真実に対する推論
ユティスはオズエルから受け取った資料を精査し始める。これに時間は必要だったため、また数日経過してしまったのだが――
「……よし」
一通り確認した後、ユティスは一つの結論を導き出し、ラシェン公爵と話をする。そして彼に対しとある要望を行うと、公爵もまた了承した。
それからまた数日――結局会議が行われてずいぶん経過する結果となってしまった。
「仕方がないとはいえ、敵が動き出す可能性もあるから急ぎたかったけど……」
「焦らない」
横にいるフレイラが呟く。ユティスはそれに「ありがとう」と応じ、
「さて、紆余曲折あったこの都の出来事もこれが最後だ」
ユティスは述べる――この場には彩破騎士団全員が揃っている。
場所は異能者同士で話し合いを行った会議場。そこに全員が座り、来訪者を待っている。
約束の時間まではもう少し――と、ふいに扉が開く。現われたのは以前話をした、クルズ。世界の真実を知ると思しき存在。
「どうも、クルズさん」
「……ええ」
やや間を置いて返答した。それと同時にユティスは彼がどことなく疲れているように感じられた。
「ずいぶんと憔悴しているわねえ」
ユティスと同じことを思ったか、リザが言及。それにクルズは隠す余裕すらないのか、力なく笑った。
「さすがにこの態度を見れば一目瞭然というわけですね……ラシェン公爵から事情は伺いました。最早隠し立てする必要性もないでしょうし、お話ししておきましょう」
そうクルズは前置きをすると、
「とはいえ、長々と語るようなことはありません……簡単な話です。私が所属していた組織が、崩壊しました」
その言葉に対しアシラやティアナなどは目を丸くした。けれどユティスはその事実を動揺もなく受け止めた。
いや、それを聞いた瞬間、一つの真実に辿り着いた。
「……組織の本部は、マグシュラント王国にあったんですね?」
「その通りです」
「なるほど、閉鎖的な国家であるため外から情報がほとんど漏れない……組織の隠れ蓑にするにはうってつけの場所だ」
「組織の機能も死んだのかしら?」
さらにリザが問うと、クルズは深々と頷いた。
「そうですね……おそらく、件の暴君は我らの組織の場所に襲撃したのでしょう」
「何か恨みが?」
「……名前も知っているようなので語りますが、アルガは他の異能者とは異なる能力を持っています。それを具体的に語っても構いませんが……」
「色々と詳細を省かなければならない……この世界の真実に触れることになるから」
ユティスの指摘にクルズが言葉を止めた。
「……公爵の話では、あなたは真実の一端をつかんだと」
「そうですね……一つ確認ですが、遺跡から出土した歴史的資料などを破壊していたのは、あなた方ですか?」
「全てとは言いませんが、そうしたことを実行に移したケースもあります」
「そうですか、わかりました……これから僕とオズエルが協力して得た結論を話します。もし正解なら、より詳しい説明をしてもらう……今回はそう公爵に伝言を頼みましたが、それで構いませんね」
「はい」
クルズは頷く――寄るべき組織がなくなったためか、ずいぶんと小さく見えた。
「わかりました……騎士団の面々にも詳しいことを語っていなかったので一から説明するよ。まず、この世界には過去、僕らよりも遙かに先進的な文明を有する社会が生まれていた。それは僕でも途方もないレベルの……それこそ、空を飛ぶ乗り物が存在し、果ては空を超え宇宙に到達し、そればかりか異界にまで進出できるほどの技術がこの世界にはあった」
「それが今は見る影もないけれど」
「今から説明するよ」
リザの横槍にユティスはそう答え、
「非常に重要な点としては、そうした技術があったにも関わらず、僕らにはまったくと言っていいほど伝わっていないこと。遺跡を調査してその技術の一端を知ることができる程度。これについてはどう考えても理屈が合わないため、何かしら理由があると僕とオズエルは判断した……そうした中で特に重要なのは、この文明の消失は二段階に分けられている点だ」
「二段階?」
聞き返したのはフレイラ。ユティスは「そうだ」と応じ、
「先ほど語った想像もつかないような文明は二千年前に花開いていた……しかし二千年前に何かがあり、そうした技術がどうやら失われた。そして遺跡には二種類あり、二千年前と千年前……例えば僕らが調査に入った遺跡は千年前のものだ。その千年前でも僕らとは比べものにならない技術を保有していたにも関わらず、同じように遺跡から発掘した物でしか文明について把握することができない」
「そういえば、ふと思ったのじゃが」
と、語り出したのはジシス。
「ネイレスファルトにも遺跡はあったが、全て地下じゃったな」
「遺跡が地下にあるというのは、たぶん結果的な話だと思う」
「結果的?」
「遺跡は研究所などが多いみたいだけど、そうした施設はきっと地上にもあった。けれど地上にあった建物は喪失し、地下にある物だけが生き残った」
「なるほど、それなら頷ける」
「納得してくれたようなので話を進めるよ。そうした様々な技術がなぜ失われたのか……色々と推測できるけれど、僕らは一つの判断を下した」
ユティスはクルズを見据える。彼は表情を変えることなくただ話を聞き続ける。
「技術を破壊する存在がいる……二千年前と千年前の断絶は、そういう風にしか解釈できない」
「自然災害などではなく?」
尋ねたのはアシラ。ユティスは当然の疑問だと頷き、
「自然災害だとしても、二千年前の技術ならば復活は可能だったはずだ。異界や空へと逃げることだってできたわけだし。けれど実際技術は失われた……それを直接的に破壊……あるいは人間を虐殺するような存在がいたとしか思えない」
「それが千年前の技術喪失にも関係していると?」
にわかに信じがたい、という表情でフレイラが質問する。そこでユティスはオズエルを見た。
「……なら、ここから俺が説明をするとしよう」
そう語る。途端、視線がオズエルへと集中した。