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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十一話
353/411

無人の村

 組織の人間と話し合った後、ユティス達はいよいよマグシュラント王国へと足を踏み入れる。その時点で既に異変があったことをはっきり確信させられる状況だった。

 どれだけ閑散としている街道でも、商人の往来くらいはある――ましてユティス達が通っているのは、町へと繋がる交易路だ。だが、人の往来がまったくない。


「気味が悪いな……」


 馬車の窓から外を見ながらユティスは呟く。


「関所で商人達も状況を把握するために動きを止めているなんて話があったし、商人側は現在崩壊したという情報をとりまとめている最中なんだろうけど……」

「少なくとも崩壊した町に人が戻らないことには、物流の復活はないでしょうね」


 フレイラが述べる。それにユティスとティアナは一斉に頷く。


「いえ、国の機能が死んでいるとしたら、もう復活の見込みもないってことなのかしら……」

「崩壊する原因が明瞭にならない限りは商人達が入ってくる可能性は低そうだしね。加え、今は無政府状態だから治安だって悪化の一途を辿っているはず。そんな場所に好き好んで入り込む者も少ないだろうし」

「――疑問があるのですが」


 と、ティアナは小さく手を上げる。


「アルガという人物が驚異的な存在であることは明白であり、私達も認識しています。ただ、一つ……凄まじい使い手であることは理解できますが、単独で一国を壊滅させることなど……可能なのでしょうか?」

「大天使の力がどういうものなのかまだ判然としないところがあるけれど」


 ユティスは口元に手を当てながら応じる。


「実際、それをすることができるほど……と考えるべきだ。ただここでいう最大の脅威は、継続戦闘能力だろうな」

「確かに、そうですね」


 ティアナも理解し呟く――いくらアルガでも全力で潰しに来る敵と全力戦闘を延々と続けることは厳しいだろう。いくら大天使の力を持っているとはいえ、あくまでベースは人間。どこかで疲労はするだろうし、体を休める時間が必要だろう。

 だが、アルガはそういう状況の中でも国を落とした。それはつまり、驚異的な体力などを有しているのではないか。


「大天使はたった三体で大陸の文明に壊滅的な打撃を与えた。これはつまり、それだけ戦い続けられるだけの能力を保有していることを意味する。魔法なのか大天使の特性なのかわからないが、アルガにもそれが継承されている可能性は高いだろうな」

「もし出会ってしまったら、私達か相手が倒れるまで死闘が続きそうですね」


 ティアナの指摘にユティスは頷き、


「恐ろしい存在であることは間違いないな……僕らとしてはアルガに対し戦法を構築しなければいけないけれど……体力を削る、というのは辛いだろうな」

「わかっていたけれど、難関ね」


 フレイラが告げる。次いで彼女は窓の外を見やり、


「さらに言えば、向こうはこっちが近づいてくるのを察知できる可能性とか……ないかしら?」

「十分考えられるな。そもそも大天使は技術を狙う存在だけど、どの場所に技術があるのかを探す必要がある。仮に魔力を察知する能力だとしたら、こっちの居所を対峙するまでに察知されるだろう……奇襲は通用しないと考えよう」


 その時、突然馬車が止まった。次いで御者台へ通じる窓が開き、ジシスが顔を出した。


「村があるのじゃが、様子を見るか?」

「遠巻きに確認して、人の姿はある?」

「動く者の存在はまったくなさそうじゃな。それに、奇妙なこともある」

「奇妙?」


 聞き返したユティスにジシスは神妙な面持ちで語る。


「アルガが村を襲い、その結果村人を皆殺しにしたとしよう。そうなった場合、死体が村の中に転がっているはずじゃが」

「そういう姿が、まったくない?」

「そうじゃ。まるで村全体が神隠しにでもあったかのようじゃな……」

「なら……一度アルガが潰した村を確認しておこう」

「わかった」


 というわけでユティス達は少し寄り道をすることに。馬車が村の前へと立ち止まり、中を確認する。


「本当に無人だな……けど、戦闘の痕跡は存在するか」


 家屋が破壊されている。加え、家の壁面などに血のりのようなものが付着している場所もあった。


「アルガが暴れた後、ってことか……」

「酷い、ですね」


 ティアナが村を見回しながら呟く。


「人の姿がなく、死体などがないため病気などが流行する可能性は低そうですね……その点について考慮する必要性がないのは良いですが……不気味ですね」

「そうだね……町が同じ状況だったなら、無茶苦茶だな」

「人間を殺して回るのも、意味不明よね」


 そう告げたのは、別の馬車から降りてきたリザだった。


「大天使は、文明を破壊する存在なんでしょう? この場合は人間を狙うこと自体副次的なもので、本来なら人間ではなく家屋などの方を優先とするはず。でも建物の損傷具合は大小様々であるところを見ると、人間を殺して回っているように見えるわね」

「村の異常性に気を取られていたけど、確かに本来大天使が保有する目的とは少し違うな……人間が大天使の力を保有したことで変質したのか、それとも――」

「何かしら狙いがあるのか、ね」


 と、これはフレイラの言。


「人を殺めるのは何かしら目的があり、それを遂行するため……と考えれば、一応行動は説明できる」

「狙いか……それはきっと、大天使と関係のあるものなんだろうな……最悪、大天使を目覚めさせるために殺める必要が出てきたとか」


 例えば、人間を殺めることで魔力を奪い取り、復活の鍵にするなど。大天使が眠っている事実を踏まえれば、魔力などを用いて目覚めを早くできる可能性はある。


「そうなったら想定以上の速度でアルガは準備をしていることになるわね……」


 ユティス達は少しの間考え込む。アルガの目論見は何なのか。


「……最初に訪れたこの村の時点で、アルガの異常性が浮き彫りになったな……次は町だ。この村のように人がいないのか、もしそうだったら、心底面倒だな」


 そう告げた後、ユティスは仲間に馬車へと戻るよう指示を出す。

 出発する彩破騎士団一行。まだアルガと直接相まみえたわけではない。だがそうした中で村の惨状を目の当たりにして――絶対に負けてはならないとユティスは改めて気持ちを引き締め直した。


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