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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第二話
33/411

勇者という存在

 その日、ロゼルスト王国首都エルバランドには二人の勇者が訪れていた――本来勇者とは名誉称号のようなものであり、魔物など人々にとって脅威となる存在を倒し続けるなど、功績を積み重ね呼ばれるようになる。自称ならば星の数ほどいるのだが、その二人は国に認められた本物の『勇者』といっても良かった。


 名誉称号である勇者が地位を向上させるには、国から認めてもらう必要がある。その二人は三国の勇者――つまり三国から認められた、価値のある人物だった。


 一国であれば、国が箔をつけるためだけに認めたのかもしれない。だから勇者の価値は二国から始まるとされ、三国という数字はそれなりに名の通るレベルでもある。

 だからこそ、その勇者二人も名は同業者だけではなく一般の人々にもある程度認知されている。しかし――


 その両者が腐れ縁と名のつく知り合いだというのは、ほとんど知られていない。


「ん?」

「げ……」


 城に向かう途中にある大通り。そこで二人は偶然出くわした。一方はとある公爵から呼ばれ、もう一方は城にいる人物からの依頼だった。


 呻いた人物は黒髪黒目。ボサボサ頭に腰にはやや湾曲した幅の広い剣。さらに革鎧も所々汚れ、お世辞にも勇者という言葉が似合いそうにない。

 もう一方先に気付いた人物は、肩にかかる程度に伸ばされたくすんだ金髪に茶褐色の瞳。着ている白い鎧に目立った汚れは見当たらず、これから城へ馳せ参じようとする優れた勇者という風格を、確実に備えていた。


「なんだよ、こんな所でもお前に会うのかよ」


 黒髪の勇者が嘆息しながら述べる。それに相手は肩をすくめ、


「こっちのセリフだ」


 凛とした声音が、周囲に響く。


「オックス……お前も、国の要請を受けたのか?」


 金髪の勇者が問い掛ける。すると相手――オックスは、ため息をついた。


「違うよ。この国にいる公爵の一人に『決闘会』なんていまどき流行らないことをしている人がいてな。その人に呼ばれたんだ。まったく」

「よくお前の居所がわかったな」

「あちこちに来いという連絡を投げたんだ。俺だって引っ掛かるを得ないさ。そういうシャナエル、お前はどうなんだ?」

「国の正式な依頼だ」


 答えながら――シャナエルは内心彼と同様ため息をつきたい気分に駆られた。腐れ縁であり事あるごとに遭遇する。これはきっと同郷だからとか同じ時期に勇者として活動し始めたとか、そういうものとは異なるもっと特殊な縁なのかもしれない。


 もっとも、シャナエル自身はそんなもの願い下げであり、目の前の相手も同じだろう。


「はあ、そうかよ。それじゃあ俺はさっさと屋敷に向かうことにするから、そっちはそっちで頑張れよ」

「……オックス、ちなみにだがどんな用で呼ばれた?」

「内容なんて何一つ聞いてないぞ。ただ屋敷に来いとしか」

「そうか」


 シャナエルは呟くと、口元に手を当てる。それを見たオックスは眉をひそめた。


「どうした?」

「いや……とある予感がしただけだ」

「勘弁してくれよ。まさかお前と一緒に仕事するなんて話か?」

「別口に呼ばれたのならその可能性は低いだろう。私が懸念するのは、敵対するケースだ」

「それなら寝首をかかれないよう気を付けないといけないな」

「そうだな」


 口で表現できない不安を抱え、シャナエルの口調は重い。オックスはその態度に一度訝しんだものの、言及することはせず、


「ま、いいさ。お前とやり合うならそれ相応の覚悟を持つまでだ」


 そんなセリフを残し、この場を去る。残されたシャナエルは彼を見送り、


「……どちらにせよ、話を聞かなければこの不安は消えないだろうな」


 呟き、おもむろに歩き出した。


 シャナエルは城に向かう道中、頭の中でロゼルスト王国で起こった出来事を思い出す。話によると『武の女神』と言われるようになった女性騎士が、空想の世界に存在する風の聖剣を用いて十万の大軍を滅したという。


 話の初めから終わりまで荒唐無稽極まりない内容ではあったが、戦地に投入された兵士誰もが口を揃えて語る以上、間違いない話。その件と関係あるのかどうかはわからないが、シャナエルはもしやそのことに付随する案件なのではないか、という予感を抱いていた。


 さらに、同じ称号を持つオックスの登場。根拠が増えた気がした。


「さて、依頼内容はどんなものだろうな……?」


 無茶な依頼でないことを祈る――それなりに名が通った勇者ということで、一人では抱えきれない依頼なども投げられることもあった。まさか国相手にそんなことはないだろうと思いつつ――シャナエルは、一人城へと歩を進めた。



