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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
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ある覚悟

 組織の長、と聞いてフレイラは内心驚きつつ、


「そういう人物は真っ先にアルガに狙われるものかと思っていたけど……」

「技術施設そのものが隠蔽されていたからな。外部の情報を聞きつけ嵐が過ぎ去るまで施設内に閉じこもっていたが、食料などが枯渇したことで、外に出てきたらしい。つまりこちらに保護を求めてきた、というわけだ」

「人数は?」

「まあそれなりだ。この土地ならば十分賄えるくらいの食い扶持が増える程度で、影響は軽微。そしてアルガは北へ向かったと言ったが、彼らがいた施設を誘導したようだ。アルガはそれに乗るのか個人的には微妙だと思ったのだが……どうやらアルガの狙いの一つがその技術施設だったらしく、まんまとそちらへ向かっているわけだ」

「つまり、その場所に大天使がいるとアルガは考えている?」

「どうやらそういうことらしい。施設は隔離されていたが中の人間が外に出たことで魔力も漏れ出てしまった。組織の長はそれを十分に理解し、近くにアルガがいないことを確認してから施設を開放。こちらに助けを求めなおかつアルガを誘い込んだ。大天使の居所はわからないにしても、それを管理する者がいることは国との交流によりわかっていたようで、私の配下に接触してきた形だ」

「事情はわかったけど……技術施設、だっけ? そういう場所なら研究者とかが多いのかな? 戦力にはなりそうになさそうだけど」

「現状『星の館』に戦力を期待するのは無理だ。組織の長については異能者なのだが、彼は戦闘能力をもたない『全知』の異能者だからな」

「……異能者なの?」


 組織内に異能者がいたという情報はこれまでなかったので、フレイラは少し驚く。


「ああ、組織唯一の異能者……とはいえ説明を受ければこの異能を所持しているのは当然だと思うだろう。なぜならその『全知』の異能は、二千年前からの歴史を全て知る、という異能なのだから」


 なるほどとフレイラは思う。確かに組織にそういう人員がいなければ、大天使などの情報が正確にはならない。


「この異能者だけは、絶対に残さなければ対策すら立てられなくなる……ということで、この異能だけは様々な研究の結果、この世界の人間間で継承できるような仕組みにしたらしい。ただしこれは『全知』の異能。わかっていると思うが、継承した者は魔力に関する技能をほぼ失い、戦闘能力は皆無となる……長い歴史を事細かに知ることは、それだけのリソースを割くという話なのだろう」

「理解できたけど……彼らと協力するの?」

「そこは不明だ。組織の長が有益な情報を保持していればいいが……」

「それに、アルガを誘い出せたのは確実?」

「ああ、そこは間違いない。私の配下もアルガの進路は確認できている」


 なら、まだ余裕はありそうだが――


「技術施設というのがどういう場所なのか興味はあるが……組織の長はそこに仕掛けを施して誘い出した。アルガを倒せるような罠を用意した……とのことらしいが、そこについては期待しない方がいい。こちらは粛々と準備を進めよう」

「そうね……組織の長が来るのはいつ?」

「数日後だ」

「なら、もし良かったら私やユティスも話し合いに立ち会いたいのだけれど」

「そこはむしろ当然だな……それと、ユティスさんについては山を登り切って迷い無く目的地へ向かっているようだ。魔物の姿も確認できないため、警戒は必要だが無事に戻ってこられるだろう」


 それは良かった――と思っているとジュオンは「それでは」と述べ、立ち去る。フレイラはどうするのか――少しの間考え、周囲を見回す。


「情報は、多ければ多いほどいいかな?」


 先ほど農夫と会話をしたことで、この場所の特殊な事情についてきちんと理解していることはわかった。ただ、大天使にまつわる有益な情報はなかったわけだが――


「少し地形を調べてみるか」


 とはいえ、山に囲まれたこの場所は平坦な盆地であり、見回すのはそう難しくない。

 地図上で確かめるのもいいが、一応実地で目を通しておくべきか――と思い、畑のある城の背後を進む。


 川などは自然にできたものではなく、きちんと整備されたもので、治水などもしっかり成されている。農作業そのものは自国のやり方とほとんど変わっておらず、何か特別なやり方などがあるわけではない。


「そういえばここは、魔力を地底から吸い上げているんだっけ。その辺りで作付けにどのくらい影響が出るんだろう?」


 もしかすると、ここの土地などに調べたら大天使関連とは別に面白い話になる可能性もあるが――フレイラはそこで思考を止めた。


「この国へ再度訪れるかどうかは微妙なところだし……」


 もし大天使まで打倒することができたのなら、ジュオンが王となるのだろうか。この場所も大天使が消え去ればお役御免となるはずだが――


「すみません」


 また別の人物に声を掛ける。今度は女性だった。


「はい、いかがしましたか?」

「色々とこの土地のことについて聞いて回っているのですが」

「そうですか。私が知っていることならお答えしたいのですが、専門的なことは何も知りませんよ?」

「構いません。あの、事情は把握されているのですよね?」

「はい。大天使様のこと、そしてマグシュラント王国が危機に陥っていること」


 やはり基礎的な情報は共有されている。ならば、


「あの、ぶしつけな質問ですが……例えば大天使が消えたら、この土地はどうなるのか聞かされてはいますか?」

「大天使様が……いえ、そこについてジュオン様はお話しされていませんね」


 ――その戦いで死ぬという覚悟か、それとも大天使が覚醒すれば、この土地などひとたまりもないと考えているのか。

 あるいはジュオン自身、そうした覚悟を持っておりその先のことまで考えが回っていないのか――理由はともかくとして、彼は大天使と戦うまでのことで手一杯らしい。


「そうですか、ありがとうございます」

「いえ、何かご質問があれば遠慮なく」


 笑顔で語る女性にフレイラは「はい」と返事をして、歩き始める。

 この場所について、事情の一端を知ることはできた。確実に言えるのは、アルガが出現したとしても恐慌に陥る可能性は低い――不思議ではあるが、誰もが死ぬ覚悟を持っているのは間違いないようだった。


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