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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第二話
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調査に対する一つの問題

「……予定外、という状況に陥るというのはまあ想定していたけどよ」


 馬車の中で、四人の人物が会話をする。その中でため息をつきふいに話し出したのは、勇者オックスだった。


「ここまで綺麗にやられるところを見ると、敵はずいぶんと君らにご執心というわけだな?」


 問い掛けの先――対面する形でユティスとフレイラが座る。格好はユティスが黒いローブでフレイラが鎧。騎士と従者に見えなくもない風体であり、実際旅を始めてから二度ほどそういう風に言われたことがあった。


 そして馬車――ユティスの体調面を考慮して馬車移動という結果なのだが、馬を駆り進むよりは進行が遅く、邪魔しようとする輩がいたとしても対応が後手に回ってしまうというのも仕方がないと言えなくもないのだが――


「いえ、この場合は最初から仕組まれていたと考えることができると思う」


 応じたのはフレイラ――それにオックスが眉をひそめ反応。


「どういうことだ?」

「勝負は、私達に話が回って来た時点でついていたということ。この事件を調査するという情報は、例え隠していても準備する過程で気付かれてもおかしくないし、相手はそのくらいの情報網を持っている。おそらくこうした事件があり、私達が関わることになると把握した一派が、早馬で使者でも送って予め根回しをしておいたのだと思う」

「なるほどな……だから、最初から勝ち目がなかったと」

「そういうこと」

「で、結局ラシェンさんの言った通り調査ってわけか。しっかし結果なんて出るのかね」

「とりあえず、現場を見ることによって何かしら情報は得られると思う……できれば村に関する詳細を知っている人をつかまえたいところだけど、そうした人と接触する手段もない以上、最初は村に関する調査から始めるべきだと思う」


 フレイラの意見にオックスは「そうだな」と不服そうに答える。おそらく、リーグネストを訪れた時の出来事を思い出しているのだろう。


 そこでフレイラはユティスに視線を送る。


「ユティスもそういう方針で、いいんだよね?」

「うん……他に手立てもないからね」


 ユティスは応じながら内心でため息をついた――出鼻を挫かれた形となり、オックス同様不満を感じているのは間違いない。

 けれど、ここで腐っていても仕方がない。だからこそ今、調査のために馬車で移動を行っている。


「……それで、ユティス様。お体の方は大丈夫なのですか?」


 そう問い掛けたのは四人目の人物――この馬車を用意した人物。


 綺麗な長い金髪を持った女性。年齢は、フレイラとほぼ同じ。スカート状の貴族服を着ているためどこか旅行にでも行くような雰囲気。あと大きな特徴としては服の下から主張している胸の膨らみだろうか。

 空色の瞳がユティスを射抜き――その魅惑的な笑顔は、ずっと見ていると吸い込まれそうになる。


「あ、うん、大丈夫」


 ユティスが応じると女性は「悪くなったらすぐに言ってください」と応じた。優しく、また全てを包み込むようでいてあどけなさも残る声は室内に響き、さしものオックスも態度を軟化させる。


 彼女の名はティアナ=エゼンフィクス。北部に領地を構えるエゼンフィクス家の娘であり、今回王の選定によって彩破騎士団の案内を指示された人物である。


 ユティスが聞いたところによると、真っ先にエゼンフィクス家は協力を申し出て、なおかつ当家の長女である彼女が案内役として手を上げたとのこと――正直怪しさしか感じられなかったのだが、王からの指示である以上断ることもできず、現在はティアナが用意した馬車と御者と共に目的地へと向かっている次第。そして現在、最初の目的地であるリーグネストを出て既に三日経過している。


 体調については今の所良好――もっとも少しでも無理をすれば寝込む可能性があるため、ユティスとしてもあまり無理をしないよう意識している。


 そして――ユティス達の目的地は最初に不死者が発生した、山岳地帯にある村。事件の始まりとされる村なのだが、本来はまずリーグネストの騎士団詰所で情報を手に入れるはずだった。しかし、その目論見はあっけなく潰えてしまった――






 北部は過去、北のヴァルアス王国と長きに渡り冷戦状態が続いていたため、その防備により都市のほとんどが城壁に囲まれている。海に面する東部を始め、戦乱にほとんど無関係だった中央の人々が北部の町を訪れると、ほとんどの場合「物々しい」という感想を抱くことになる。


 現在は条約も締結し城壁の真価を発揮することもないが、さりとて壊すわけにもいかず。よってリーグネストも城壁をある種シンボルのようにしており、なおかつ交易の街として発展してきた。


