最後の異能者
作業を終えたユティス達は次に、異能者へと会いに行く。とある個室をジュオンと共に訪れる、そこに男性が一人いた。
「ジュオンさん」
「無事で何よりだ、ソウラ」
ソウラ、と呼ばれた男性は小さく礼を示した。
見た目は茶髪で黒い瞳を持った二十代くらいの男性。現在はローブ姿でユティスと同じように魔術師スタイルではあるのだが、どこか頼りない――いや、より正確に言えば戦士としての風格がない。
「……魔術師、ではないですよね」
ユティスが問う。それに対しソウラは苦笑し、
「はい、私は元々農夫です」
なるほど、とユティスは思う。そもそも異能者は在野にいる人にも宿る。それを考慮すれば戦闘経験がない人物に能力が渡ってもおかしくはない。最強の異能を彼が得てしまい、なおかつそれを発見したのはかなりの偶然が重なったのだろう。
ここでジュオンがソウラにユティス達の紹介を行う。彩破騎士団のメンバーがそれぞれ自己紹介をした後、ソウラが改めて語り始めた。
「私の名はソウラ=デューラ。先ほど語った通り元々このマグシュラント王国で農夫をしていた者です。異能を発見できたことについてはまったくの偶然であり……結果として、国に召し抱えられることとなりました」
彼の口上には色々と含んだような――善悪様々な出来事があったのだろうと察せられる。
「そして、現在この国で唯一生存する異能者でしょう……皆様のお力、真に感謝致します」
そう告げて礼を示すソウラ。そこでユティスは一つ質問を行った。
「その、騎士としての訓練などを受けていないんですよね? あの、大丈夫ですか?」
戦えるのか、というニュアンスを含んだものであったのだが――ソウラは意図を理解したらしく、
「戦場を目の当たりにして戦えるのか、ということですね」
彼は語る――戦闘経験をほとんど得ないまま異能者として戦う以上、精神的にもきついはずだ。
特に彼の場合は資料によれば味方を巻き込んでアルガを攻撃している。その重さに耐えうるのか。
「……正直に言えば、この城へ逃げ込みアルガとの戦いを思い起こし、手が震えています……しかしそれはアルガという存在に対し恐ろしさを感じているのではなく、私の異能によって多くの犠牲者を生んでしまったことに対するものです」
そう語った後、ソウラは遠い目をした。
「加え、アルガが騎士達を葬り続けた光景を見続けた……きっと、非常事態であまり感じていませんが、心が摩耗していてもおかしくはない」
「仕方のないことだ。そもそも騎士であっても、あの戦況では恐慌に陥る」
ここでジュオンがフォローを入れる。
「戦線を支え続けたのは、ひとえに狂信的な王への忠誠からだ……農夫であったソウラにそれを期待するのは、いくらなんでも酷だ」
「お気遣いありがとうございます……しかし彩破騎士団の皆様。戦う覚悟はできています。私が逃げればこの国は、完全に崩壊するでしょう。あなた方は……外部の人々はどう思っているわかりませんが、私はこの国を、この土地を愛しています。それを失うことは、絶対にしたくない。だから私は、最後まで……死ぬ覚悟をもって戦うつもりです」
異能者として、覚悟は決めている――ならばこれ以上問答する必要はないと、ユティスは頷いた。
「わかりました。ぶしつけな質問申し訳ありませんでした」
「あなた方にとっても私のことは気掛かりだったはずなので、仕方がありませんよ……では、協議に入りましょうか。私はあなた方の作戦の中に組み込まれているのですか?」
「現時点ではまだなんとも言えません。アルガに関する情報は集まりつつありますが、まだ決定的なものはない。よってその情報集めに加え、武具作成を行う必要がある」
「……アルガはまだ、この近辺にやってきてはいない」
ジュオンはユティス達へ語る。
「なおかつこの場所へと向かうための通路は幻術で封鎖し、またその効果はアルガにも及んでいる……多少なりとも時間はあるだろう。とはいえ魔物が跋扈している現状だ。その魔物の目に留まってしまったら露見してしまう。よって、ここを出て武具作成を行うにしても、安全を確保してからにしてほしい」
「わかっています。こちらとしても今、アルガに踏み込まれれば危機的状況に陥る……そこについては同意です」
時間が掛かるが、ここは仕方がないだろう。
「とはいえ、魔物の目を盗むことはそう難しくない」
さらにジュオンはユティス達へ続けた。
「ただ、普通に入口を通るよりも面倒でな」
「面倒……? というと?」
「堅牢な山に囲まれた場所であり、また幻術の影響はこの山にも及んでいる。幸い魔物はこの山には存在していないようで、正規の入口からではなく山を経由すれば、魔力集積点へ辿り着ける」
――それを聞き、ユティス達は会議室へ移動。地図を広げ現在地と魔力集積点を改めて照らし合わせる。
「うん、山肌を進めば魔力集積点の一つへと辿り着くな」
「……けど、山の中を進むのは大変そうよね。そもそもこの場所から山を登るのも……」
リザの意見にジュオンは小さく頷き、
「とはいえ、相手に見つからないように……確実性を高めるにはこのくらいやらないといけない」
「……問題は、ユティスさんがその移動に耐えられるかどうか、よね」
「さすがに馬車は使えないからな……」
「それほど距離はないし、数時間で辿り着ける場所にあるのも事実だが……移動手段が徒歩であることに加え、魔物に警戒することを考慮に入れると、もう少し長い時間を見積もっても良いだろう」
「長くて一日、といったところでしょうか」
「かもしれん」
ユティスの言葉にジュオンはそう答えた。
――リスクのある行動とはいえ、一日足らずで目的を遂行できるのであれば、決して悪い話ではない。むしろここへ来ることで作業が捗っていると言えるかもしれない。
「……では、彩破騎士団は武具作成に移ります」
ユティスはそうジュオンへ表明した。
「ただ、これは大天使の所で解析した魔力などを検証してからなので、出発には数日掛かるかもしれませんが……とにかく、調査が済み次第行動します。その後、どうするかについては……三つ目を作成するのかについては、アルガの情報がもう少し集まってからになるかと思います――」