異能封じ
エファが語った内容について、ユティスとしても理論的に異能を封じ込めることが可能ではないかという推測に達したのだが、それを会議の席上で実践することに。その結果、
「な、なるほど……これは確かに面白いわね」
と、リザが述べる。なぜか彼女が率先して実験体になると表明し、エファが彼女の魔力を拘束に掛かったのだが、
「リザ、異能は起動しているのか?」
「そうね。私はやっているつもりだけど力を発揮できないわ」
ユティスの問いにリザはそう応じる。次いで、
「もしかして私の瞳は『彩眼』になっていないのかしら?」
「ああ、そうはなっていないな……つまり、この技法は――」
「異能の起動すらも封じる、というわけですか」
オーテスが述べる。ユティスは頷いた後、一つ質問をした。
「それでですね、エファさん」
「はい」
「……どうしてその格好に?」
ちなみにリザは現在床にうつぶせとなり、エファは彼女の両腕を後ろ手で拘束した上で異能封じを行っている。
「いえ、敵と遭遇した場合に備え、拘束方法とかも検討した方がいいかと思い……」
「それ、今やらなくてもいいのでは?」
ユティスの冷静なツッコミに対しエファは「そうですね」と同意した後、拘束を解いた。
「リザ、感触はどうだった?」
ユティスの問い掛けに対し、リザは起き上がりながら『彩眼』を起動、解除を繰り返しながら返答する。
「ユティスさん、『彩眼』は起動できてる?」
「ああ、問題ないよ」
「そう。私としては異能封じを施されている間も何かあるというわけではないわね。ただし異能を発動しようとしてもまったく起動できないだけ」
「体に異常があるわけではないのか……エファさん、実践する前に説明した通り――」
「はい。発動条件は私が相手の手を触れている間です。これは魔法ではないため詠唱等は必要ありませんし、すぐに発動することはできます」
「ただし、手を触れなければならない……うーん、接近するのが一番難しいですからね」
「あの、俺も試してもらっていいですか?」
そこでエドルが手を上げる。
「こちらの異能について説明すると、魔力を打ち消す効果があります。もし敵が似たような技法を持っていたとしたら……」
「通用しないかもしれませんね。では試してみましょう」
エファはエドルの手を握る。最初からそういう風にやれば良かったのにとユティスは内心思いながら事の推移を見守っていると、
「……ユティスさん、『彩眼』は起動していますか?」
「いや、何も変化はないけど」
「異能を発動しようとしていますが、どうやらそれが上手くいかないみたいですね。力が使えなくなる」
「エドルの能力でもか……どうやらエファさんの技法は、根本的に魔力を用いたものを使えなくする、というわけですね……なら僕も試していいですか?」
次にエファはユティスの手を握る。何も変わった感じはないのだが、試しに異能を使おうとすると、なぜか発動しない。
(本当に、感触はないんだな……ただこれは相手の異能者にとっても何が起こったかわからないし、動揺させる要因にはなるか)
そう心の中で呟きながら、今度は魔法を使えるか試してみる。すると、体が熱を帯びた。
「今、魔法を使おうとしましたね」
エファが言う。ユティスは小さく頷くと、
「魔力に直接働きかけるもので、異能と魔法などの他の技術とでは仕組みが違うらしく、異能以外では何かされているという自覚があるようです」
「僕も同じように感じました……けどこれも封じられているんですよね?」
「そうですね。ただし、魔力の放出度合いの違いにより、異能以外の技術については押し負ける可能性が高いです」
そうエファは述べると、解説を始めた。
「異能というのはどんなものであっても、魔力の流れが一定です。それはどの異能の種類でも同じであり、逆に言えば浮き沈みがないために常に万全の状態で異能を行使することができる」
確かに、ユティスとしては『創生』の異能が突然理由もなく使えなくなった、ということはないことを記憶している。しかもそれは好調不調問わず。もっともユティスの場合は元々体が弱いため、魔力ではなく肉体的に悲鳴を上げるケースもあるが――
「しかし、故意にその魔力の出力を上げることも難しい。例えば火を操る異能があったとしましょう。異能を発動する場合その威力や範囲を異能者は自由に操作できるわけですが、どのような状況でも放出する魔力は一定、ということです」
「それが利点……けれどエファさんはその点を利用し、封じることができる」
オーテスの指摘に彼女は深々と頷く。
「例えば魔法を始めとしたその他の技術は使用者が魔力の放出量を操作できるため、力で無理矢理異能封じを突破することができる。けれど魔力の流れが一定の異能は、本人が出力を上げる意識があったとしても、そうはなっていない……だから封じることができる」
「これ、もう片方の敵対勢力についてもなんとかなるんじゃないか?」
ナザが言う。けれどエファは首を左右に振った。
「これは私の見解ですが、単独行動をしている異能者は他の方とは違う能力である気がします……あくまで勘なのですが」
「どちらにせよ、今回の戦いが終わってから考慮するべきでしょうね」
オーテスが語る。そして彼は異能者達を一瞥し、
「異能を複数所持しているとしても、おそらく法則は変わらない……複数所持しているユティス様も異能が使えないとなれば、効果はあると考えていいでしょう」
「とはいえ、問題はまだまだあるな」
ナザの発言。それに続きユティスは口を開く。
「異能を複数所持している人間……それがリーダー格であることは間違いないと思いますが、複数人いた場合は厳しいですね。エファさん、異能封じは現時点であなたしか使えないんですよね?」
「はい。ただ地面などに仕込むことは可能ですよ。それなら複数人で行使することはできますが……魔法陣などを構築することになるため、敵に露見される危険性が高い」
「しかし確実に敵を押さえるならば、封じるほかないでしょう」
オーテスが結論を述べる。そして、
「まずは異能者を捕縛する……異能封じを軸に、作戦を立てることにしましょう――」