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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第二話
34/411

少女の情報

 ――フレイラとオックスが立ち去る光景を、ユティスはただ茫然と眺めるしかなかった。


「すまないな、オックスはああいう性分なのだ」


 ラシェンが言う。顔には苦笑が漏れていた。


「とはいえ、技量については私が保証する……一人では心もとないとは思ったが、方々に連絡をした結果、彼以外来なかった」

「……それは、構いませんが」


 ユティスが応じた後、再度ラシェンは苦笑し、


「そうだ……話は変わるのだが、君に渡しておきたい物があった」


 告げると懐から青い腕輪を取り出した。


「……魔具、ですか?」

「そうだ。自身の魔力を溜めておく機能がある」


 告げながらラシェンは、ユティスへ笑い掛ける。


「異能を使う度に体に負担が掛かる……その中で体から魔力を取り出す行為はその最たるものだろう。だから事前にある程度この腕輪に溜めておければ、体の負担が少なくなるのではないか?」

「確かに、そうですね」

「これからの戦いに役立つ物だろう。ぜひ使ってくれ。説明書はこれだ」

「ありがとう、ございます」


 ユティスは礼を告げながら受け取り――さらにラシェンは語る。


「それと、わかっていると思うが……今はまだ城の関係者や騎士団などに対し『異能』を見せたりしない方が良い。君の異能は風の聖剣を生み出したことによってずいぶんと語られているが、強大な力であるという事実が特に広まっている。だから公の場で使用すれば、重臣達を刺激しかねない」

「はい、わかりました……話を戻しますが、不死者云々については後で説明して頂くとして、今後の私達はどのような予定で動けば?」

「案内役は今日か明日にも決まるだろう……その後出発してもらい、北部にあるリーグネストまで馬車で移動してもらおう」


 リーグネスト――北部にある都市の中で三番目に大きい街。北西に位置し、隣国からの交易路としても活用されており、人の往来が多い都市とユティスは聞いている。


「街で騎士団の詰所へ赴き、情報を集め不死者の群れが出現したならそこへ行き、不死者を生み出している存在を捕らえる。もし街の周辺で異常が無ければ……まず、最初に事件が生じた場所に行って調査してもいいだろう」


 そこまで言うと、ラシェンは肩をすくめた。


「君の体調を考えれば転移魔法でも使えればいいのだが――」

「いえ、緊急事態でもないのに使ったら、それこそ私達を追い落とそうとする人物達に隙を与えることになります」

「それもそうだな」


 ラシェンは苦笑――ユティスもまた、同様の表情を示す。


 転移魔法自体この世界には存在しているのだが、不用意に使われれば国防的にまずいということから、基本国内には転移魔法禁止の大規模魔法が使用されている。例外は城などの下に眠る大地の魔力を借りて長距離を移動する転移魔法陣。けれどそれもまた緊急避難用ということで通常は封印されており、使用の是非は王が決める。

 今回のケースは王を味方にしているため嘆願すれば使用できる可能性もあるが、さすがに緊急事態でもない現状で使用すれば、重臣達を刺激しかねないためやるべきではない。


「あ……それと、もう一つ確認が」

「何だい?」

「先ほど不死者は地に干渉するものだと仰っていましたが……土地の魔力に影響は?」


 ――地に干渉する魔法というのは基本、大なり小なり大地に内在する魔力に影響を与える。以前ユティスが行った風の聖剣生成についても多少なりとも影響は出たが――ひとまず、作付けなどに影響はないという調査結果が出た。


 通常、人一人が使用するレベルの魔法では影響が出ても一時的なものでしかないのだが――効力が低くとも土地の魔力に大きく干渉する魔法も存在しており、その場合は作物や水に何かしら影響が出てしまう。その場合最悪実りが少なかったり、水などを飲むことにより体調を悪くするケースもある。


「不死者が出現する場所は僅かながら魔力が変質してしまうらしいが……簡単な調査では人に害を与えるものではないらしい。それを元に戻すこと自体は完全に事件を解決してからになるだろうな」

「わかりました……それで、最初の事件というのは?」


 ユティスは話を戻し尋ねると、ラシェンは渋い顔をした。


「北西部にあるアレング山脈の一角にある村……そこに訪れた行商人が第一発見者だ。村人が全員、殺されていたとのこと。魔力が同じように変質していることから同様の不死者が出現したけ結果だと結論が出た。それが最初の事件だと言われている」

