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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十話
339/411

進むか退くか

 会議が一段落して、ユティスは宿へと戻ってくる。戦いが終わりまだ滞在しているわけだが、最後の議題が解決しない限りおそらく町を離れることはないだろう。


「ユティス、話は聞いてる」


 そうした戻ってきた部屋で、フレイラを含め彩破騎士団の面々は待っていた。


「エドルさんについてはラシェン公爵側で協議すると言っていたよ」

「そっか……公爵は彩破騎士団の今後について、どうだと言っていた?」

「任せる、と」


 それは――ユティスは一考し、


「状況的に、被害拡大を防ぐにはマグシュラント王国へと踏み込むしかないようだ。けど話を聞く限り国としての機能を喪失しているし、中がどうなっているか予想もつかない」


 語った後、ユティスは小さく息をつき、


「こちら側はどうにか協力態勢……体裁だけは整った。後はどこで踏ん切りを付けるか、だ」

「最後の敵は、マグシュラント王国から動いていないようですが」


 これはティアナの言。ユティスは「そうだ」と同意し、


「しかし、いつ別の標的に目を向けるかわからない。もしかするとここへ攻め込んでくる可能性も、ゼロじゃない」

「そうなったら……」

「迎え撃つべく準備を進めることになるけど……さすがに相手がそう動くとは限らないし、そもそもここを訪れた主目的はあくまで会議だ。その目的とは逸脱するため、長期間滞在なんてすれば、様々な国からも反発があるだろう」

「そうだね。となると帰国してから決めるしか――」

「彩破騎士団として動くのなら」


 フレイラの言葉を押し留めるように、ユティスは語る。


「敵対的勢力を倒すつもりであれば……他のメンバーを呼び寄せ、マグシュラント王国へ侵入するのも一つの手だ」

「犠牲を増やさないように、か」

「そうだ……ただし、相手の陣地に踏み込むことになる。なおかつ他国から支援を受けられるかどうかもわからない。彩破騎士団の独立した行動になると……さすがに厳しいか」


 勝機となる何かがあれば――そう考えていると、コンコンとノックの音がした。


「はい」


 ユティスが返事をすると、扉が開く。現われたのはラシェンだった。


「悩んでいる様子だな」

「ラシェン公爵はどうして?」

「決断を一任したが、攻め込むにしてもおそらく不利な情報ばかりで難しいと判断するだろう。だから作戦に使えるような情報を持ってきた」


 語りながら彼は何かを差し出した。紙の束だ。


「マグシュラント王国の地形と、魔力集積地点だ」

「……なぜそのような物を?」

「私が持っていたわけではない。提供したのはレイモンの傍らにいた女性……ドミニクだ。より正確に言えば、レイモンが隠し持っていた荷物の居場所を彼女が語って手に入れたのだが」

「彼女が……?」

「彼女自身、最早こちらに敵対する理由もない。むしろ自身の命を取られないよう協力するということのようだな」


 語りながらラシェンは苦笑する。


「レイモンは戦意喪失していながらこちらに非協力的だが、彼女はそういうわけではないのだろう……とにかく、攻め込むための必要な情報だろう?」

「そうですね」


 ユティスは同意する。もし国を滅ぼすほどの暴君を相手にするのなら、対抗できるのは間違いなく『創生』の異能しかない。


 ラシェンから受け取りユティスは紙束を広げる。それはマグシュラント王国の詳細な地図だった。なおかつラシェンが語ったように魔力の集積地点も明瞭に描かれている。


「おそらくレイモンは『創生』の異能を得た後、この地図を有効活用するつもりだったのだろう」


 そうラシェンは解説しながらユティスを見据え、


「彼はそういった異能を所持していなかった。よって君の異能は何より欲しかっただろう」

「……最後まで抵抗していたのは、僕が近くにいて異能を奪えると考えたから?」

「そうした可能性もありそうだな……さて、どうする?」


 ユティスは地図を見下ろす。王国の首都は国の北に位置する。ただし国全体が山によって囲われていることに加え、首都近郊はさらに険しい山々が連なる天然の要害だった。


「地形だけを見れば、まさしく守りやすく攻めやすい……軍隊を率いるとしても、十倍以上の兵力差があればどうにか、というほどのものだ。軍師も頭を抱えるほどのまさしく要塞だな」

「しかし、少数ならば……」

「うむ、少人数であれば山越えもそう難しくはないだろう。山が連なってはいるが決して上れないほどの険しさはないようだからな」

「国が崩壊している以上、おそらく軍隊を相手にする必要はない」

「魔物は跋扈している危険性はあるが、大軍勢を相手取る可能性は低いだろう。よって彩破騎士団だけでも動くことはできる――とは思うが、リスクは高いな」

「相手の陣地へ入り込む以上は、当然ですね」


 ユティスは答えながらも、打倒の可能性は十分あると思い始める。


「魔力集積地の詳細をここでも確認できるので、色々と思い浮かびますね。魔力の質についてもある程度記載されていますし」

「やりようはあるか?」

「事前に準備をしておけば、マグシュラント王国へ入って『創生』を行使しても十分強力な武器を作ることができると思います。ただ、問題は敵の情報がないこと。何を作成すれば有効なのかがわからなければ……」

「さすがに作成できるのは一つだけか?」

「体力的にどれだけもつのか不安もありますが……それに、今回は移動するわけですからね」

「体に不安要素を抱えるわけだし、あまり何度も異能を行使したくはありませんね」


 ティアナが懸念を告げる。全員が一時沈黙し、思案を始める。

 どうすべきか――暴君の情報がわからないことがネックではあるが、今ある情報だけでも、攻め込むには十分な内容ではある。


(犠牲を増やさないためにはすぐにでも動くべきだ……けど、国すら潰した相手に勝てるのか?)


 それほどの敵。果たして異能で補えるのか――


「どれだけ力を有していようとも」


 やがてラシェンが口を開く。


「敵は異能者だ。必ず弱点はあるだろう。もし攻めるならば情報集めを行うことを優先し、魔力集積地点へ向かうのが妥当か」

「そうですね……僕は……」


 やがてユティスが口を開く。それに対しこの場にいる面々は沈黙し、言葉を待つ構え。

 ユティスもまた声を発した後、少しばかり間を置いた。頭の中で言葉を選び、そして、騎士団の面々へと思いを告げた。


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