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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十話
333/411

開戦

 レイモンは全ての準備を済ませ、ドミニクと共に宿を出る。そこから懇意にしていた町の人間を通じて、情報を得た。


「会議場を出たらしい……いよいよだな」

「レイモン、部下は展開したわよ」


 ドミニクが言及。それにレイモンはほくそ笑み、


「よし、それじゃあ動くとしよう。場所は――」


 彼女へ指示を出しながら町の中を歩く。会議開催中は町の散策も適度に行い、地図が頭の中に入っている。どのように動けばどの場所に最短距離で行けるかなどは、既に把握している。


「ドミニク、ここからは時間との勝負だ。わかるな?」

「ええ、当然……で、私は――」

「一ヶ所目をこっちは目指す。ドミニクは二ヶ所目のポイントに部下と共に布陣し、標的を食い止めろ」


 まず最初の異能者に対し奇襲を仕掛け、異能を奪い取る。彩破騎士団は即座に応戦する構えを見せるだろうが、さすがに他の者達は異能者が襲撃されたとして右往左往するだろう。

 中には逃げ出す者もいるはず――それを抑え込むのがドミニクの役目。異能を用いて退路を限定し、そちらへと誘い出す。


 二人目を倒した時点で会議の者達は完全に浮き足立つ。そこへ異能者の一斉攻撃――実際はレイモンによる攻勢を仕掛け、異能者を撃破していく。


 これがおおまかな段取りではあったが、無論のこと取りこぼしを含め予定外の事態に陥る可能性は十分ある。だがレイモンは問題ないとして作戦の遂行を指示したのだが、


「……少し、異能者達の様子を見てもいいかしら」


 ドミニクからの提案。それにレイモンは見返し、


「どうした?」

「レイモンが狙いを定める異能者だっているはずだけど、彼らがどのような行動をとるのかギリギリまで知っておきたいのよ。加え、彩破騎士団の動きも気になるし」


 ――目下、脅威となり得るのはこの国の異能者である騎士と、彩破騎士団くらいのもの。ただし彼らは十二分な戦力を保有し、即座に対応できる心構えはしているはず。ドミニクが警戒するのも頷ける。

 とはいえ、レイモンとしては予定が狂ってしまうのもあまり好ましくないと考えているが――


「決してこの計画が万全、というわけでもないでしょう?」


 レイモンが口を開こうとした矢先、ドミニクが言及する。


「異能者達がどういう風に動くのかは私達も予測しかできないわけで……せめて彩破騎士団の位置くらいは見ておかないと、こっちに狙いを定められたらせっかく食い止めていても押し切られてしまうわよ?」

「……ふむ、そうだな」


 レイモンは口元に手を当て、一考。


「わかった、いいだろう。ならばギリギリまで帯同するという形で」

「ええ、じゃあそれで」


 二人して町中を進む。大通りに出ると、商人の声が聞こえてきた。

 周囲を見回す。やや遠くに異能者らしき面々がいた。


「いたが……彩破騎士団はいないか」

「そのようね」


 ドミニクの返事を聞いた後、レイモンは歩き始める。異能者は大通りにいるようで、どうやら見送りを行うために騎士達も動いているようだ。


「政府要人の護衛という意味合いもあるか」

「大丈夫かしら?」

「作戦が始まったらどれほど熟練した騎士でも有象無象にしかならない」


 切って捨てる物言いと共にレイモンは歩を進める。多少騎士が多いくらいで他は昨日までの町並みとほとんど変わらない。


「……ドミニク、動くぞ」

「ええ、わかったわ……けど、最初の目標は?」


 問い掛けにレイモンは視線で応じる。いくらか異能者が固まっている一団。その中で女性の姿があった。

 その人物が異能者であることはレイモンも認めている――よって、そちらへ歩み始めた。


 距離が遠ければ、当然異能を用いても攻撃を避けられてしまう可能性がある。町中で騒動となれば混乱も生まれ、人の流れも濁流となる。当然異能者も見つけづらくなるため、最初の一人は可能な限り接近して仕留めた方がいい。


 可能であれば暗殺のような形が――そんなことを思いながらレイモンは一度周囲を見回す。彩破騎士団の面々はいない。いや、遠目ではあるが騎士団の団長らしき女性が会議場方向にいるのを発見。

 あの調子だと、創生の異能者も周辺にはいないだろう――障害はなくなった。


 レイモンは異能の準備をする。いくつも内に秘める異能の中で、状況に沿ったものをピックアップする。

 言うなればそれは、音を消す異能――『全能』に区分されるそれは、範囲を設定して音そのものを遮断する。より正確に言うならば、音を遮断するのではなく制御するといった方が正しいか。


 もっとも、音をあくまで制御するだけで、攻撃に転用などは厳しい。『全能』の中には特化しているが故に攻撃性能を持たないといった異能も存在しており、レイモンとしてもあまり価値がない。

 しかし、奇襲が通用するならば話は別だった。この攻撃で暗殺に成功し、混乱してくれればさらに異能者をそれに乗じ倒すことができる。それが続けば最高だが、良くて二人程度倒したところで彼らも異能者がいると気付くだろう。


(そこから本当の戦いが始まる……蹂躙が)


 心の内で笑みを浮かべながら、女性へと近づく。旅装かつ荷物もまとめているようで、今まさに帰国しようという状況だった。


「――ドミニク」


 隣にいる彼女に声を掛ける。彼女は小さく頷き、


「武運を祈っているわ」

「こちらに構わず作戦を遂行してくれ」


 その言葉に彼女は肩をすくめながら「わかった」と返事。その場を離れる。歩調がゆっくりなのは周囲を警戒してのことか。

 もっとも、その必要性はない――そうレイモンは確信しながら、ゆっくりと女性へと近づいていく。


 相手はこちらに気付いていない。人の流れに沿って歩いているため、レイモンのことが単なる町の人間で視界に入っていないのだ。

 さらに周囲の人もレイモンを視界に入れる者はいない――なおかつ異能者はどうやら彼女一人だけ。他の者達は少なからず距離がある。


(狙ってくれと言わんばかりだな)


 あの女を最初の獲物として、戦いの鐘を鳴らす――そう心に決めると同時、レイモンはとうとう女性の前に。

 懐に手を突っ込む。彼とて全て異能で片付けたわけではない。生き残るために学んだ剣術が、彼の腕にはある。


 手には懐に携帯している短剣の感触が。それを抜いて首下へ突き込む――レイモンの腕ならば一瞬の所行。女性の周囲が彼女に目を向けていなければ、誰がやったのか咄嗟にわからないようにできるかもしれない。

 呼吸を整える。同時に女性を間合いに入れる。


 そして――レイモンは、短剣を抜き放った。


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