればある程度追跡することはできた。しかし混乱と魔力を知覚できない鈍さから、今回のように受け渡しが可能だったというわけだ。

 こうした戦っていることで、ユティスは一つ確信する。アルガは暴虐の力を持ってこのマグシュラント王国を崩壊させた。しかし、付け入る隙はある――いや、弱点は多種多様に存在する。


 それに気付くことができなかった王国は、全て失ってしまった。ただユティス達がこうした作戦を組むことができたのは、この国が崩壊したことによって得られた情報から。ユティス達が戦えていれば、という前提はあり得ない。


「ぐっ……!」


 アルガは小さく呻きながら周囲を見回す。矢を撃ったティアナについては捕捉しているようだが、周囲に注意を向けており、そちらへ集中できない様子。

 だが、この時点で既にメダルは移動している。アルガがそれに気付いている様子はなく、彼はただ周囲を警戒するだけ。


 騎士達の中に、自身に傷を付けることができる力を持っているかもしれない――そう考え、槍の先端が下がっている。守勢に回すことはできた。もっとも、ここから調子に乗って追い込めばどうなるかわからない。

 ユティスはさらに次の一手を繰り出すべく、指示を送る。彩破騎士団にとって、もっとも望んだ戦型。それは心理戦に持ち込むこと。


 アルガが負ける可能性があると認識した直後、ユティス達に勝機がある。ただこれでようやく五分。アルガの動きが鈍くなっているからこそ勝機が生まれているのであり、この状態を維持しても未来はない。


(ここからだ……一手でも間違えれば、負けると考えろ)


 どういう風に戦うかは頭の中に叩き込んでいる。しかし、それをなぞるだけでも勝てない。ここからは、騎士団としての力も必要になってくる。

 アルガが想定外の行動をとっても、対応できるように――ユティスは呼吸を整える。そして息を吐き終えた後、次の一手を打つべく騎士団のメンバーが動き始めた。


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