会議の総意
――翌日、ユティスは再び異能者同士の会議へと臨む。全員が集まったところで、議事進行のオーテスがまず口を開いた。
「昨日の宿題ですが、どうやらそれぞれ答えを持ってきたようですね……もっとも、その答えはほとんど決まっているでしょうけれど」
オーテスの言葉に参加者の大半は難しい顔をする。暴君がどう動くかわからない以上、ひとまず様子を見る――現状維持しかないと誰もが悟っていることだろう。
だが、そうした答え以外を提示する者がいた。ユティスだ。
「発言してもいいでしょうか」
ユティスが問う。オーテスが頷くと、
「これは彩破騎士団の総意ですが……私達は単独でも、最後の勢力を打倒すべく動くつもりです」
――会議場に沈黙が生じる。そういう決断をするのではないか、という予想をしている者もいたかもしれない。
「とはいえこれはあくまで彩破騎士団の独断で決めたことです。共にここを訪れた公爵は賛同してくれていますが、実際は国と協議しなければなりませんので、本当に実現するかは不透明です」
「……現状、敵はまだ動いていません」
そうオーテスは口を開く。
「ですが、それでも……戦うと?」
「はい。これ以上犠牲を増やさないために」
ユティスはそう語ると、オーテスは一度目を伏せた。
「おそらく、将来的な犠牲を考慮して戦う意思を示したのでしょう……ただ、それは決して平坦な道ではないですね」
「無論です。勝機はか細いですが見出しました。けれどそれを実現するには、様々なものが足りない」
そう告げるとユティスは一度間を置いた。
「しかしどこかの国で暴れ始めたら全てが遅い……なおかつ、彩破騎士団は異能者を迎撃した経験もある。ここはいの一番に動くべきではと、判断しました」
「……わかりました」
オーテスは言うと、ユティスと視線を合わせた。
「少々、時間を頂けないでしょうか」
「時間……?」
「彩破騎士団の意向、しかと聞きました。私達が参戦することはおそらく難しいですが、支援することはできる。必要な物資の調達などを含め、協力できることは協力したい」
「それはたぶん、俺達もやるべき話だな」
そう口を開いたのは、ナザだ。
「直接的ではなく、間接的な支援ならば国の人間も納得しやすいだろ」
「そうですね。私も話をしてみます」
続いて表明したのは、エファ。
「巨大な存在に立ち向かわなくてはならない……ここで協議をしていたのは、異能者襲来に際しどう連携するかについてでした。攻め込むことは想定していませんでしたが、マグシュラント王国の状況などを鑑みて、支援することの意義などは説明しやすいと思います」
「……ただ、私達は戦わない。彩破騎士団に全てを背負わせるような形になってしまっている」
負い目を感じるようにオーテスが述べる。しかしそれをユティスは首を左右に振って否定した。
「非常にありがたいと思っていますから」
「そう言って頂けると……しかし、具体的にどう行動しますか? 一度国へ戻ってから?」
「現在公爵が彩破騎士団の考えを本国へ書面でしたため、連絡を待っている途中です。その結果を見て判断する……もし騎士団が動いて良いというのなら、ここにはいない騎士団の面々も来るでしょう」
「騎士団全員で戦うわけですか……しかし――」
ロゼルスト王国としても、騎士団を失うわけにはいかないし、難しいのでは――そういう考えがオーテスの頭の中にある様子。
ユティスとしてもここは賭けの部分に近い。だが政争に勝ち、彩破騎士団の意向が反映されやすい土壌もできている。「絶対に止めろ」と言い出す可能性も否定はできないが、国が許可する可能性もまた十分あるとユティスは思っている。
「助力は大変ありがたいですが、無理はしないようにだけお願いします」
ユティスが述べるとオーテス達は頷き、会議は終わる。ひとまずユティス達以外は参戦しないが、支援はするという約束を取り付けることができた。
実際に結果が出るまではまだ日数が必要だろう。それが明確になるまではさらにここに滞在することになる。
「ずいぶんと長いことここにいることになってしまったな」
「状況がずいぶんと変わってしまったし、仕方がないんじゃないかしら」
リザが言う。ここでユティスは彼女に顔を向け、
「今日は声を出さなかったな」
「その必要性も感じなかったからね。ユティスさんが表明するとみんなが続くと予想はできたし」
「そっか……重いも寄らぬ形で決戦の部隊ができてしまったな」
「みたいね。けど、わかりやすくなって良いのではないかしら」
「戦いは熾烈を極めるだろうけど」
「それはどのような形になっても同じじゃないかしら」
リザの提言にそれもそうかとユティスは内心思う。
「なら僕達は、頑張るしかないか」
「その意義だと思うわ。けど、国側がマグシュラント王国へ入ることを許すかどうかだけど」
「僕は賛同してくれると思う。ただ、さすがに騎士団とは所属が違うエドルについては戻るよう言い渡されるかもしれないな」
「ああ、確かに……国の守りは銀霊騎士団に任せるって感じかしら?」
「そういう考えで僕はいいと思う」
会話をしながら会議場を出ると、フレイラ達が待っていた。
「上々の結果だったみたいだね」
「ああ。どういう結論になるのかはもう少し時間が必要だけど……ロゼルスト王国からの連絡も待たないといけないし」
「それは時間掛かるだろうから、会議が終わってしばらくしてもまだここに滞在することになりそうね」
ユティスは首肯しながら、頭の中でこれからのことを考える。
支援するにしても、どういう形で協力するのかなど、やるべきことは多い。ただこれはユティスではなくどちらかというとラシェンの役目になるだろう。
「公爵の調整能力に期待するしかなさそうだな……と、会議は今度こそ一段落したわけだし、僕らはやることを住ませよう」
「やることって?」
首を傾げるフレイラに対し、ユティスは彼女を見返し、
「一つ、やらなければならないことがある……レイモンとの面会だ。何も話さないとは思うけど、一度顔を合わせておきたい……いや、合わせなければいけないような気がするんだ――」