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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話

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わずかな休息

 アルガは組織から出ると、木陰で座り込み大きく息をついた。


「やれやれ……」


 その声は、苦行を終えたもの。ようやく太陽の光を浴びて、大いに呼吸をすることができる。

 アルガ自身、大天使へと変じつつある中で人間の感覚を失いかけているのは確かだったはずだが、こと今回については五体投地して自分がまだ人間であることを理解する。


「生きているという実感があるのは収穫だが……ふん、だからといって感謝するような気にはなれないが」


 言いながらアルガは組織の入口へ目を向ける。開放されたため、組織内に存在する魔力も徐々に漏れ出している。密閉空間であるが故に効果を発揮していた罠なので、直にその効果を失うことになるだろう。

 アルガは無防備な状態で周囲に目を向ける。握り締めていた槍も投げ出しており、今攻撃されれば防御することもできない。しかし、敵の攻勢が来ないことは予想済みだった。


「奴らは俺の特性を事細かに理解しているからな……通用しないとわかっているはずだ」


 そう、わかっていたはずなのだ――とはいえそれは果たしてどこで知り得たのか。もし最初から詳細を知っていたとすれば、組織の人間は国側と連絡をとって相応の対策を立てていたはずだ。

 もっとも、その対策すらもはね除けることができる能力を所持しているが――そこでアルガは大きく息を吐く。


「さて、どうするか」


 目的の物は手に入れた。元々この国中をくまなく破壊し歩き回っていたのは探し物を手に入れるためだ。その目的を達成した以上、次にやるべき事は一つ。すなわち、大天使の解放だ。

 自らの手で解放できれば、この世界は二度と立ち直ることはできないだろう。ただし、問題はアルガ自身のこと。解放するのはいい。だが大天使は自分のことをどう思うのか。


「ま……いいか、どちらでも」


 それは死んでも構わない、という意味合いのものだった。いずれ自我が喪失して大天使という存在になる。その恐怖を知る自分からすれば、さっさと殺してくれと思う。

 そう――自分はそういうことを無意識の中にでも思っている。いずれ、消え去るのであればそれより前に、始末してくれと思っている。


 そういう存在を探すために歩いたのもまた事実だった。結果は――途轍もない異能者と戦ったが、最後まで無傷で終わった。もはや自分を止められる存在は誰もいない。

 人間で殺せないのならば、大天使に頼るしかない――ならばもし、同胞として認められたのであれば、どう思うのか。


「……はは」


 その時、アルガの頭の中には思いも寄らぬことを考えた。もし大天使が同胞とみなしたのであれば、自分は大天使に干渉できるのではないか。もしそれができるとしたら、ひょっとすると大天使の目的などの書き換えなども可能ではないだろうか。

 そうなったら、世界を救えるのは自分自身――と、そこまで考えて荒唐無稽だと嘲るように笑った。


「仮にそれができたとしても……やる必要はないな。いや、やってやるものか」


 吐き捨てるように呟いた後、アルガはゆっくりと上体を起こす。疲労は抜けていない。回復するにはまだ幾ばくの時間が必要だ。


「さて、あらかた候補らしい候補は全て調べ回ったはずだが、それでも大天使を発見することはできない。となれば、どこに隠しているのか」


 見逃していた場所はどこか。アルガはマグシュラント王国の地図を頭の中に浮かべると、考察を始める。

 とはいえ大天使が復活するまでそう長くはない。例え見つけられないにしても、この国にいれば終末を最初に迎えることができる。


「とはいえ、もしやるのなら自らの手で……だな」


 声を発すると同時、放り投げた槍を引き寄せ、握る。ずっと力の限り握り締めていたが、痛みはない。


「考えられるとしたら、幻術の類いか。どうやら組織の人間は幻術が通用するらしいとわかった上で、罠を仕掛けていたはずだからな」


 そうであれば、今まで訪れた場所にも可能性がある。とはいえアルガとしては頭を悩ます状況ではある。

 幻術の効果は組織の施設を出るまでずっと続いていた。つまり幻術については延々と効果が受け続けていたことになる。


「大天使の体が害意がないと判断したか……まあ視界を変えるだけだからな。この魔法がある場所の対処法としては、真実なのか偽物なのか、これで確かめる他ないか」


 槍を掲げる。目の前に壁があっても槍で振り払えば判断はできる。ならば、それによって今度はくまなく探すことにしよう――そう心の中で呟くと同時、アルガはようやく立ち上がった。


「奴らは準備を進めているのか……それとも、ただ震えているだけなのか」


 いや、とアルガは自身の考えを否定する。しつこい連中である以上は、どこかで再び策を講じて対抗しようとするだろう。それが自らバケモノを作りだしてしまった罪滅ぼし――などと考えるかどうかは不明だが、処理しようと動くのは事実。


「考えられるとしたら、生き残った王族連中と手を組むか……そして」


 異能者達――アルガはそこで悟る。次に相まみえた時、間違いなく決戦となるだろう。


「もし次で決着がつくのであれば……そこにおそらく大天使がいるはずだ」


 根拠としては大天使が鎮座している場所こそ自分から守らなければならない場所だと思ったため。そこに防備を固め、戦いに備える。そう考えるのが妥当だった。


「完全に体調は戻っていないな……まあいい。もう少し休むとするか」


 ようやく目的を成し遂げたのだ。つかの間の休息くらいは許されるだろう。

 問題は果たして、どこまで時間があるのか。大天使が復活するまでに自分の理性が残っているのかわからないが――


「……願わくば」


 アルガはどこか、祈るように告げた。


「願わくば……俺の理性が消え去る前に、大天使に会いたいものだ」


 それが今の望みとなった。それを果たすために――アルガはこれからのことを考えながら再び横になって目をつむる。

 このまま少し眠ろう――時折、アルガは夢を見る。それはどうやら大天使達の記憶。兵器であったことを考えれば、記録と言うべきものか。


 それを思い起こしながら、アルガは眠りへと落ちる。その寝顔は、虐殺を繰り返してきた存在とは思えないほどに安らかなものだった。


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