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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十話

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322/411

騎士の誓い

 昼食後、何やら話し込むユティスやフレイラを置いて、ティアナは部屋にある椅子に座り窓を眺める。


(どのように動いても大変そうですね……)


 騎士オーテスの苦労を思い、ティアナは胸中で呟く。それこそ彼は、全てを背負い込む気でいる。国の上層部に状況を伝えてなお、異能者や少数の人間を除き敵対勢力について公にしていないのは、相当なリスクがあるはず。

 仮に作戦が成功しても彼は糾弾されるかもしれない――けれど彼自身それを承知の上で作戦を組み立てている。自らをも犠牲にする覚悟。騎士としての覚悟を、見せつけられた気がした。


(私も、そのようにあるべきでしょうね……今後の戦いに備えて)


 いざとなれば、命を賭してユティス達を守る――騎士はある種命を捨てるために存在している。重臣を守り、城を守り、そのためには自らを捨てなければならない。

 だから、私自身もその覚悟を――きっとユティスは止めろと言うかもしれない。けれど、身命を賭してこそ、騎士の誉れ。


 そうした決意を身に帯びた時、ユティス達が戻ってくる。アシラやエドルはいないため、自身の部屋に戻ったのだろう。


「ユティス様、私達はどう動きますか?」


 ティアナが確認の問い掛けを行うと、ユティスはなぜか押し黙った。


「……ユティス様?」


 さらに問うと彼は「ごめん」とひと言添え、


「えっと、今後なんだけど……昼食の時に話したけど、敵に間違いなくマークされているであろう僕らが動いて敵を油断させる……ということになるんだけど」

「はい、それについて依存はありません」


 ティアナの頭の中には、ユティスとフレイラが一緒に行動し、町を見て回る――つまり、観光などをすればいいだろうという考えだった。


「とはいえ、全員がそのように動くわけではないでしょう?」

「そうだね。まずエドルについてはラシェン公爵が戻るまで待機ということになった。リザの方についても予定は決まっていて、どうも時間があったらやりたかったことがあるらしいから、それをやるってさ」

「やりたかったこと?」

「なんでもレオと手合わせしたいんだって。時間が空いたら戦闘訓練をやる人だっているし、これについても違和感はない。それにエドルや僕達とは別行動になるから、自由時間で好き勝手にやっているという演出になる」

「そこまではいいですね。ではユティス様は――」

「うん、それで……僕の方は町を見て回ろうかと。ただ一人で動くのは色々と問題があるから二人で」


 当然相手はフレイラ――と思った矢先、


「その相手を……その、ティアナにお願いしたいんだけど」


 ユティスが告げる――が、咄嗟にティアナは理解できなかった。


「……はい?」

「だから、出掛けるパートナーとしてティアナと一緒にと」


 その言葉で、ティアナは我に返る。


「え、あの……私ですか? フレイラ様ではなく?」

「私は彩破騎士団団長として、公爵から連絡があるかもしれないでしょ?」


 フレイラの言葉にティアナは少し動揺し、


「その役目は、私の方が……」

「隊長の私が残るべきよ。ラシェン公爵と話をしないといけないし」


 そうフレイラが語った直後、ティアナは口をつぐんだ。


「……というわけで、ティアナ」


 そしてユティスはティアナへ告げる。


「僕と一緒に出かけよう……ただ、その。観光という意味合いだから、あまり難しい顔はしないで欲しいな」


 要求にティアナは沈黙する。理屈はわかるのだが、思考が追いついていない。


「あ、あの、その……」

「というわけで、出掛ける準備をしましょうか」


 フレイラが述べる。どういうことかとティアナが首を向けると彼女は、


「ほら、その格好では様にならないでしょ?」


 騎士服ではなく着替えろと言っているらしい。一応フレイラとティアナは私的な状況で話をする機会だってあるからと普段使いのドレスなどを持ち込んではいる。だからそれに着替えて外に繰り出せばいいというわけだが――


「あ、し、しかしですね……」

「ユティスも着替えてきなよ。ティアナについては私がやっておくから」

「わかった」


 ユティスは首肯すると自室へ戻る気なのか部屋を出る。それでティアナは右往左往し始めた。


「あの、フレイラ様……」

「それじゃあパッパと着替えましょうか」


 彼女は一方的に準備を始める。止めるべきなのかと思ったが、ユティスが準備を始める手前、今更「止めましょう」とは言い出せない。

 確かに、作戦なのだからそれを考慮して色々やった方がいいのは事実。折り合いを付ければ問題はないはずなのだが、ティアナは唐突な展開により意識が宙に浮くような感覚に陥る。


「はい、ティアナ……って、呆然としているけど」


 苦笑するフレイラ。それにティアナは口をパクパクさせる。声が出ない。


「もしかして、私のことを気にしてる?」


 そんな問い掛け。ティアナはどう答えようか迷い――


「ま、ユティスが選んだのだからそれでいいじゃない」


 その言葉で――ティアナは今度こそ言葉に詰まった。

 作戦とはいえそのパートナーにティアナを選ぶというのは、どういう了見なのか。


(いや、さすがにユティス様のことだからそこまで考慮に入れているとは思えないけれど……)


 これはあくまで作戦――だと思うが、フレイラがなんだかウキウキしているのは何故だろうか。

 そこからティアナは言われるがままに着替えを始める。いつも着ているドレスなので召し替えることについては何も問題はない。


 手早く準備を終わらせ、フレイラと共に廊下に出る。ユティスもまた着替えを済ませており


「それじゃあ、行こうか」


 ユティスはそう述べると――突然ティアナへ近づき手を握った。


「あ……」

「いってらっしゃーい」


 手を振り見送るフレイラ。その晴れ晴れとした笑顔からは何を考えているのかティアナには想像できない。

 そしてユティスと繋がる手の感触に思考が完全に止まる――先ほど心の誓った騎士の決意は彼方へと追いやられ、頭の中が真っ白になる。


 どうなってしまうのか――早鐘のような鼓動を伴いながらティアナはユティスと共に外へ出る。通りは盛況。そうした中でユティスは考えでもあるのか、相変わらず手を握り締めたまま、ティアナを引っ張るように歩き始めた。


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