悲劇の情報
その後、様々な問題――というよりなぜ敵対勢力がいて黙っていたのかについて紛糾した――が発生したが、どうにかこうにか解決した。少なからず政治的な駆け引きがあったようだが、ユティスは深く関わっていないので結局知ることはなかった。
そして異能者を狙う存在が消えたことにより、諸国は安堵と同時に不安を覚えることになった。残る敵対勢力は一つ。それがいつ何時襲ってくるかわからないのだ。
「……ひとまず、話はまとまりました」
そうオーテスは語る。場所は異能者が顔を合わせた会議場。開催期間は過ぎているはずだが、事態の収拾のために数日残ったというわけだ。
「諸処問題もありますが、異能者同士が手を組むことについては比較的スムーズに話が進みそうです。しかしだからといって安心してはいけません。今回についても幸運に恵まれ敵対勢力の存在に気付くことができた。また同じようにできるとは限らない」
「こう言ってはなんだが」
と、ナザが口を開く。
「協力しようって段階に到達するまでに、既に敵から攻撃されているわけだからな」
「そういうことです。もっともだからといって価値がないわけではありませんよ」
ニコリとするオーテスは、続けて語る。
「次に今回捕縛した異能者……レイモンについてですが、相棒の女性と共に異能を封じ、牢屋で拘束しています。ひとまず異能を行使される危険性はないですし、現状問題はないかと思います」
「これからどうするんですか?」
ユティスが問う。いつまでも同じようにしておくことはできるのか。
「その辺りについてはエファ様と協議を重ねています。後日、特別な場所に収監されるでしょう。既にエファ様とその所属している国とも話を進めています」
そう語った後、オーテスは苦い顔つきとなった。
「ただ、彼は以降こちらに敵対する可能性は……低いかもしれませんが」
「なぜですか?」
「……一つ、情報がこちらに入りました」
オーテスは深刻な表情。何事かと思いながらユティス達は見守る。
「おそらくこれはレイモン自身も予期していなかったかもしれません……その事実を告げると、彼自身意気消沈としていました」
「意気消沈……?」
「はい。まずその情報を得るに至った経緯を説明します。彼を捕縛した後、怪しい人物が町中にいたため拘束、聴取をした結果、彼と連絡をとる人間だとわかりました。運良く話を聞くことができ、彼は……マグシュラント王国の王族だったようです。ただ直系などではなかったようですが」
王族――なるほど、異能という絶対的な力を手に入れ、国をも手に入れようとしたのか。
ユティスは彼と行った最後の攻防を思い出す。あの必死さは、きっとそれが理由だったのだ。
「そして、連絡役の人間から情報を得た……マグシュラント王国はどうやら、大変なことになっていると」
「それは――」
「敵対勢力……残る一つである、単独行動の人物が入り込んだと」
まさか――会場はにわかにざわつき始める。
「私達もまさか、と思いましたが……ちなみに連絡役の人物がその異能者についてなぜ知っていたかは……王族と関わる人間であれば、情報を耳にしていたようです。どうやらマグシュラント王国は、異能者に関する情報を多数保有していた」
「だからこそ、様々な異能を奪うことができた、とも言えるわね」
リザが口を開く。オーテスは神妙に頷き、
「そうでしょうね……マグシュラント王国側は侵入者に気付き、迎撃態勢を整えた。彼らとしてはもし交渉ができるならば協力を持ちかけるつもりだったようです。援助する代わりに、他国にいる異能者を潰せと」
その中には十中八九彩破騎士団が――最優先の対象として上がっていたに違いない。
「けれど、交渉は不調に終わった……そればかりでなく、攻撃してきたため国側も対抗した」
「……考えたくないですが」
と、フレンが口を開く。
「国と喧嘩して、多大な被害を出したと?」
「いえ、違います」
オーテスは首を左右に振る。だがその表情はさらに険しさを増す。
「より正確に言えば、それどころではない」
「え……?」
「マグシュラント王国は、蹂躙された……たった一人の異能者によって。鎖国的な政策を行っているため、まだ情報が外に漏れてはいませんが……マグシュラント王国は文字通り、崩壊した」
想像もできなかった内容だった。まさか一人の異能者が――
例えばユティスならば、時間を掛ければ大地を消し飛ばすような武具を作成することは可能だろう。それはウィンギス王国との戦いからも証明できる。しかし国を丸ごと消失させるような力は、とてもではないが不可能だ。
他の異能者も同様だろう。とても国を壊すほど力を維持できるとは思えない。だが最後の敵対勢力は、それをやってのけた。
「レイモンは異能を手に入れる意味が喪失したと語り、戦意を失いました……そして次の相手は、一国を滅するほどの力を持つ、暴君です」
「厳しい戦いが予想できますね」
ユティスが述べる。他の者達も、沈鬱な面持ち。そうした中でオーテスは続ける。
「現在、異能者はマグシュラント王国内に留まっており、動いていないようです……もっとも、いつこっちに来るかわかりませんが」
「野放しにしておくと、他国も同じようにされかねないな」
ナザの言葉。彼は腕を組み、思考しながら話し続ける。
「協力態勢を確立させ、もしそいつに襲われたら他国が協力して対処する……これが筋みたいだが、どれだけの犠牲を出せば勝てるのか」
「これ以上被害を出さないようにするためには、こちらから打って出るしかないですね」
ユティスはそう告げる。
「これは勘ですが……マグシュラント王国に留まっているのは、こちらの動向を窺っているからかもしれません」
「その可能性が高いと私は思います」
オーテスが反応。それと共に彼は一同をぐるりと見回し、
「決断を迫られています。戦うか、守るか……とはいえ、それはここで決められるものではありません」
語るとオーテスは、会議を締めくくるべく告げた。
「既にこの情報は各国に通達しています。よって、それぞれ話し合い……どうするかは、決めていただきたい。それがこの会議における、最後の議題です――」