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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話

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人類の敵

 ジュオンが戻ってきたのはユティスが散策を終えて一時間後のことだった。彼はユティスの部屋を訪れ今から大天使の所へ向かうことを聞くと、騎士団全員が彼に追随することとなった。


「さて、大天使との遭遇だが……特に制約はない。封じられている器に触るのも良し。魔法を放っても良し」

「……それだけ無茶をしても、問題はないと?」


 苦笑しながらフレイラが問い掛けると、ジュオンは神妙に頷いた。


「過去、マグシュラント王国がそれだけ色々と実験をやって来たということだ。無論、復活間際のこの情勢では少しくらい変化があってもおかしくないとは思うのだが、現在観測できている範囲では調査開始以降、あまり変化がないからな……楽観的な見方ではあるが、少しくらい派手にやっても大丈夫だろう」

「そういえば、なぜそこまで詳しいのですか?」


 ふいにティアナがジュオンへ向け疑問を呈する。


「王族関係者であることは確かみたいですが、大天使のことを含めなぜそれほどの情報を?」

「ああ、そこについては言及していなかったか……別に隠そうとしていたわけじゃないさ。私は王族の関連する者であり、また同時に大天使の管理をしてきた」

「大天使の……管理を?」

「だからこそ、大天使についての情報を多く保有しているわけだ。これまでの資料に目を通しているからな」


 明確な理由を告げた後、彼は階段を下り始める。この城における中央部……その地下へ赴こうとしていた。

 ずいぶんと長い距離を下りると、鉄の扉が一枚目の前に現われる。この先にどうやら、目的の存在がいる。


「……この場所は、私を含めほんのわずかな人間しか足を踏み入れることができないようになっている」


 言いながら彼は扉に手を置く。すると魔力が発せられ、ゆっくりと扉が開いた。

 どうやら鍵ではなく、魔法を用いた施錠を行っている……少しずつ中が見え始める。それと共にジュオンはユティス達を先導し、中へ招き入れた。


 そして見えたのは……三体の翼を持つ存在。顔は白い仮面のような物で覆われ、なおかつ氷のような結晶に封じ込まれ、時を忘れたかのように鎮座していた。


「これが、私達の敵」


 フレイラが呟く。ユティスは二千年という長い歳月を蹂躙し続けた存在を、沈黙したまま見据える。

 身長は、およそ三メートルほどだろうか。人間からすれば大きな存在であり、また背には翼が二枚。ただそれは生物が持つようなものとは少し異なり、まるで鉄のような素材で作られた――


「ああ、翼についてはおそらく動物の羽根じゃない」


 と、ユティスの視線に気付いたかジュオンが言及する。


「魔法で飛翔することはできるが、翼は飛ぶ機能を持たせたものではないようだ。効果としては周辺の魔力を分析するなどの機能が備わっている、らしい」

「飾りというわけではないんですね」

「おそらくだが、制作者自身天使をモチーフにしてこうした存在を作り上げたわけだが、まず見た目ありきで作成した結果、姿と機能が一致しなくなった」


 ――圧倒的な力を保有している存在ではあるが、目の前の敵は過去の人間が作り上げたもの。そう考えると、得体の知れない恐怖は薄れてくる。


「間近で見た感想は、どうだ?」


 ジュオンの問い掛けにユティスは一考し、


「……少なからず、見た目は恐怖を煽るようなものではありませんね」

「一応これは国の兵器だからな。最終的には暴走の果てに世界に多大な犠牲を生み出してしまったわけだが……制作者にしてみれば自国の救世主とするために生み出したんだ。見た目も良いものにするさ」

「なるほど。それもそうですね」

「今から調べるか?」


 さらなるジュオンの問い。そこでユティスは、


「この大天使を拘束している物について、調べはついていますか?」

「ああ、多少なりとも」

「ならここで僕とオズエルがその素材について魔力を簡易的に調べ、資料か何かで使えるかどうかを精査しよう。オズエル、忙しくなるけど」

「それこそ俺の出番だからな。徹夜も覚悟している」

「なら、今から調べるとしようか」


 それからユティスは少し恐る恐るといった案配で大天使を封じ込める器に触れる。ヒンヤリとした感触が返ってきて、氷とは異なりクリスタルのような素材にも感じられた。


「その素材自体はどういう物なのか、わからない」


 そうジュオンは告げる。


「二千年前に存在していた物で間違いないようだが、『星の館』の構成員も正体不明だったらしい」

「もしかして、制作者が作り上げた……」

「その可能性もゼロではないと思うが……ともあれ、謎のままである以上は再現することは不可能だ……ただ一つの手段を除いては」

「それが『創生』の異能ってわけね」


 リザが述べる。ユティスはそれに首肯しながら、


「もちろん不明な素材をそのまま再現するのは、よほど魔力を綿密に解析していないと難しいけど……これはきっと、アルガを倒す……あるいはこの大天使を打ち破るための、突破口になるかもしれない」

「今まで、そういう発想はなかったはずだ」


 と、ジュオンは大天使を見上げながら話す。


「『星の館』の連中もどのように大天使を倒すかに躍起になっていた。千年前と比べか細い準備を経て、アルガを生んでしまい組織も壊滅状態だが……こうなってしまえば単純に真正面から戦うだけでは難しいだろう」

「ならば僕のような力が必要、だと」


 ユティスの提言にジュオンは大きく頷いた。


「始めからこのような形で挑むべき相手だったのかもしれない。確かに異能は強力故、それを用いて戦いたい気持ちはわかるのだが……人間の知恵は、異能でどう戦うのかではなくどのように扱うかによって変わってくるというわけだ」

「あなた方が擁する最強の異能者にも同じことが言えるのではないかしら?」


 今度はリザからの指摘。ジュオンはそれに「確かに」と同意する。


「うん、火力ばかりに目を奪われ、他の方法というのは考えもしなかったな……ならば彼とも引き合わせ、打ち合わせをしておくか?」

「ここでの作業が終わったら、会うことにします」

「ああ、わかった」


 ――それからしばし、ユティスとオズエルはできる限りの情報を取得する。とはいえ完全ではない。調査についてはもう少々時間を要するかもしれない。

 ひとまず引き上げるということでユティス達は部屋を出る。扉が閉まる直前、ユティスは一度大天使を見据える。沈黙し続ける存在を見て――ユティスは少しだけ眼光を鋭くし、背を向けた。


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