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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
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戦士のしもべ

 その魔物は、普通に存在する魔物とそう変わらない見た目――と最初ユティスは思ったのだが、すぐに違うと感じた。狼のような四本足の魔物なのだが、牙が口から伸びていることに加え、吐く息に赤い煙のようなものが漂っていた。

 加え、発する魔力が異常――普通の人間ならば言葉をなくし、立ち尽くすような恐怖をまとっている。


 ユティスは魔力を高めながら、魔物を見据える。にじり寄る魔物は唸り、明らかに警戒している。そしてそれは例えば縄張りに入った獣のような防衛本能などではなく、侵入者を食える、というどこか喜悦に満ちた雰囲気も漂わせていた。


「まるで、殺戮を楽しむかのようね」


 同じ印象を抱いたか、フレイラが声を発する。刹那、魔物の一体がユティス達へ猛然と突撃してくる。

 それにいち早く反応したのはティアナ。剣を抜き放ち飛び込んでこようとする魔物へ向け、一閃した。


 結果、魔物の体が刃に触れ、弾き飛ばされる。力で押し返せると思った矢先、


「っ……!?」


 ティアナが小さく呻いた。何事かと思った矢先、どういうことなのかすぐに理解できた。

 魔物が剣戟に弾き飛ばされ地面に倒れる。するとずいぶんと鈍い音を上げ、地面にわずかながら窪地ができるほどだった。


「見た目以上に、重いのか」

「注意してください。一瞬剣が持って行かれそうになりました」


 剣を握り直しながらティアナが助言する。それにフレイラは頷きながら、剣を掲げた。


「なら、遠距離攻撃が有効かな」


 剣を地面に叩きつける。刹那、氷の刃が幾重にも生まれ、ガガガガと地面を走り魔物達のいる場所で、爆散した。

 氷が魔物を飲み込み、動きを止める。視界に見える魔物は全部で四体だが、それを例外なく全て凍り付けにした。


 これで、とユティスは一息つこうとした矢先、バキバキと音を上げ、氷にヒビが入り始める。


「魔法にも、耐性があるようね」


 フレイラが評する。その間にパキンと乾いた音を上げ、魔物が氷を突き破った。

 次いで一斉に咆哮を上げる。そこで後方にいた馬車から馬のいななきが聞こえた。


「ジシス、馬は大丈夫?」

「ひとまずは……儂は手綱を操作しなければならんから援護できんぞ」

「わかってる。けど――」


 遠くから車輪の音がもう一方の馬車が異変を察知して向かってきている。


 その時、魔物達が一斉に攻撃を開始する。四体がまるで息を合わせたかのように突撃を行う様は、一つの隊を成しているかのようだった。

 だがそれにすかさずユティスが反応。右腕に光の槍を生み出すと、一番近い個体へ向け、射出した。


(結構な魔力を乗せたけど……どうだ?)


 槍が着弾する。それによって魔物は吠え、吹き飛んだ。他の三体にも余波が届き、足の動きを止めることに成功する。

 そこへ、今度はティアナの攻撃が――彼女は剣による接近戦ではなく『幻霊の矢』を用いた弓を使っていた。ユティスの攻撃に合わせ、彼女もまた矢を放つ。そして槍の光が途切れ魔物が姿を現した時、彼女の矢が魔物へと直撃した。


 ビクン、と大きく体を震わせた魔物。効いていると思いながらもまだ倒れないことにユティスは多少なりとも危惧を抱く。


(この耐久力……そして見た目以上の重量。これはとてもじゃないが単なる騎士などでは相手にならないぞ)


 矢によって、ようやく一体が消滅する。とはいえユティスとティアナの複合攻撃によってようやく一体。残る三体も迫ろうとする――が、ここでフレイラが援護に入った。

 地面に剣を突き立てると、氷の壁を形成。魔物達の進路を阻むことに成功する。


 ただし体当たりで突き破られる可能性が――とユティスが思った矢先、壁に魔物が激突。氷が砕ける乾いた音が周囲に響くが、破壊には至らない。

 魔力による結界もある以上、物理的に破壊することはできない――いや、ユティスは壁越しに魔物の体が魔力を帯びていることを理解する。生半可な結界では、一瞬でたたき壊されて終わりだろう。


「この魔物が……アルガの配下なのか?」

「どうやら、そのようですね」


 ティアナは相当な警戒を込めて、ユティスに応じる。


「驚異的な重量にも構わず疾駆できる身体能力。ユティス様の魔法を耐えきる耐久性。さらに結界を壊せる可能性がある攻撃……私達でさえ状況によっては窮地に陥るほどではないでしょうか」

「まったくね」


 フレイラは呟きながら地面に突き刺した剣に魔力を込める。それにより壁が隆起し始め、魔物へ伸びる氷柱の刃が生まれた。

 その刃は三体全ての頭部に当たる。氷が砕ける音と、魔物の唸り声。ダメージはあったようだが、さすがに串刺しとはならない。


「皮膚そのものが硬いわね……しかも魔力を帯びている。牙が特徴的だけれど、それを使わずとも単なるぶちかましだけで魔術師にも対抗できるわね」

「フレイラ、氷の結界はどのくらいもちそう?」

「私が魔力を供給しているから当面は大丈夫だけれど……」


 会話を行う間に後方からアシラの操作する馬車が到着。すぐさまリザが馬車を飛び降り、オズエルとアリスがその後に続く。


「大丈夫か?」

「怪我はしていないよ。でも、注意しないと危ない相手だ」


 アシラは御者の操作があるため行動できない。よって、この面子で対応することになる。


「フレイラ、壁越しに攻撃とかはできる?」

「その場合、結界を弱めないといけないからたぶん魔物に破壊される」

「わかった……見た目以上に重く、接近戦に入ると思わぬ形で足下をすくわれる危険性がある。よって、一定の距離を置いて遠距離戦を行う。ただオズエル。そちらは周囲に敵の気配がないかを探ってくれ」

「わかった」

「フレイラは適度に結界を形成して魔物の侵攻を妨害して欲しい。どういう風にやるかはそちらに任せる」

「了解したわ」


 段取りが決まる。相変わらず魔物は氷の壁へ向け体当たりを仕掛けているが、破壊にまでは至らない。とはいえ衝撃により壁に少しばかり傷などできていることから、その威力が窺える。


「……アルガが滅したこの国では、目の前の魔物と多く遭遇することになるはずだ」


 そうユティスは語る。


「よって、この魔物に対しきちんと対処できるかが、今後の鍵になるはずだ……全員、それを肝に銘じてくれ……それでは、戦闘開始!」


 フレイラの氷の壁が薄まる。そして魔物が接近し――戦いが、始まった。


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