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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第二話
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勇者への依頼

「――色々と、想像だけはできる状況だな」


 一言、年齢を重ねた声が、感想を漏らす。貴族服を着た濃い茶髪の男性。その瞳は、現状をどこか楽しんでいるようにも見える。


 個室、窓をカーテンによって閉め切られ昼間だというのに魔法の明かりが存在するこの空間に、五人の男性がいる。その内の一人は勇者シャナエル。城に通された後唐突にこうした部屋に連れて来られた。


 その上で、なんとなく事情を理解した。


(国からとはいえ……実際は、私的な依頼だったというわけか)


 依頼を行ったのは国としてのパイプを通してだが、実際は正面に座る人物の依頼だった。とはいえ重要なのは、目の前の人物が国の機関を利用して依頼を行った事実。彼自身権力を持っているのは間違いない。


 そしてシャナエルは、彼の背後にいる側近の騎士から一連の報告を受けた――聖女と農夫が呼んだ、不死者の事件について。


「私が最初に思ったのは、その聖女とやらが不死者を生み出しているか、そうした人間の仲間だということ……つまり狂言」

「私もそう思いました」


 返答したのは、シャナエルから見て右に座る金髪の――少年。名はレイル=ファーディル。以前の戦争で『創生』の魔法を駆使した、ユティス=ファーディルの弟。


 その事実を知った時、シャナエルとしては厄介だと率直に思った。私的に国の機関を利用する人物と、戦争で功績を成した人物の弟という組み合わせ。兄を追い落とすために秘密裏に活動している、という可能性を抱く他ない。


「ただし、これについてはもう少し調査を進めませんと」

「そうだな……そして勇者シャナエル。あなたに依頼をしたいのは、この件で」

「……ええ」


 頷いたシャナエルは、黙って目の前にいる人物の話を聞く。

 名は、カール=ブラウド。都で宮廷魔術師を取り仕切る組織『魔法院』の人間で、都にも邸宅が存在する。


「おそらく、彩破騎士団はこの調査に向かうことになる……それより先んじて、私達がこの事件の解決を図りたい」

「私達が、ですか」

「既に北部を管轄とする騎士隊長には話を通している……無論、彩破騎士団に対してある程度対応は施しているが、相手は『彩眼』の能力者であり、功績もある。どう転ぶかわからない以上、今後事件に介入し功績を一片たりとも与えないようにしたい」


 そうなれば、彩破騎士団の解散は確実――とでも言いたげな顔。正直シャナエルは関わり合いになりたくなかったのだが、仕方ない。


「北部の騎士隊長とは?」


 次に問い掛けるのはレイル。


「地方騎士団に話を通したわけでは、ないですよね?」


 ――ここで、シャナエルは騎士団の構造を思い出す。騎士団の組織自体はどの国もある程度共通しており頭にも入っている。


 一般的に騎士及び魔術師については所属している場所によって立ち位置が変化する。この都にいる騎士及び騎士団の隊長については『中央騎士団』と呼ばれ、王の手となり足となる役目を担う。その中でも特に選りすぐられた面々は『近衛騎士団』と呼ばれ、最も地位の高い騎士団に相当する。


 さらにそこから地方で王や『中央騎士団』の指示を受ける存在が『直轄騎士団』と呼ばれる。そして地方の領主などに忠誠を誓い活動する存在が『地方騎士団』であり、領内を守るということに限定した騎士団となる。


「ああ、今回は『中央騎士団』で北部を管轄するゼイク=エクサード殿に連絡を行った。彼から直轄の騎士団へ情報は行き渡ることだろう。この事件は複数の領内にまたがって発生しているため、管轄は直轄騎士団となる。そして……彩破騎士団は情報を手に入れることができなくなるというわけだ」


 なるほどと、シャナエルは思う。中央にいる騎士団を抱き込み協力させることで、最初から妨害を行おうというわけだ。


「彼らが右往左往している間に、私達が不死者の出現を察知し、討伐。そして聖女と呼ばれる存在を……捕らえる」

「捕らえ、どうなさるおつもりですか?」


 問い掛けたのは、シャナエルの左にいる人物。白い貴族服を着た金髪の男性であり、黙っていれば気品も感じられるのだが――その顔はどこか暗い影を落としたもので、あまり良い印象の人物とは言えない。

