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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十話

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双方の準備

 ――会議が一段落し、異能者との戦いに備え本格的な準備が始まった。とはいえオーテスを中心とした国の騎士が密かに始めたというのが正確なところであり、敵に露見しないようにするのはもちろん、今回会議に参加した政治を担う面々に対してもほとんど知らせていない。この状況が果たして良いのかどうか――とはいえ、ユティスとしては敵に知られる可能性を少しでも減らす必要があることはわかるので、これでいくしかないとも思っている。


「敵の情報がこっちに届いた」


 宿で待機する間に、フレイラが情報を持ってくる。


「名前を聞いた住民からの情報だって……リーダー格と思しき人物の名は、レイモン。そしてその傍らに一緒にいる女性がいて、名前はドミニク」

「その二人が中心ってことか……」

「みたいね。他にも取り巻きの部下について、できる限り調べているけど、完全に捕捉しているかどうかは不明」


 相手の作戦も完全に把握しているわけではない。構成員がどの程度いるのかも全容をつかめていないが、


「それでも、やるしかないよな……」

「ユティス、作戦としては?」

「まずレイモンという人物に対し交流を持った人間が大通りへと誘い出す。とはいえあからさまにやると怪しまれるため、どうするかは町の人と決めるらしいけど」


 そこでユティスは小さく息をつく。


「町の人によると、それなりに親切な対応をしているようだ。まあ下手に暴れて素性が露見する可能性を思えば、丁寧に応じるのは自明の理だけど……ともかく、色々と話をした人だっているらしい」

「彼らにも仲良くなる理由があるってこと?」

「この町の構造などを調べていた節があるみたいだし、道などを確認するために優しくしていた可能性はありそうだ」


 ユティスの言葉にフレイラは「なるほど」と応じ、


「敵もまた準備をしている最中だと」

「うん。ただし会議そのものが数日経過している以上、現時点でいつでも行動できるような態勢にしているとは思う。相手も時期が来るのを待っているわけだけど……一番まずいのはこの間に勘づかれることか」


 だからこそ、最大限の警戒をしているわけだが――と、ここでフレイラは、


「騎士オーテスの仕事を少し見たけれど、そう露見するような事態にはならないとは思うよ……それに、もし露見しても対応できるように段取りはしているみたいだし」


 その言葉にユティスは小さく頷き、


「まさか会議という最大の難関をくぐり抜け、その直後にこうして戦うことになるとは、ね……ただ、この戦いを抜ければ残る障害は単独で動く勢力だけ……そう考えれば、決して悪いことばかりじゃない、かな?」

「無事に抜ければ、ね」


 フレイラの言及にユティスは「そうだね」と返事をした。

 後は尽力する騎士達が無事に準備を済ませることを祈るのみ。


「それでユティス」


 と、ふいにフレイラは声音を変え、


「あれからティアナとは何かあった?」

「あー、えっと……」


 ユティスは苦笑する。何事かと首を傾げるフレイラに対し、


「実を言うと、あんまり話していないんだよね……町中を歩き回っている時はそこそこ話せていたんだけど」

「恥ずかしくなったのかな?」

「僕はそんなつもりもないんだけど……」

「ユティスじゃなくて、ティアナが」


 指摘にユティスは口元に手を当て、


「そう、なのかな……」

「それはそれでいいと思うけどね。ティアナがようやく自覚したわけだし」

「自覚、か」

「ユティスならティアナを邪険に扱うこともしないし、安心して見ていられるけど……何かあったら相談して」

「無いように頑張るよ」


 その返答はフレイラの満足のいくものだったか、彼女は「なら良し」と答えた。


「さて、それじゃあ私は騎士団の団長らしく、護衛の面々に指示をしておこうかな。いつでも動けるよう備えろ、でいいかな?」

「うん、それでいいと思う」


 フレイラは部屋を去る。それからユティスは静かに息をつき、


「もうそれほど余裕はないな。会議も終わりかけだし」


 そもそも政治を担当する者達へは伝えてない以上、異能者同士の会議を引き延ばすのは難しい。なおかつユティス達の会議自体順調であることは彼らの耳にも入っている。敵が内情を汁状況にあれば、流れを止めた段階で気付くだろう。


「……やるしかない、か。今更ここで日にちを伸ばしても意味はない」


 ただ、準備を完璧にした段階で作戦を実行したい。だからこそオーテスは現在走り回っているはずだ。


「僕らが出しゃばっても意味はないし、ここは頑張ってもらうしかない……こっちはこっちでできることをやろう」


 そう呟いてユティスは立ち上がり――フレイラに続き部屋を出た。



 * * *



 ドミニクがいつものようにレイモンの部屋へと赴くと、彼は視線を向けるなりこう告げた。


「準備をしておけ」

「いよいよ始まるってことか」

「ああ。得られた情報によると、会議の佳境に入ったらしい……ここで今一度紛糾すれば伸びるかもしれないが、それならそれでまた待機すればいいだけの話だ」


 レイモンが発する気配は殺気立っている。始まるということを強く認識し、烈気すらまとい始めている。

 そんな様子の相棒を見て、ドミニクは一つ言及する。


「出掛けることを喜び眠れない子どもみたいよ」

「……あと少しで力が手に入るとわかれば、必然的にこうなるさ」

「そう」


 返答しながら表情を窺う――と、ここで彼女は、


「そういえば、一つ訊いていなかった」

「何をだ?」

「力を手に入れ、これから起こる戦いを全て勝ち抜いたら……その後、どうするのかしら?」

「決まっている」


 レイモンは超然とした態度で、ドミニクへ語る。


「全てを手に入れる。国も、大陸も、この世の富も、全てだ」


 ――典型的だとドミニクは思うと共に、また本当にそれを成し遂げられるのか、行く末が気になった。


(今回の戦いは全てを手に入れる最初の一歩……どうなるんでしょうね)


 失敗すれば自分もまた倒れることになるかもしれないが、彼女としてはそれでも構わないと思う。


「ドミニク、俺についてくればお前にもそれなりの地位を約束しよう」

「ありがたいわね。期待して待っているわ」


 どこか皮肉めいた声音ではあったが、レイモンは「頼むぞ」と短く告げ、会話は途切れた。

 それからドミニクは部屋を出て、部下に指示を出す。戦いが直に始まる。その備えを済ませておけと――


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