 * * *



 昼食の準備を済ませたのとほぼ同時、再度ラシェンが屋敷を訪れ勇者をフレイラ達に引き合わせた。


「オックス=アーガルドだ。よろしく」


 あまり良い風体ではなかったが――フレイラはその『目』で見て、なるほど勇者としての力を備えていると思い、快く握手を交わした。

 次いでユティスも握手を行った後で、


「では、昼食をとりながらラシェン公爵のお話を」

「ああ」


 フレイラの言葉にラシェンは同意し、全員着席した。


 ユティス達の暮らす屋敷の食堂はこの建物の中でそれなりに広い場所なのだが、元々用意された屋敷自体程々の大きさであるため、領内の訪れた屋敷と比べれば狭い。ただ窓も多く陽の光が入る構造であるためか、雰囲気だけを取れば良好と言える。


 ユティスとフレイラは隣同士に座り、対面する形でラシェンとオックス。その背後に給仕としてせせこましく働くセルナ――


 そうした状況で、ラシェンが口を開く。


「さて、オックスもいることだし改めて最初から話そう。およそ二週間前から北部で不死者の群れが出現。頻度としては日に一度。群れの数はおよそ十から二十。ただ不死者の能力は種類は低く、魔力を持たない武具でもあっさりと倒すことができる」

「出現場所に規則性は?」


 パンをかじり始めるオックスを横目に、フレイラは問う。


「最初の出現地点から、周囲に拡散するように発生している……が、時折そうした法則から外れて出現しているため、事前に特定するのも難しい状況だ。それと、北部に隣接する国にはこうした群れの出現は無い」

「とすると、ロゼルスト王国狙い撃ちというわけですか」

「そういうことになる。そして」


 と、ラシェンは一拍置く。


「現在はどうにか駆除できている。加え、報告があった現場に辿り着くと既に駆除されていたという話もある」

「別働隊の仕業では?」


 ユティスは問いながらサラダを一口。けれどラシェンは首左右に振った。


「これについては既に報告が上がっているのだが……話が長くなるためひとまず後回しだ。現状で私達は、事件を引き起こしている人物を見つけ出し、捕らえる必要がある」

「それが目的というわけだな」


 パンを飲み込んだオックスが語る――と、


「それでラシェンさん、確認だがあんたが俺にやって欲しいことというのは何だ?」

「二人の援護だよ。戦力として」

「ふーん、なるほど」


 オックスはフレイラとユティスを一瞥。


「……噂には聞いていたが、そちらは顔色が悪いな」

「どうも」


 ユティスは大して不快に思っていないのかにこやかに返答。


「よく言われますね……そういえばラシェン公爵。フレイラはともかく僕も同行ですか?」

「いつ何時『創生』の力が必要になるかはわからないからね」

「それを言うなら私の体調面の方が気掛かりですけど」

「その辺りのことは無論考慮するさ。最近は落ち着いているのだろう?」

「ええ、まあ」

「都に集まる食べ物を口にしていたら、当然かもしれないな」


 笑うラシェン――確かにこの屋敷に届く食材は品質も良く、それなりに舌が肥えていると思っていたフレイラ自身も美味いと驚く程だった。

 これ自体はきっと、王からの配慮といったところだろう――ユティスが元気になるというのなら、当然の処置かもしれない。


 それから食事を進め――終わりを迎える頃になった時、ラシェンが改めて口を開いた。


「さて、ユティス君も体調が良さそうだしご同行願おう。それと北部へ行く以上、案内役が必要だ。ここは陛下にお願いしている」

「どんな依頼かと戦々恐々としていたが、なんだ存外普通の仕事じゃないか」


 オックスからそんな感想が漏れる――フレイラはラシェンが彼をどういう風に扱っているのか少しばかり理解する。『決闘会』絡みで、色々と大変な目にも遭ってきたのだろう。


「けどなあ……ラシェンさん、あんたも来るのか?」

「私は城で上手く立ち回れるよう彼らの味方を増やしておくつもりだが……ひとまず貴族達がユティス君達をどのように思っているかを把握するところからはじめないといけないな」


 語ったラシェンは、フレイラに視線を送る。


「君達は、目先に事件がある以上そちらを優先してくれ」

「はい、わかりました」

「そしてできればナデイル君を貸してほしい」

「ナデイルを……? 別に構いませんが、どういった役目を?」

「私の秘書だな。彩破騎士団として様々な人間と折衝する以上、君達に関連する人物にさせた方がよいだろう?」

「そうですね……わかりました」


 ナデイルに言い含めておけば、自分にもラシェンに関する情報が回ってくる――打算ではあったが、フレイラは首肯する。


「で、この場にいる三人と案内役でメンバーは揃うのか?」


 会話に割り込むようにオックスが問い掛ける。ラシェンがそれに頷くと、彼はなおも質問する。


「そうか……で、戦力は三人。そこの『創生』使いさんは戦えるのか?」

「詠唱式の魔法を多少」

「なら後方支援だな……そうだ、ちょっとばかり訊きたいことがあるんだが、いいか?」

「『創生』の異能についてですか?」

「ああ。内容を聞いて、疑問に思ったことがあってな」


 オックスは椅子に座り直すと、改めて尋ねた。


「まず、魔力があれば大抵のものが創れるらしいが……生物や植物はできないんだな?」

「はい。より詳しく言うと、生物、植物だったものも駄目です。木製の杖とかは創り出せるので、どういう基準で異能が発動するのか僕も完全に理解できているわけではないのですが……」