 リーグネストを訪れた段階でユティスの体調も良かったため、宿を手配するよりも最初に詰所へ向かうことになった。


「別に僕の体調優先じゃなくても……」

「そうはいかないだろ」


 オックスが即座に応じる。


「いきなり倒れられでもしたら、調査に支障が出る」

「……ごもっとも」


 ユティスは小さく頷いた。


「とりあえず、問題が出そうだったら言うよ」

「それがいい……さて、そろそろ到着だな」


 言った直後、馬車が止まる。ユティスが窓から確認すると、石造りの大きな建物が。


「それじゃあ、始めるとしますか」


 オックスは意気揚々と言い先んじて外へ。次いでユティスとフレイラ。最後にティアナが外へと出た。

 馬車の外は石畳の道によって整備された町並みが広がっており、都に劣らぬ交通路を確保している。人通りも多く、商人や旅人が石の道を歩みユティス達を横目に通り過ぎていく。


 そこでユティスは建物へ目を移す。重厚な雰囲気を持った場所で、門番と思しき兵がユティス達を見て訝しげな視線を送っていた。


「ではまず、書状からね」


 フレイラは呟くと書状を取り出した。ラシェンから渡された情報提供依頼のための物であり、当面は目前にある詰所に入り込んで今回の件を調べることになるだろうと、ユティスは思っていた。


 門の兵士にフレイラが書状を渡し、一人が奥へと消えていく。そうして待つこと五分程。少し慌てて兵士が戻ってくる。手には書状を持ったまま。


「……お待たせしました。その……」


 そしてなぜか口ごもる。何やら話したくないという雰囲気を見せている。


「どうしたの? 内容に何か問題が?」


 問い掛けたフレイラに対し、兵士は自身が握る書状とフレイラを交互に見て、


「その、すみません……お通しできないと言われまして」

「なっ……」


 呻くフレイラ。言葉には出さなかったが、ユティスも内心同様の心境を抱く。


「通せない? なぜ? この書状が偽物だと?」

「いえ、その……とある方からの厳命だそうで」

「厳命? 誰の?」

「……私も、詳しくは」


 さすがに仲介を行う兵士にそこまで詳しい説明をさせるのは酷。けれどフレイラは納得いかないのか兵士に詰め寄る。


「なら、この書状を見て判断した方に話をさせて」

「それも、できないとのことです」

「……なぜ?」

「あなた方と会ってはならないと……厳命を受けたそうで」


 その言葉により――ユティスはこの詰所が何者によって指示を受けたのか見当がついた。

 同時に思う。間違いなく、先を越された。


「……なるほど、そういうこと」


 フレイラも理解をしたか呟くと、やがてあきらめたようにため息を吐いた。

「ここで下手に押し通れば、都にいる人達の思う壺でしょう。ここは、出直すしかないと思う」

「はあ、なるほどね」


 同様に息を吐くオックス。ティアナも事情を察したようで口元に手を当てている。


「……行きましょう」


 やがてフレイラは告げると先んじて歩き出す。遅れてユティス達も追随し、馬車へと戻った。

 そうして元の位置に座った時、嫌な沈黙が生じる。それを打開しようとユティスは必死に言葉を考え、


「手は、一つしかないんじゃないか?」


 先にオックスが口を開いた。


「どうやら都にいる敵さんは、俺達を妨害しようと詰所に入らせない気でいるようだ。けどまあ、俺達の行動自体を封じるわけにもいかんだろ。となれば、少しでも情報がある場所に赴くしかない」

「……そうね」


 フレイラは同意すると、まずティアナへ向き直る。


「ティアナさん、御者の方に適当な宿へ行くよう指示してもらえない?」

「はい、わかりました……今日はここに滞在するのですね。明日以降はどうなさるのですか?」

「ユティスがラシェン公爵から教えられた崩壊した村……そこに行きましょう。ユティス、大丈夫?」

「体調はどうにか。けど、戦うとなった場合はわからないよ」

「今日ゆっくり休んで、明日から倒れないようにしよう」

「うん、そうだね」


 ユティスが承諾すると共に、ティアナは御者へと呼び掛ける。馬車は動き出し、ユティスは重い顔をする面々に視線を移す。


 今回は、こうした妨害を受けながら調査をすることになる――敵も見えない状態で嫌な感情が生まれたが、ここでくじけていても仕方ないと思い、一度詰所の件は忘れ、目先の目標を見据えることにした――


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