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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十話
350/411

たった一つの過ち

 クルズから話を聞いて数日後、ユティス達は町を離れることになった。幾度も中へ入った会議場や騎士達に別れを告げ、一路彩破騎士団はマグシュラント王国を目指す。


「国内に敵がいるのなら、少なくとも国境をまたぐまで脅威はないだろうな」


 そうユティスは呟きながら、空を見上げる。

 次の敵に関する情報はクルズから得た。対策などは立てることができるはずだが――それを平然と上回るだけの能力を、間違いなくアルガという人物は持っていることだろう。


「人間であり武器を使うとは言っていたけど、どこまで人間の常識が通用するのか……」

「この場にいるのは、常識とは少しずれた人ばっかりのような気もするけど」


 と、横槍を入れたのはリザ。軽口ではあるが、その雰囲気は来たるべき敵に対し警戒を抱いている様子。


「でもまあ、これまでの異能者なんて目じゃないくらいに強いってことなんでしょうね」

「……最悪なパターンだと、一年という猶予のある大天使とも戦う可能性が出てくる。本当ならそれは避けたいけれど……」

「私達だけでは、勝てないでしょうからね」


 ティアナの言及。知り得た情報を考慮すれば、彩破騎士団の実力を持ってしても対抗できるかは厳しいだろう。


「ひとまずアルガを止めて……そこからでしょうか」

「期限は一年……公爵が今回手に入った情報を基にして色々と動いてくれるみたいだから、それに期待しよう」


 ラシェンもユティスから話を受け、大天使と戦うための準備を進めるということで動き始めた。彼自身組織が潰え危機感を持っている様子なので、問題はないだろう。


「ただ、期限の一年というのは国家間がやり取りするには短すぎる時間だ……異能者を保護する大陸の各国に情報を伝達し、どうするかを決める……そこから異能者を招集し、準備をするわけだけど、決めるという段階で半年くらいは経過していそうだ」

「そういう可能性を考慮したからこそ、異能を結集させるなんて考えに至ったのかもしれないわね」


 と、フレイラはふいに語る。


「大陸に散らばった異能者達の力を統合することで、招集とか面倒なことをやらずに済むわけだし」

「そこまで組織の人が考えていたとは思えないけど、結果的にそういう風に解釈できるな」

「でも、正直異能者で殺し合いなんて嫌ね」


 今度はリザが切って捨てる。


「手のひらの上で転がされるとか、特に」

「問題はそこなのか……ま、僕もそれには同意だ。組織の人からすれば世界崩壊を防ぐには必須だったのかもしれないけれど……それに」

「それに?」


 ユティスはリザと視線を合わせ、


「レイモンという人物のことを考えたら、例え異能を結集させたとしても、果たして勝てたかどうか」

「……正直、アルガという人物に勝てたかどうかも怪しいわよね」

「異能の使い方次第なのかもしれないけど、やっぱりこの方法には無理があったように思えるな」


 ユティスはそう感想を述べた後、前を見せる。


「ま、この辺りは答えなんて出ないから、議論はここまでにしようか……長い旅になる。けれど場合によってはこれが最後の旅だ。全員、気を引き締めて」


 言われなくとも、という雰囲気で騎士団の面々は頷く。そうして、ユティス達は決戦の地へと向かった――



 * * *



 マグシュラント王国における王城は、それこそ山に囲まれたまさしく難攻不落という形容の場所に建てられていたが、二千年前の技術を継承していた組織についても、同じだった。

 組織は元々、土地に眠る魔力の性質や、大天使が眠る場所に近いとしてこの土地に拠点を構えた。そこにマグシュラント王国ができたという話であり、閉鎖的で面倒な国家であっても、付き合っていかねばならなかった。


 ただ、その閉鎖性により組織の所在などが他国の者に露見することはなく、良かった面もある――加え組織は王城と引けを取らぬ堅牢な地に、拠点を持っていた。

 外観はただの町と神殿。神殿はマグシュラント王国内に町とセットで存在するものであり、ここがマグシュラントという国では他の場所と何ら変わらぬ場所であることを示し、怪しまれないようにしていた。異能者を統括する組織があるなどという事実は、町の人間の大半は知らず、完全に国に溶け込んでいた。


 けれどそんな町に人は――現在、いなくなっていた。いや、土に還ったという言い方が、適切だった。


「何故……貴様は……」


 男性が一人、路上に倒れている。出血し大地を黒く染める様を見れば、もう残された時間が少ないというのは誰の目からも明白だった。

 けれど、自分の死に対し男性は恐ろしいほど無頓着だった。倒れながら見据える先には――槍を持った男性が一人。


「何故……なんだ……」


 そしてうわごとのように何故、と繰り返す。対する槍を握る男は振り向いた。


「そんなこと、明瞭だろうが」


 その音は、決して粗暴ではなかった。外見は返り血で赤く染まっているが、それはまるで多数の悪魔を屠り続けた英雄のように、勇ましくも見えた。


「貴様らは、過ちを犯した……致命的な、人類が滅びる結果を生み出すことになる、過ちを」


 ビクリ、と倒れる男性が震えた。痛みを思い出したのではなかった。相手の言葉が、痛みを上回る鋭い一撃だったのだ。


「千年という長い期間、組織を維持し継承し……貴様らは、先祖達の英知を受け継ぎ、またそいつらの教えを受け続けた。絶対に、来たるべき戦いまで見誤ることがないよう……失敗しないよう、策を講じた。だがそれを、たった一つの行為によって黒く染め上げた」

「お前が、そうだというのか……」


 絶望を瞳に宿し、倒れる男性は問う。それに相手は「当然だ」と応じ、


「大天使の力を人間に付与するなどという愚かな行為……良かったな、研究者共。お前達の所業により、人類の終焉が確定した」


 直後、絶望の瞳から生気がなくなる。そして倒れる男性は、動かなくなる。

 舌打ちが一つ。槍を持つ男は侮蔑するように死に絶えた男を見下ろし、


「……あの世で後悔しろ。自分達の行いを省みて、永遠に絶望しろ」


 ボソリ、という表現の似合う呟きと共に、男は歩き出す。その背はもう、会話をした男のことなど、忘れているかのようだった――


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