「その辺りは要研究ということだな……で、だ。根本的な疑問を投げかけていいか?」

「僕の病弱さを、異能で解決できないかということですね?」


 ユティスが先んじて問い掛ける。それにオックスは無言で首肯した。


「……僕が創るのはあくまで魔力をベースとしたものなので、実際の物質とは異なります。なので例えば、病気を治す薬とかを生成しても、本来の効用がでません」

「魔法みたいに、一時的な魔力強化くらいはできるけど、といったところか」

「はい。ただし魔力を持たない日用品とかなら、本物の物質と同じような『創生』も十分可能です……けれど病気を治すものとなると、多大な魔力を消費します」

「多大なっていうのは、どの程度だ?」


 問われ、ユティスは一度目を伏せた後、


「……風の聖剣を創り出した時よりも遥かに多大な魔力が」

「聖剣の方がよほど魔力を食いそうな気がするけどな……」

「詳しく研究しなければわかりませんが、人々が予想するものとは大きく違う法則で、必要な魔力が変わってくるということだと思います」

「なるほどな」

「それに……」


 と、ユティスは一度言葉を止めた。オックスは気になったか眉をひそめ、


「どうした?」

「これは……推論ですけど」

「ああ」

「幼いころから体が弱く医者に色々診てもらいましたが……心臓が弱いとか、血の気が薄いとか、果ては心の問題だと言われたこともありました」

「それは暴論な気がするけどな」

「けど……どう足掻いても根本的な解決にはならないような気がします」

「どういうことだ?」


 オックスが聞き返すと、ユティスは一度この場にいる面々を見回し、


「以前の事件で遭遇した私とは異なる『創生』の使い手……話によると彼は、普通の人と同様の生活はできますが、剣術の腕などは良くなかったそうです。体力も、それほどあったというわけではなかった」

「……つまり?」


 オックスが問い掛けると、ユティスは小さく笑う。


「この異能があるからこそ、僕はこうして体が弱いのではないか、ということです。あくまで可能性の一つですが」


 その言葉に――オックスは目を細める。


「ふうん、なるほどな……わかった。ま、この辺りは後の研究次第というわけだな」

「はい。ただウィンギス王国に関連することで城に余裕があるというわけではないため、詳しく調べるのは先になるかと思います」

「そうか……ふむ、話を戻すが、相手は現在の所烏合の衆同然の不死者だが、強力な奴が出現する可能性だってある。その場合この人数で戦うのは難しいぞ、ラシェンさん」

「最初は調査ということにしていいだろうし、無理に戦う必要もないだろう。もし軍が必要となれば……場合によってはこれを使ってもいい」


 述べると、ラシェンは懐から丸められた書状を取り出し、ユティスに差し出す。


「もし軍が必要なら、それを使ってくれ」

「……これは?」

「陛下直筆の緊急招集の内容を示した書簡だ。騎士団支部に持ち込めば、軍を用意できる」


 かなりの内容だった。ユティスは書簡を見て最初目を丸くしていたが、


「……わかりました」


 全てを飲みこみ書簡を受け取る。


 こういうものに手を出せば、貴族達が何か言い出す可能性もある――が、持っておかなければ危機的状況を打開できないのは事実。フレイラも重く受け取ることにする。


「さて……概要に話を戻そう。その中で気になったのは不死者の群れが突如いなくなるという点だ。調べてみるとどうやら、とある人物が鍵となっているらしい」

「とある人物?」


 ユティスが聞き返すと、ラシェンは神妙な顔つきとなる。


「どうも、その不死者を追っている人物がいるとのこと。報告によると、少女らしい」

「少女……どういった手段で不死者を?」


 フレイラがラシェンへ向け問い掛けた時――


「まあいいじゃないか。今日の夕食に話をすることもできるだろ?」


 唐突にオックスが立ち上がった。

 フレイラは最初驚いたのだが、その瞳に退屈な色を見せているのに気付き、飽きたのだと察した。


「俺としては一つ気になることがある。このメンバーで無事調査できるかどうかを確認するべきだ。そうだろう?」


 そして一方的に告げてくる。強引ではあるが、フレイラは確かに間違ってはいないと思った。


「というわけで、フレイラさん……だっけか? そっちがどの程度の技量を持っているか、見せてくれよ」


 途端、フレイラは彼の瞳に「本当に戦えるのか?」という疑わしげなものを見て取った。

 自分達は既に形の上では騎士団となっている――だからこそ、舐められてはいけないとフレイラは断じた。


「……いいでしょう」

「なら、早速始めようじゃないか」


 ――そうして二人は、食堂を後にした。


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