「……村、全体が被害を?」

「ああ。しかし奇妙なことに他の出現地点では目立った被害がない。つまり最初のその村だけが、不死者による犠牲となったのだが……」


 硬い表情で語るラシェンに対し、ユティスは少し考え、


「……確かアレング山脈のとある地区は、魔法を排斥していましたよね?」

「そうだ。ちなみに今回襲撃された村はその場所に該当する」

「ロクな武器もなく不死者に対応できず……というわけですか」


 ――その場所では魔法を扱う者を忌み嫌っており、中でも魔術師を『魔女』と呼び殺すケースまであるとユティスは知っていた。


「不死者を生み出す人間は村出身者で、何か恨みがあったとか、でしょうか」

「可能性はある……そういった調査を含め、一度行ってみても良いかもしれない」

「村が崩壊したなら遺留品なんかは別に保管されているはずですよね?」

「おそらくリーグネストの騎士団詰所だろう。とはいえ見逃された物があるかもしれないし……現地へ行くことで、何かヒントになるようなことがあるかもしれない」

「わかりました」


 ユティスは了承。発端となった村である以上、調べる価値はあるとユティスは思った。


「さて……フレイラ君達には後で話すとして、不死者が死滅する件について話そう。これには先ほど言った通り、とある少女が関わっている。それを目撃した農夫は、彼女のことを聖女と呼んだそうだ……ただまあ、事の経緯を知れば色々とユティス君も色々考えるだろう。しかし現時点では推測しかできない。だから今はこうした事実があったということだけ、胸に留めておいてくれ――」



 * * *



 その農夫が事件に関わったのは、日が出た直後畑に向かう途中だった。

 いつもの時間に起床し、村を出て畑に向かう――時折魔物が出るため一応護身として身を守る魔具くらいは装備しているのが常であり、彼も魔物を見たくらいで驚くようなことはなかった。


 年齢は初老を迎えた程度。白髪でくわを持ちゆっくりとした足取りで農道を進んでいる途中だった。


「……ん?」


 自身が耕す畑に、人影があった。まだ芽も出ていない状態である畑に物取りとは考えにくく、かといって賊のような出で立ちでないことは遠目でもわかった。

 しかも挙動がかなりおかしい。一歩進んだかと思うと立ち止まり、さらに一歩、止まる、一歩を繰り返す。


 不審に思った男性は眉をひそめながらも畑へ進む。やがて近づきその姿を克明に捉えようとした時、

 気付けば、別の畑に新たな人影。男性はそれに驚き注視しようとした。けれど、


 今度は、突如獣が発するような唸り声。明らかに様子が変だと思った農夫は、村に戻るべきか、どういう状況なのかを確認するべきか迷った。

 その間に、気付けばさらに人影が増えている――何事かと思った矢先、農夫の目にある光景が飛び込んできた。


 突如、何もない地面が隆起し、それがやがて形を成し人型となる――農夫はふと、ここがロゼルストが内乱を起こしていた時戦場の一つとなっていたことを思い出した。もしや、そうした人間を魔法によって復活しているのではないだろうか――


 推測した時、農夫は足を村へ引き戻そうとした。けれど、今度は背後から唸り声。慌てて首を向けると、通って来た道に沿う畑に、同様の人影が出現していた。


 農夫は言葉を失くし、一時立ち止まったが――戻ることを決断。くわを両手に持って襲われても反撃できるように構えながら、村へと歩き始める。

 できるだけ、人影を刺激しないように――というのは果たして正しかったのか。途端、人影はにじりよるように農夫に対し包囲を狭め始める。


 気付かれたなどと思った時にはもう遅く、農夫はクワを握り締めながら怯えた眼差しを人影に向ける。そうして見えた相手はボロボロの衣服に、見るも無残な顔をした異形。農夫は呻き、くわを握る手が震えた。

 最早、一刻の余裕もない。しかし足は動かず、ただ襲われるのを待つのみ――そんな時だった。


 突然、光が――一筋の光が、帰り道方向にいた人影を一つ、吹き飛ばした。光に当たった人影は一瞬にして消滅し、農夫は瞠目する。

 次いで、さらに破裂音。振り返ると畑に存在していた人影が光を受けて次々と消滅していく姿。目を離した隙に十体以上に膨れ上がっていたそれらを、光が正確に射抜き吹き飛ばした。


 何事か――農夫は事態の変化に追い付けず、ただ消えていく人影を呆然と見送るしかなく、


「――すいません」


 横から、突然声。農夫が驚いて振り向くと、そこにはいつのまにか一人の少女が立っていた。

 赤髪かつ、白い外套に身を包む少女。年齢は十四、五といったところか。整った顔立ちと大きな黒い瞳は見る者を呻かせるような美麗に満ちているが、取り巻く空気は悲哀しかないと、農夫は直感的に思った。


「大丈夫でしたか?」


 さらに少女から声。農夫はただ頷いただけなのだが、少女はそれに対し薄い笑みを浮かべ、


「……周辺の魔物は倒しました、ご安心ください」


 一方的に告げた後、農夫が進むはずだった畑への道を歩き出す。思わず呼び掛けそうになったのだが結局言葉は出ず、ただ茫然と見送るしかない。


 やがて少女の姿が小さくなり――先ほどの光を見て、きっと現れた不死者達を浄化させたのだと、農夫はなんとなく思う。


「……聖女」


 一人、農道の中央で立ち尽くす農夫は呟く――これが、少女に関する唯一の情報だった。


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