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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
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国の崩壊

 そしてアルガは再び槍を振るし騎士達を撃滅していく。四方から攻め込まれる形だが、魔物が的確に援護を始め、彼に刃が届くことはない。

 魔物達はアルガを守るために動いている――そうした中で彼は槍を振るい、騎士達を切り飛ばしていく。あまつさえ勢いが増し始め、マグシュラント王国側としては異能発動までひたすら犠牲を出し続けるしか手法がない。


 そうした無理な戦法しか使えなくなった王国軍だが、それでも兵士達が逃げ出すようなことはなかった。王のために――ひいては王が死しても救ってくれると信じているから。それこそ、この国が精強である理由だった。

 喜んで身を投げ出す状況に、アルガとしては殲滅できてはいるのだが時間が掛かっている。そこで彼は、動きを変えた。


 遠見の魔術師からは、周囲の騎士や兵士を魔物達に任せた様子を捉えたらしい。ではアルガはどうするのか――彼はまず、槍を投擲するような所作を見せた。投げやりの要領で彼は動作を幾度か繰り返し、感触などを確かめる。

 その狙いはどうやら城。しかしアルガが立っている場所から城まで相当な距離がある。魔法でもない単純な投擲で届くのか。


 そして魔物達が周囲を抑えている間に、アルガは振りかぶり槍を――投げた。その瞬間、遠見の魔術師は槍を追おうとしたのだが、できなかった。

 理由は明白。その速度が予想以上であり、次の瞬間に城の壁面を砕く音を、魔術師自身も自覚した。


 生じたのは轟音。けれど同時に魔術師はあり得ないと思った。アルガは単に槍を投擲しただけ。それが到達し城の壁に突き刺さる時点でおかしいのに、音からして壁を突き破ったのだ。

 そして、城内から悲鳴が聞こえた。けれど遠見の魔術師はなおも観察を行う。アルガは槍を投擲したことで、周辺にいる屍から槍を一本拝借していた。そして先ほどと何ら変わらぬ動きで敵を殲滅を再開する。


 どうやら槍そのものに仕掛けはない。というより普通の槍にアルガは魔力を注ぐことによって強化しているらしい。使用しているのはあくまで普通の槍――それはつまり、武器破壊などは意味がないことを意味している。能力を使えば槍を使わずとも素手で対応できるだろうし、この特性をユティスは頭の中に刻み込んだ。


 ここでアルガは再び魔物に周囲を任せ、投擲する気配を見せた。けれど今度は騎士達が阻もうとする。さすがに王に当たるとは思っていないだろうが、だからといって放置することはできない。

 しかし刃が届かず――そもそも届いたとしても止められたわけではないだろう――アルガは二度目の投擲を行った。


 遠見の魔術師も今度ばかりは、とじっと観察をする。けれど槍の軌跡を肉眼で捉えることはできず、気付いた時には城の眼前にまで到達していた。


 刹那、再び壁に直撃したことで轟音と振動が生じた。次いで今度は――さらに様子が違った。

 遠見の魔術師は王を呼ぶ声が聞こえたと語っている。まさか、と思い彼は魔法を一時中断して部屋を出た。玉座の間に駆け足で進み、やがて見えたのは――絶句するような光景だった。


 槍はどうやら壁を貫通し、玉座の間へ到達したようだった。魔術師の目には壁を突き破った穴が見えた。それは正確に玉座の間のある位置を狙い、入口である両開きの扉を破壊した。そして玉座の間は、


「な……」


 呻き声を発したと、手記には書かれている。玉座には王を含め、多数の重臣が傍に控えていたはずだった。まさしく政治中枢の要であり、一ヶ所にいたのは次の命令が出しやすいからかもしれない。


 そうした人影が――全て消えていた。そればかりか玉座の間全体が大きく損傷し、最早見る影もなく変化していた。

 王は――魔術師は周囲を見回し、王の姿を探す。この場にいた可能性は高く、だとすれば絶望的ではあった。


 やがて魔術師は槍を見つけた。それは玉座の真上に突き刺さっており、その周辺は特に損傷が酷かった。よくよく見れば玉座も完璧に破壊されており、王以外にどういった人間がいたのか、皆目見当もつかなかった。

 そこで魔術師は再度遠見を行うべく部屋へ戻る。とにかく情報を――魔法で観察し直した結果、戦況は大きく動いていた。


 気付けばアルガの周辺にいた兵士や騎士が、もうほとんど残っていなかった。多数の兵員を導入してなお、まったく敵わない驚異的な存在。損害は甚大であり、このまま戦い続ければ城を守護する者がいなくなる――そんな確信を抱くほどだった。

 いや、王が消え失せた時点で最早城の意味はないのかもしれない。アルガはさらに槍を振るい残党と呼べる兵士達を屠っていく。


 その時、再び空に異変が。異能者が渾身の雷撃を放とうとしているようで、アルガは一度空を見上げた。

 遠見の魔術師は避けるために動くかと予想したが、彼は一瞥しただけで兵士達を斬りに掛かる。そこで騎士や兵士達は退避を始めた。異能者の策が完了した。後はこれが成功することを祈るのみ。


 刹那、雷光がアルガへ向け降り注いだ。先ほど放った以上の出力であり、アルガが立つ周辺の土地が砕け、黒く染まるほどの威力。閃光が周囲を包み、一時周囲が轟音で満たされる。

 アルガはそれを避けようともしなかった。退避する騎士達を見て、追撃のために槍を投擲しようなどという気配すら見せていた――そこへ、雷撃が落とされた。


 異能者にとっても、全力の一撃だったはずだ。城にいた兵士や騎士達は、すがるような目で事の行く末を見守っていたと資料には書かれている。おそらく異能者以上の攻撃を放てる存在はいないのだろう。彼が持つ力を超える魔法は、大地の力などを経由するか、ユティスの異能のように武具を新たに創り出すしかない。


 果たして――やがて雷撃が途切れる。残ったのは漆黒に染まった焦げた大地。そして、雷撃をその身に受けてなお、超然としているアルガの姿だった。

 その直後、誰かが退却を言い出した。それは王が亡き今、王族に連なる者が言い渡したものらしかった。


 彼は別の城へ避難するよう兵や魔術師に言い渡す。それにより彼らは城を出るために走り始める。遠見の魔術師もまた、それに従い逃げようとした。

 そうした中で最後に彼はアルガを見る。相変わらずの歩調であり、城の状況を察しているのかいないのか、悠長に歩を進め、ゆっくりと近づいてくる。


 その顔には――人を殺めることで快楽を貪っているわけでもなく、かといって憎悪に染まっているわけでもない。ただひたすらに無機質な――それこそ、当たり前のことをやっているかのような、澄ました表情があるばかりだった――


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