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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
359/411

蹂躙の記録

 アルガが最初に狙った王城については、まさしく死闘を繰り広げたらしい。


 城の周辺は厚い警備に覆われているが、アルガは隠れるわけでもなく、まして忍び込むわけでもなく、文字通り正面から攻めた。最初、たった一人で向かってくる彼に対し、城側は至って冷淡な対応だったらしい。

 これはユティス自身も理解できる。そもそも単独で王城を制圧できるなどという話、異能者でも無理だろうと思う。仮に強力な異能を所持していたとしても、城にいる人間を全て倒すには魔力が絶対的に足らない。騎士や兵士が油断していたというのは、至極当然の話となる。


 そしてアルガは、例えば騎士達を油断させるような真似は一切しなかった。気付けば彼の周囲に、町に跋扈していた魔物達が現われた。当然迎撃を始める騎士達だが――それにより生じたのは、屍の山だった。

 魔物に兵士が蹂躙され、騎士はアルガの槍によって倒されていく。彼のいる場所は死屍累々となり、惨状に騎士達は狼狽え、城側に援軍を求める。怯え逃げ出す者もいて、戦場は潰乱の一言だったらしい。


 その中で城側も重い腰を上げる――アルガの戦果を目の当たりにして、戦力の逐次投入はせず一気にアルガを倒すべく仕掛けた。王城にいる多数の騎士と兵士が押し寄せ、文字通り物量で攻め立てた。

 しかし、アルガはまったく動じることなく、真正面から受け続けた。表情一つ変えずたた騎士達を屠る様は、恐慌を起こす寸前にまで至ったらしい。


 そうした状況に転機が訪れたのは、異能者が投入されてからだった。マグシュラント王国についても当然ながら所属している異能者はいた。しかも複数人存在し、その中には特級の異能者が控えていた。

 男性の異能者で、マグシュラント王国内で困窮にあえいでいたところを異能所持者ということで一転、貴族にまで上り詰めた人物だった。ただ異能発動には多少なりとも時間が必要らしく、前線に出た直後、準備を始めた。


 その時、異変が生じた。突如アルガは異能者を見た瞬間――獣のような咆哮を上げたのだ。何事かと思った矢先、アルガは魔物と共に異能者へ向け一斉に突撃を開始した。

 城側の者達は一度は驚き犠牲者も出たが、どうにか堪えることに成功する。火を噴くような――文章としては暴風のようなと表現されている――攻めに対し犠牲は膨らむ一方であったが、異能者の所へ到達することは防ぎきった。


 多くの屍が積まれ、それでも兵士達は自らが犠牲となり耐える――これはマグシュラント王国の特異性が表れているのかもしれない。もし他の国で同じことがあっても、兵士達が逃げ出す可能性が高い。しかし、この国家は「王のために命を捧げる」という言わば王を崇拝する国。経典などでは「死ねば王が魂を呼び、転生が果たされる」などという文章もあり、彼らは死を恐れず進んで犠牲となる。


 王にそんな力があるのかどうかはさておき、アルガの猛攻を押し留めることができたのは、まさしく僥倖だった。準備が完了し、異能が発動する――それは天候を操る異能。異能者が発生させたのは、雷だった。

 魔法ではなく、限りなく自然現象に近い雷。障壁で防げなくもないが、異能という特殊な能力であったためか、その異能者が放つ雷はいかなる相手も貫く最強の矛となっていた。


 天に雷鳴がとどろき、次の瞬間アルガの立っていた場所に雷光が降り注いだ。ユティスはその時の情景を思い浮かべる。おそらくアルガを抑えていた兵士や騎士も犠牲になっただろう。しかしアルガの周囲にいたはずの魔物も全て消し飛ばし、大天使の力を持つ戦士は潰えた――はずだった。

 雷が叩き込まれた後、残っていたのはアルガたった一人。確かにダメージはあったようだが、彼は槍を構え直すと、再び咆哮を上げ何事もなかったかのように突撃を開始した。


 その間にアルガは魔物を再度生みだし、残る騎士や兵士を蹂躙に掛かる。町に存在していた魔物が多数襲い掛かってきたのなら、並の兵士達はただ飲み込まれるしかない。異能が通用しなかったことで士気の下がった部隊は、いよいよ窮地に立たされた。


 そして異能者の喉元まで刃が届こうとする――そこで騎士達は一度異能者を退却させた。今度は王城で、さらに魔力を込め異能を使う。それが勝機だと彼らは見出し、男性異能者を城へ逃がした。

 その時間稼ぎとして騎士達はその場に留まり、文字通り虐殺された。魔物が再び出現したことで最早止められる者はおらず、生き残るものは皆無だった。


 周囲の敵を殲滅したアルガは、ずいぶんと冷静な表情になっていたらしい。大天使の力を持つ者の宿命なのか、異能者を見たら見境がなくなる――これは凶暴性を発揮し能力を底上げするという恐ろしい効果を持つが、その代わりに理性を失えれば勝機を見いだせるかもしれない。そんな風にユティスは報告書を見ながら思う。


(とはいえ、僕らと戦えば常に暴走状態に近い形で向かう合う羽目になるのか……これは対策しておくべきか?)


 そうであったなら、常にその状態を意識して戦う他ない。ユティスはこの部分について特に頭の中に留めつつ、続きを読む。

 アルガは異能を受けてなお、変わらぬ歩調で進み始める。多数の屍を越えて王城へとゆるりと向かう。一方で王はまだ退却をしなかった。さすがに居城から脱出するなど、たった一人を相手にして想定はしていないようだった。


 騎士や兵士が城から出てくる。さらに連絡を受けた軍が後方からもやってくる。さらに城からは異能者が準備を始めたか、魔力すら滞留し始めた。

 そこでアルガは――何やら意味深な笑みを浮かべたと資料には記載されている。この資料は遠見の魔法でアルガを観察しているのだが、その中でもとりわけこの表情が恐ろしかったと遠見の魔術師は記している。


 何かしら策があるのか――だがアルガは歩調を変えず、四方から向かってくる騎士達を迎え撃つべく槍を構える彼の周囲にいる魔物も咆哮を上げ――戦いは隊ではなく、軍団戦の様相を呈し始めた。


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