 名はベルガ=シャーナード。武芸に秀でファーディル家に近しい間柄であるため今回呼ばれたのだが、自己紹介の段階でシャナエルは不安に感じていた。


 彼の送る視線が――ひどく、猜疑に満ちているためだ。


「そこからは臨機応変に対応するべきだろうな」


 そうした視線に気付いているのかいないのか――カールは涼しい表情で応じる。


「目的などを聞き出すのも良いかもしれないが……私としては、その少女が使用する魔法や不死者の生成に少しばかり興味がある」


 これが、魔法を研究する者の性なのか――シャナエルはつくづく面倒な話になったと思う。ただ報酬は申し分ない上、メリットが大きいのは事実。しかし――


「レイル君、君にぜひともこの事件、解決してほしい」


 そしてカールはレイルへ告げる。それにどう感じたのかわからないが、レイルはただ小さく頷き、


「見事、応えてみせます」


 返答にカールも満足げな笑みを浮かべる。


「……必要な物資については私からも十分に提供しよう。なお同行者としては勇者シャナエル他、ベルガ……行ってもらえるな」

「はい」


 神妙な顔つきで返した彼に、シャナエルはさらに疑問がよぎる。どうにも、態度が――


「疑問に思っているようだな」


 ふいに、カールから言葉が。シャナエルが首を向けると視線が重なる。


「……彼は」

「少しばかり前の事件で関わりがあってね……場合によっては立場を悪くする可能性があるため、そうした情報を隠滅することと引き換えに、協力してもらっている」


 それはつまり、彼については半ば強引に事件協力させるということなのか。シャナエルとしてはさらなる不安要素にしか成り得なかったが、表情には出さず、


「わかりました……色々と大変のようですね」


 そう言うに留め、詳しい事情を訊くことはしなかった。


 やがてシャナエルは解放され、外に出る。早足で去るベルガに視線を送っていると、同じく部屋を出たレイルが口を開いた。


「厄介な事件だとお思いでしょうけれど……よろしくお願いします」


 殊勝な態度。シャナエルとしてはどう解釈すればいいのかわからない。


 そもそも、この事件に関わり彩破騎士団を潰すなどという策略を巡らせることは――兄であるユティスを追い落とすということに他ならない。言ってみれば彼は、兄と戦うことになるわけであり、


「……この話、君の立場としてはどう思っている?」


 思わず質問を口にしてしまった。本来依頼された立場である以上、深入りすべきではないと思ったが――


「両親は、兄上の功績をあまり快くは思っていないようです」


 答えは、あっさりと返ってきた。そしてその内容は、シャナエルとしても予想外のもの。


「戦争一つを集結させた……加え、政治とは半ば無縁の彩破騎士団という場に所属することとなった……元々病弱だったため屋敷を出ることの無かったためか、出世し続けた兄達に対し面倒事を生み出した、などと考えているようです」

「やりようによっては、それを生かすことだってできると思うのだが」

「成した功績が大きすぎるため、貴族達もどう対処していいかわからない様子だったのですが……やがて『聖賢者』入りするなどといった噂が流れ始め、それを奪われまいと色々と動き出した面々もおり、敵が増えている状況……兄さんから見れば、結果的にそうなってしまったと言うべきでしょうか。功績の大きさから、それを利用するより妬みそねみを回避するために両親も兄を敬遠しているという形になっています……けれど」


 レイルは少し間を置き、シャナエルへ告げる。


「彩破騎士団として国に貢献し続ければ、いずれ認めるのは間違いありません。ですが今回、私はそれを邪魔する形となるのですが」


 極めて冷静な口調だった。同時にシャナエル自身彼が多少なりとも感情を押し殺しているのが窺える。


 それがどういう意味を持っているのかシャナエルは上手く解釈できなかったが、視線からはユティスに対し嫌悪といった感情を抱いていない――むしろ、味方しているような雰囲気にも感じられた。


「……なるほど、事情はわかった。すまない、詮索してしまって」

「いえ、あなたも面倒な依頼とお思いでしょうが、どうかよろしくお願いします」


 再度告げると、レイルは颯爽と立ち去る。その動作全てが極めて優雅であり、この城に存在する政争という伏魔殿を生き残る術を、既に身に着けているのだとシャナエルは直感する。


「……やれやれ」


 そして最後に残されたシャナエルは、一人廊下でため息をつく。もう一人の勇者であるオックスは、屋敷に呼ばれたと語っていた。カールも詳しく語らなかったが、間違いなく彩破騎士団と共に行動しているのだと思った。


「――本当に、面倒だ」


 呟いた後、シャナエルは一人あてがわれた客室へ歩を進める。心の底からそう思っていても、勇者として依頼を請けた以上後戻りはできなかった。



 * * *



 ベルガは部屋を出た後、一目散に城の端へと移動する。そして人気のない廊下の角に立ち止まり、壁を背にしてポツリと呟く。


「――例の事件に、カールも食いついた」

「なるほど、わかった」


 別の男性の声。角の先にいると思われるのだが、ベルガの視線からは死角となって一切見えない。


「ならベルガ、そっちは引き続き彼らと共に行動してくれ。報告者はこちらが用意するから、定期的に連絡を頼む」

「わかったよ」


 答えると、角の先にいる人物の気配が消える。そして一人となったベルガは、


「……なぜだ」


 唇を噛み締め呟いた。


 なぜ、こんな役目となってしまったのか――以前の事件のことが露見したためか、それとも式典前の決闘で敗北したためなのか。

 どちらにせよ、あの決闘より前の境遇に戻ることはできなかった。そして自分の身には色々と非難の声も聞こえている。


 それを挽回するためには、功績が必要だった。そしてその足がかりが、今の境遇だった。

 だが、それ以外の理由もある。フレイラ=キュラウス――


「……奴め」


 武の女神などと言われもてはやされるのも今の内だ――そう胸の奥で考えた後、ベルガは目的を果たすべく歩き出した。


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