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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十話
327/411

騎士という壁

 ブレスレットの件で軽い一悶着があって以降、ユティス達は特に何事もなく大通りを散策する――いや、ユティスからしてみれば何事もないというのは果たして良いのかどうかわからない。


(ともあれティアナもひとまず、それなりの反応をするようになったけどね……)


 ただやはり作戦としての自覚は強いらしく、時折視線を向けないにしても何か自分達の周囲に異常がないか探るような気配がある。


(まあここは仕方がないか……)


「ユティス様、お店でも入りませんか?」


 ふいにティアナから提案が。店、とはお茶でも飲めるような店ということだろう。


「あー、さすがに歩き疲れたか」

「そういうわけではありませんが、一通り見回ったので少し休憩しましょう」

「そうだね」


 ユティスはそれに賛同して近くにあったカフェへと入り込む。貴族のご令嬢が入るのとは少しばかり雰囲気が異なるものだが、ユティスとしては内装の印象も良い場所だった。


「交渉、上手くいくといいですが」


 ティアナは述べる――彼女は敵がいることを警戒し作戦について話すようなことはしない。その代わり会議の話でお茶を濁すつもりなのだろう。


「まあ会議については詰めの部分に入りつつある。上手くまとまることを祈ろう」

「しかし、段取りができたとしても実際に動こうとしたら混乱もあるでしょうね」


 この話題は避けようがないというのはユティスもわかっているが――ただこれは仕方がないかと割り切り、


「そこは動かしてみないとどうなるかわからないからね……ただ、実際に運用する時は手遅れ……そうティアナが思うのも無理はない」


 そう述べた後、ユティスは肩をすくめる。


「だからこれは、僕達が動きやすくするための処置だと解釈すればいい……僕としてはそれで都合が良くなるし、目的にも近くなる」

「……敵対勢力は残る二つ。その内の一つは単独ですが――」


 ふと、ティアナの言葉が止まった。ユティスが何事かと言葉を待っていると、


「……その敵対勢力同士が出会ったということはなかったのでしょうか」

「決してゼロとは言えないな。僕らとしては互いにつぶし合ってくれた方がありがたいけど」

「そうですね」

「単独で動く存在がどういう行動原理をしているのかも気になる……現在居所がわからないわけだけど――」


 その時、お茶が来た。菓子と一緒に湯気の立つ紅茶が目の前に出され、ユティスはそれを一口飲み、


「ともかく現状、僕らはやれることをやるしかないよ」

「そう、ですね」


 沈黙が生じる――思えばユティスはティアナにどういう話題を振ればいいのかもよくわかっていない。

 騎士として戦いのことならば議論し合えるが、今求めているのはそういう話ではない。


(……こういう時、知識のなさを痛感するな)


 ユティスとしては転生を含め同年代の人間と比べて長く生きているが、それが役立ったことはない。人間関係においてはユティスとしての生が病弱だったこともあり非常に狭いことも関係している。

 なおかつ相手は女性である。何か話さなければと思うが、果たしてどういう話をすればいいのかわからない――これが単なる貴族令嬢ならば誰かに教授してもらうようなことも可能だったかもしれないが、あいにく目の前にいる女性は聖騎士候補にまでのし上がった人物である。たぶん一般的な貴族の女性とは感性も違う。


「……ユティス様」


 ふいに名が呼ばれた。見ればカップをテーブルに置き、真っ直ぐ視線を向ける彼女の姿が。


「改めて、言っておきたいことがあるのです……今後の戦い、例え各国の異能者と手を組んだとしても、非常に危険なものになる……それは間違いないと思います」

「イドラの手勢も手強かったけど、それ以上だとティアナは考えているわけだ」

「はい」


 確信を伴った返事。


「彩破騎士団は非常に強い……それはイドラとの戦いから明瞭です。各国は異能者達……そうした方々と共に戦う騎士達などもいるでしょうし、異能者を中心に敵対勢力と対抗する面々を編成しているのは事実でしょう。しかし、私達彩破騎士団の力を超える部隊は、おそらく他国に存在しない」

「それは僕も同意するよ……むしろ僕らが出来過ぎなくらいだ」


 異能者でなくとも、異能に対抗できる逸材が彩破騎士団には集まった。ここにユティスの異能が加わることで、国内の政争――いや、異能者との戦争に打ち勝った。

 そうした力が他国にあるかと言えば、おそらくノーだ。最後の砦とまではいかないだろうが、自分達が中心になって戦わなければ立ちゆかないのは実状だろうとユティスは思う。


「ティアナ、僕らの活動範囲が広がることになる……ラシェン公爵はそれに同意してくれるだろうし、国内も一つにまとまったから大丈夫だ。よって、僕らは敵対勢力の動きによっては転戦する可能性がある」

「私はお供します。どこまでも」


 ティアナの言葉にユティスは「わかった」と頷き、彼女の表情が騎士のそれであることを悟る。


「……本当にこのままじゃあ埒が明かないな」

「え? ユティス様、何か仰いましたか?」


 ユティスの小さな呟きにティアナは反応。それに対し、


「何でもないよ……ティアナ、敵が僕らのことを見ているかわからないけど、とりあえず一度宿に戻ろうか」

「はい、構いませんよ」


 首肯する彼女。宿を飛び出した時の表情とは打って変わり、職務を全うするような雰囲気が窺える。

 これでは駄目なのだ――と胸中でユティスは思う。けれどこれを是正するには――思いついたのは、一つしかなかった。


 その後、ユティス達はお茶を飲み店を出て宿へと戻る。フレイラ達が何か言ってくるかと思いきや、姿がまったくなかった。


「リザもそうだけど、どうしたんだろう」

「何か起きたのならメモなどが残っていてもおかしくありませんし、単に外に出ているだけでしょう」

「そうかな……」


 ともあれこれはこれでやりやすいとユティスは思いながら、


「……ティアナ」

「はい」

「改まって、話があるんだ……正直に答えて欲しい」


 声音がやや固かったためか、ティアナも何事かと身構える。そして言葉を待つ彼女。そこでユティスは先ほど町を見て回った時のことを思い返す。

 騎士の顔を持つ彼女――その内心には間違いなく、自分の命を犠牲にして自分を救うという自己犠牲の精神が宿っている。


 ユティスは少しばかり言葉を選び、やがて口を開いた。


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