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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
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組織を継ぐ者

 ユティス達が準備を進める間に、アルガに関する情報を集める。どうやらまだ入り込んだ場所から抜け出せていない――加え、


「仮に抜け出したとしても、さすがにアルガも休息が必要になるだろう」


 と、フーヴェイはユティスへ見解を述べる。場所は廊下。


「膨大な魔力を削っているわけだが、日を重ねるごとに力を奪い取っていく……進化する存在である以上、対抗策を生み出すだろうが、攻撃を防ぐにもやはり魔力がいる。外に出てきた時、消耗しているのは間違いない」

「外に出た後、回復に専念すると」

「そうだ。逆に言えばそれだけの余裕がまだあるというわけだ……時間にして、そうだな。十日まではいかないにしろ、それなりに時間を稼ぐことができるだろう」


 フーヴェイはそう述べると、腕を組む。


「幻術が通用するというのは値千金の情報だった……が、幻術が仮にアルガへ牙をむけば彼は進化により幻術を克服するだろう」

「敵意が進化に結びつく……か」

「それで、言っていた武具は完成しそうなのか?」


 フーヴェイからの問い掛けに対し、ユティスは一拍間を置いた。


「……数日後に、魔力集積点へ向かいます。現状ではアルガが襲撃してくる可能性は低い。その間にやってしまおうという形です」

「武具が通用するかは未知数だが、目処は立っているわけだ」

「そうですね……そして、アルガを倒した後のことも考慮しなければいけません」


 その言葉にフーヴェイはユティスを見据える。


「大天使そのものを……武具で倒すことも考えていると?」

「理想はそこです。大天使を封じている器の解析もできました。加え、大天使を打ち破るだけの武具もできるとしたら……」

「復活する前に、片付けると。なるほど、組織も潰え戦える異能者がほんのわずかという現状では、もはやそれしか手段はなさそうだ」

「賛同してくれるんですか?」

「消去法だが。他に手がない以上、先手を打つというのは賛成だ。もっとも、こちらが文句を付けたところで代替案の一つもない以上、私から何か言える資格はないな」


 そう言うと、フーヴェイは苦笑いを見せた。


「異能者……それらを統括する組織。その中で大天使との戦いのことを知るこの異能は、まさしく特別なものだと教えられていたし、この異能を手にした時は歓喜に打ち震えもした」

「……あなたは、どういう形で組織に?」

「多くの場合、組織の関係者の子孫が引き継ぐ形となる。そうすることで組織の重要性や、異能についての理解が早まることに加え、秘密の漏洩も防ぐ」

「なるほど……」

「そういう風に教育を受けてきた。アルガという存在は、それによって生み出されたバケモノだと考えてもいい」


 ユティスはフーヴェイの表情を窺う。それはどこか、苦々しいものだった。


「歴史を知るものだからこそ、わかっていた。大天使との戦い。それに勝つことは不可能だと。過去をわかっているが故に、絶望的な状況であると理解できてしまった。他の者達とは違う……全てをわかっているため、方法を模索した」

「その成果がアルガだと?」

「組織の者達は、誰も止めなかった……いや、止める者がいなかった。どうあがいても勝てない戦い。だからこそあらゆる手を考えなければならなかった。その中で、辿り着いた結論が……アルガという存在だ。彼を当て馬にして、大天使と戦える存在を生み出す」


 限りなく、確率の低い賭けだったはずだ。ユティスが発言しようとすると、フーヴェイは手でそれを制した。


「理解できている。今思えば、そんなことをすれば逆に大天使に勝てる可能性は低くなる……しかし、その時組織の者達は誰一人として否定しなかった。というより、否定できる材料がなかった」

「『星の館』という組織も、千年経過して劣化していたのかもしれませんね」


 やや辛辣にユティスが評すとフーヴェイは「まさしく」と答えた。


「そうだ。それで間違いない……世界は大天使により千年前より文明は後退した……こう言えば君達は不服かもしれないが、歴史を知る私からすればそういう認識だ」

「僕は遺跡について知っていますから、その認識で良いとは思いますよ」

「そうか……その中で私達は……私達の組織は、何も変わらないと思っていた。全てを知る異能者がいる。だからこそ、変わるはずがないと思っていた。その結果、自分達の考えが正しいと、盲信した」


 フーヴェイは自身の両手を見やる。その顔には、苦悩があった。


「大天使により、世界が滅ぶ……その前に、私達はこの国に救いようのない悲劇を与えてしまった。間違いなく、私達のせいだ……とはいえ、異能者と戦い続けている君なら、今更という話か」


 ――ウィンギス王国との戦いもある。場合によっては異能者同士の衝突により、マグシュラント王国と同様に甚大な被害が生じる危険性もあった。


「自分達が正しいと思っていた……大天使を倒すためにはこれしかないと。しかし、結局のところ全てはまやかしだったというわけだ」


 息をついたフーヴェイは天を仰ぐ。


「大天使との戦いについては見届けさせてもらう。その後、どうなるかは……君達に委ねることにしよう」

「重罪人として差し出されても、構わないと?」

「そのくらいのことはしている、だろう? 間接的であっても私達組織の人間は大量虐殺者だ」


 ――もしかすると、この場所には自分達の処遇を任せるために来たのかもしれない。

 ユティスはそう結論を導き出した後、フーヴェイへ口を開いた。


「どうするかは……正直、今のところわかりません。けれど、少なくとも大天使との戦いが終わるまでは……協力してもらいます」

「ああ、わかっている。私達にとって大天使打倒だけが存在意義だ。そこだけは、絶対に曲げることはない。約束する」


 ユティスは神妙に頷く――そして、改めてフーヴェイへ告げた。


「僕達が外に出ている間、アルガの監視を頼みます」

「彼の状況がすぐに報告できるよう、手はずも整えておく。そこは心配しないでくれ」

「もしここにアルガが来たら……」

「やれることは少ないが、逃げずに戦うさ。見届けることも私達の責務だからな」


 死に場所を求めているような、そんな雰囲気さえ見て取れた。けれどユティスは、


「……自ら死を選ぶような真似だけは、しないでもらいたい」

「ああ、君達に従おう」


 その言葉にユティスは「お願いします」と念押しをする――決戦までは、もう残り時間は少なかった。


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