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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十話
330/411

心一つに

 翌日以降、会議については潜伏する敵対勢力に応じるべく議論を重ねる。罠にはめる段取りに加え、成功した後にどう動くべきか。あるいは失敗した場合、どうするのか――無論、本来の議題についても協議はしているのだが、それ以上に仕掛けてくるであろう敵対勢力のことを話し合う時は、会議もずいぶん熱を帯びた。


(少なくとも、彼ら自身心構えはしているというわけか)


 ユティスはそう心の中で呟く。茶化すような言動をする者がいないのは当然であり、また同時に迫る戦いのことを思い、最大限の警戒を示している。


(国同士で連携というのは厳しいかもしれないが、もしかすると個人個人で協力というのは、いけるかもしれないな)


 こうして話し合っていることは無駄にはならないだろうし、また異能者という脅威が差し迫ったことで連帯感も生まれている――政治を担う人間に詳細を話していないことは吉と出るか凶と出るかはわからないが、そこは出たとこ勝負しかないだろう。


「――これでおおよそ、確認したいことは終わりましたね」


 オーテスが呟く。ひとまず会議の席上で話し合うことについては、終わった。本来の目的である連携等についても一通り話が済んだので、会議の目的については達成されたことになる。

 ユティスとしては会議初日から意見を表明しそれを受け入れてもらった形なので申し分ない結果。問題はそれがどの程度実効性のあるものなのかだが、今回の襲撃に対し話し合っているのを見る限り、異能者達が手を組んで動くことについては問題がなさそうだ。


(国が絡むと面倒だけど、ここは仕方がないか……ともかく、大人数で異能者と戦うということ自体が異例だし、今回の戦いでぶっつけ本番……不安しかないけど……)


「正直、ここで話し合うのと実際に動くのとでは大違いだからな」


 と、ふいにナザが発言。オーテスはそれに頷き、


「例えば私やナザ殿であれば、戦闘経験もありますし状況が想定と外れていてもある程度は動けるでしょうが、さすがにそれを全員に……というのはさすがに無理でしょうね」


 複数人の異能者が彼の言葉に首肯する。そもそも戦闘経験が皆無に近い人間だっているような状況。異能を所持しているとはいえそれが必ずしも戦いに向いているわけでもないし、仮に戦闘に特化したものであっても使用経験がなければ十中八九力を引き出すことは無理だ。


「……仮に、ですが」


 ここで手を上げ口を開いたのは、フレン。


「敵が襲撃する場合どう動くかについてはある程度理解できましたが……彼には部下などもいるようですし、そうした面々が動いたとしたら想定外のことは起こりえますよね?」

「それは敵がどういう意図で引き連れているかによって変わるな」


 提言したのはナザ。フレンはそれに眉をひそめ、


「それはどういう……?」

「もし俺が敵で襲撃する際に部下を利用するとしたら……いくらか方法が考えられる。ここで一番の懸念は、部下がきちんと指示通り動くことだが――」

「異能で操っている解釈をするのが妥当でしょう」


 ユティスはナザへと提言する。


「普段は特に処置をしていないにしても、おそらく戦闘時になったら操作して動かすと」

「まあそう考えるのが無難か……仮にそうだとしたら――」

「僕も同じ事を考えていますよ。つまり、異能者を複数いるように見せかける、というわけですね」


 ナザは頷く。そこでオーテスも合点がいったか、


「なるほど、複数指示に従う者を用意し、誰が異能者なのかわからないようかく乱しながら攻撃すると」

「あくまで推測ですが。ただこの戦法の面倒なところは、そういう作戦であったとしても部下の誰かが異能を所持している可能性を否定できない」

「つまりこの戦法をとられた時点で、部下全員に対応しなくてはならないと」

「そういうことになります」

「ふむ……部下を引き離して罠を仕掛ける前提ですが、彼らについては合流できないようにすべきでしょうか」

「分断するのは打ち合わせた通りにすれば大丈夫だと思います。問題は部下に異能者が混じっていた場合です」

「罠に掛ける時点でこちらはかなり異能者も投入しますからね……部下が異能を用いて襲撃を仕掛けたら、下手すると作戦が瓦解する危険性もあります」

「部下の動向を監視し、動けないようにしばっておく必要がありますね……ただ、その場合は奇襲でなければおそらく成功しないし、襲撃者に異変だと察知される可能性もある」

「ならこちらから提案が」


 オーテスへそう口を開いたのは――リュート。


「部下を抑え込む役割については、こちらに任せてもらうことはできないですか?」

「リュート殿が?」

「異能の特性上、大人数の作戦では俺は下手すると足手まといになる可能性もあるので」


 膨大な魔力を抱える彼の能力は目を見張るものはあるが、難点は強力な魔法を行使する場合は味方を巻き込む危険性があること。そもそもリュート自身魔法に関する技量面に不安も残るため、今回はバックアップという立場になっていた。


「なので、もし部下が動き出したら対応するということで……大通りでなければ少々派手に動いても問題はないでしょう?」

「動き方を再考する必要性はありますが、異能者がいた方がいいのは事実ですし、それでいいとは思います」


 提案が受け入れられ、段取りがさらに決まっていく。ユティスはそれと共にゆっくりと息を吐き出した。


(イドラとの戦いは、記憶が蘇ったこともあったし、なおかつ演習もあって無我夢中だった。けれど、今回は……多数の人と連携して戦うことになる)


 下手を打てば間違いなく犠牲者が出るだろう。それを避けるためには、作戦に参加する者達全員が任務を全うし、また成功しなければならない。


「……厳しい作戦になることは容易に想像できます」


 そしてオーテスは、ユティスの胸中を代弁するように口を開いた。


「なおかつ、複雑な作戦です。不確定要素も多く、成功するかどうかもわかりません……しかし、異能者を含め、町の人々を守るためには、これしかない」


 オーテスはそう述べると、静かに頭を下げた。


「皆さんの協力が不可欠です……どうか、手を貸してください」


 それにユティス達は一斉に頷く――気付けば異能者達は国という境を除けて、この戦いに勝利しようと全員が心を一つにしていたのだった。


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