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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
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城に眠る天使

「ふむ、どうやらまだアルガと遭遇するのは避けたい、ということか」


 そのジュオンの言葉でユティスは小さく頷いた。


「はい、その……準備がまだ整っていないといいますか」

「なるほど。こちらとしてもそれは由々しき事態だな……とはいえその様子だと、まだ国に入って間もないか。であれば仕方がない」


 理解した様子のジュオンは、一度ユティス達を一瞥。


「しかし、だ。次に向かう王城には、君達も気になるものが存在している。それだけでも見に来る価値はあると思うが」

「気になるもの?」


 聞き返したのはフレイラ。ジュオンは深々と頷き、


「ああ、そうだ……封じられた大天使そのものが眠っている」


 ――その言葉に、ユティス達も目を見開く。


「最後に残った拠点だが、そこに大天使がいる。アルガの目的は王族……というより抵抗戦力を潰すことにあるが、それ以上に大天使を見つけることもあるだろう」

「ちょ、ちょっと待って! となると、次に行く場所で負けたら――」

「そう。そこへ入ればもはや後がない……本音を言えば、その場所は使いたくなかった」


 ジュオンは嘆息しながらユティス達へ告げる。


「王城ではあるのだが、大天使を保護するために幾重にも結界が張られ、本来の城よりも強固な場所になっている。加え、城の周囲全域も他からわからないような効果を持つ結界を構築しており、外部から中の様子を窺うこともできない……つまりそれだけ秘匿された場所、ということだ」


 そこまで語った後、ジュオンは肩をすくめた。


「アルガの狙いが大天使なら、その場所へ近寄るべきではない……と言いたいところだが、そこを無視していてもいずれ見つかってしまうだろう」

「何故、ですか?」

「アルガが町や村を破壊して回っているのは、それこそしらみつぶしに大天使の居場所を見つけるためだ。魔物は次第に町や村以外にも根を張り、いずれ大天使が眠る王城も見つけられてしまうだろう……そうなってしまったら手遅れだ。よって、私達はその場所を防衛する意味でも、向かわなければならない」


 理屈は理解できる。しかし、大丈夫なのか――


「幸い魔物を倒すことができたため、これ以上尾行される可能性は低い。実を言うとこの方角は半ばアルガの目を誤魔化すもので、実際に大天使が眠る場所は全然違う所にある。その間に襲撃を受けてしまい苦慮していたところへあなた方が来たというわけだ」

「魔物を倒せばアルガの監視の目からは逃れられる、と?」


 フレイラがさらに問う。それに対しジュオンは首肯し、


「本城から逃げた先……その場所へ到達するのにアルガは時間を要した。これは追っ手である魔物を潰し、幾度となくこちらの道筋を辿られないようにした結果であり、魔物の目さえなければ、比較的自由に動ける」


 アルガの包囲網も完璧ではない、ということか。


「よって、しばらくの間は大丈夫だ……つまり、あなた方が大天使の姿を確認するくらいの時間的余裕はある」

「……しかし、こちらとしては早々に武具作成を終えなければならないのも事実」


 そうユティスは言及。するとジュオンは、


「その場所はどこにある? 地図で指し示してくれないか」


 ジュオンは言いながら地図を取り出した。それに対しユティスはいくつかポイントを示すと、


「ほう、なるほど……どうやらその一つが大天使のいる場所に近しいな。往復まで数時間といった程度だ。しかも他にも日帰りできそうなポイントがある」

「なら、僕達にとってもメリットはある……か」


 活動拠点にもなり得そうな話であるため、ユティス達としてはありがたいのだが――


「フレイラ、どうしよう?」

「……アルガの資料から考えても、私達だけで挑むのは厳しいというのも事実」


 フレイラは前置きをして、続ける。


「それに、彼らは言わば最後の希望でもある……それを護衛することは、私達にとってもメリットはあるし」

「そうだな……ただ、確証がなければ怖いのも事実」

「現状、まだアルガは私達が逃げ出した城で戦っている」


 と、ジュオンは語り始める。


「というのも、今度は兵を多数配置したからな」

「兵を?」

「兵、と言っても使い魔の類いだ。大量の魔法陣を仕込んでおき、城に内在する魔力を利用して延々と湧き続ける。アルガはどうやら襲ってくる存在を全て叩き伏せなければと考えるようで、現在もまだ出現している使い魔を屠り続けている」


 ジュオンは述べた後、小さく息をついた。


「城内の存在する魔力に加え、地底から引っ張ってこれる魔力を利用して……数日くらいはもつと思う。なおかつそれを壊せば今度は別所で魔法陣が発生する仕組みになっている」

「嫌がらせに近い、ですね……」

「そうだな。もしアルガが負ければ代わりに大量の魔物が野に跋扈してしまうのだが、まあそのくらいのリスクをとらなければな……それに、アルガの能力を測るのに一つの手がかりとなる」

「どれだけ継続戦闘できるか、ですか」


 ユティスの言葉にジュオンは「そうだ」と返事をした。


「今まで得られた情報だけでもかなりのものであるとわかっているが、一日休まずというレベルなのかはわからない。それを試すのに良い機会だ」

「アルガが魔力をどこからか調達してきてしまえば、その辺りの問題は解決するのでは?」

「それを確かめる意味合いもある。魔法陣を多数展開しているため、現在アルガは大地を介し魔力を取れない状況にある。よって魔物の生成もできていない。私を始めとした人間の術式が大地に埋め込まれていると、思うように干渉できないらしい……ただ、そうは言ってもアルガは物量に対し真正面から応じるようで……実際に彼は無尽蔵とも思える体力で使い魔を倒し続けている」


 魔物の生成はどうやら大地の魔力を用いることで確定のようだ――ジュオンとしても、おそらく渾身の策なのだろう。驚異的な異能者でも勝てない以上、削って倒せないかという考え。しかし現状、そういう可能性は低い雰囲気。

 ただ、打てるだけの策を打って情報を得ようとしているのは事実。そこでユティスは黙考し、自分達の状況と照らし合わせ――


「……わかりました。あなた方と手を組んだ方が良い結果を得られそうです」

「ありがとう、異能者よ。私達は心よりあなた方を歓迎する」


 柔和な笑みと共に、ジュオンは述べる。そこでユティスは頷き――思考は、城に眠る大天使へと移っていった――


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