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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
363/411

遭遇戦

 ユティス達が当該の場所へ赴いた時、そこはいよいよ蹂躙が始まろうとしている状況だった。複数台の馬車が移動している所へ魔物が仕掛けている。ただ周辺には町などなく、魔物がいるような場所ではない。

 そして馬車については――装飾などを見る限り、町中を走る物とは明らかに違う。


「お城に常設されているような馬車か?」


 ユティスが呟くと、フレイラは「そうね」と律儀に返す。


「もしかすると、アルガの攻撃から逃げている人達なのかも。そして、魔物がそれを追っている」

「そうであれば、周辺に町がなくてもここに魔物がいる理由になるな……とにかく助けよう」


 馬車が疾駆する。その間に魔物達は豪華な馬車に狙いを定め、いよいよ破壊を始めようとしていた。

 人間側も魔法で応戦しており、先ほど耳にしたのはそうした音だったようだが、その攻撃もほとんど通用していない。やはり並の騎士や魔術師では、到底敵わないような力を持っているようだ。


「……っ!?」


 その時、護衛の騎士の一人が猛然と向かってくる馬車を目に留め、驚いた様子を示した。とはいえユティス達は事情を説明するよりも先に、戦闘準備を始める。

 接近し馬車を停止した瞬間、ユティス達弾かれるように外に出た。


「攻撃!」


 ユティスの号令と共に、オズエルとユティス魔法、ティアナの矢が大気を駆け抜け、魔物へ直撃した。その攻撃はそれなりの痛手になった様子で、直撃した魔物は例外なく動きを止め、咆哮を上げる。

 続いてアリスの魔法が追撃という形で魔物へ迫り、当たる。それによって一体魔物が消滅し、なだれ込むようにユティス達は騎士へ近寄った。


「あなた方は……?」

「『星の館』の関係者……と言えばわかりますか?」


 さすがに国外から来たとは言えず、まずはそう告げた。すると騎士は理解したようで、


「なるほど……そういうことですか。助力、感謝します」

「あなた方は?」

「事情説明は後にしましょう。まずは、魔物達を」


 ユティスは小さく頷き、迎撃を始める。思わぬ援護によって周辺にいた騎士達は一度どよめいたが、すぐさま立て直し魔物の掃討を始めた。とはいえその能力の高さから死なないよう堪えるのが精一杯という様子。

 だがユティス達にとってはそれで十分過ぎた。的確に魔物へ狙いを定め、各個撃破していく。徒党を組めば脅威に違いない魔物だが、個々に対応すれば危険度も相応に減る。町での戦いから事前に学んでいたユティス達は、まず連携を妨げるような形で戦い、数を減らしていく。


 そうしてユティス達が戦場に到着しておよそ十五分――魔物の姿は、完全に喪失した。


「本当に、感謝する」


 騎士が一礼。それにユティス達は手で制し、


「礼には及びません……それで、あなた方は?」

「はい、それは――」

「私から説明しよう」


 朗々とした声が聞こえてきた。視線を転じると、馬車から降りてくる男性が一人。

 その人物は貴族服を着た、二十歳前後の金髪の男性。その容貌は女性をうっとりさせるような蠱惑的なものを含んでいるのだが、現在はその表情が厳しいものとなっているせいか、魅力がずいぶんと減退している。


「現在私達はこの国を蹂躙するアルガから逃れ、移動途中だ」

「移動途中、ということはどこか逃げるあてが?」

「そうだ……既に逃亡場所は物資の輸送なども行っており、すぐに体裁は整えられるが……さすがに次で最後だからな。状況としては絶望的だ」


 そう語った後、男性は目を細める。


「……『星の館』の関係者だと言ったな?」

「はい」

「しかしその姿……報告書にある異能者と酷似している。貴殿らは――国外の者達か?」


 どうやら彼はユティス達のことを書面上は知っているらしい。となれば、嘘をついてまで誤魔化すのは不信感を抱かせるだろう。


「……そうですね」


 同意の言葉と共に男性は「なるほど」と呟く。


「見立てよりずいぶんと早かったな……とはいえ、他に人がいる様子はない」

「私達だけでここへ赴きました」

「――つまり、彩破騎士団という面々だけか?」

「はい」


 無謀、と感じるだろうか――男性は少しばかり思案した後、


「状況的に他国が軍を率いて介入するのは難しいか……となれば、私設的な騎士団だけで来るというのは、理解できる。だが、勝機はあるのか?」

「異能を使えば」

「……なるほど。創生の異能を突破口にしようとしているのか」


 男性はしばし黙考し――


「ならばこちらが保有する情報を渡すか。ただ、もう次はない。次で決着を付けなければ、確実にこの国は滅ぶ」

「……あなたは、一体?」


 フレイラが問うと、男性は笑みを浮かべる。


「名はジュオン=マーファス。一応このマグシュラント王国の王家に連なる者だ」


 どうやら、相当な人物――ただ男性の笑みはどこか苦々しいもの。


「王族の一員というだけで、継承権などは持たなかったのだが……王家に連なる人物は実質私だけという有様だ。最初アルガと戦った際、相手が暴れた結果王を含め多数の同族が亡くなった。気付けば王家の血筋のほとんどは絶え、唯一王城にいなかった私が残り、担ぎ上げられた」

「その言い方だと、あまり良い境遇ではなかったようですね」

「確かに。遠縁だからな。正直こんな馬車に乗せられて動くような生活をしたことがなかったため、戸惑っているくらいだ」

「……それにしては、風格みたいなものを感じますが」

「それなら良かった。実を言うとだいぶ無理をしている」


 ジュオンは軽口の後、表情を引き締めた。


「ともあれ、今の私なら国の全てを動かせる……といっても、精々生き残った王城関係者だけだ。この周辺にある馬車の人員と、散ってしまった兵士達……たったそれだけしか私は動かせない」


 つまり、それだけしか残っていないということ。


「ただ、異能者が現われたことで勝機が出たかもしれない……直にアルガが来るだろう。まずは移動だ。君達はどうだ?」


 ユティスは選択に迫られる。元々避難所で情報を得るはずだった。それが変更になった――ともとれるが、このままジュオンと同行すればアルガとの決戦に入ってしまう。

 準備不足の状態で勝てるのか。ただし彼らを放っておくには――ユティスが内心で悩む間に、ジュオンは察したか改めて口を開いた。


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