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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十話
315/411

敵の出現

 ユティスがティアナからの手紙を受け取ったのは、会議が再開してからおよそ三十分後のことだった。


「所属の騎士から、ご連絡です」


 そう使いの者が差し出した手紙。ユティスがオーテスへ目を向けると、


「構いませんよ、ただ話し合いは進んでしまいますが」

「それは大丈夫です」


 現在の議題はユティスにとってさしたる興味もない。よってユティスは文面を確認することにした。

 手紙をあけて内容を読んでいくと――


「……これは」


 小さく呟く。そしてすぐにどうすべきかを思案する。


 この場で喋って問題はないのか。内通者がいるとは考えにくいが、突如戦闘になる可能性があることで、異能者達はどういう反応をするのか。


(まず進行役のオーテスに打診してみるか? けれど会議の席上でいきなり事情を伝えるのは難しいけど……休憩はさっきやったから当面ない。となるとこの場で言うしかないのかもしれないけど……)


 どうすべきなのか。ユティスが内心悩んでいると、横にいるリザが小声で問い掛けてきた。


「どうしたのかしら?」


 そこでユティスは、無言で手紙を渡す。それを一読すると、リザは小さく「なるほど」と呟いた。

 そうした光景を見ながらユティスはさらに思考する。この状況下で表明しては大なり小なり混乱が起きるだろう。ならばどうすれば――


「ユティスさん」


 リザが名を呼ぶ。どうしたのかと思い問い返そうとした直後、彼女は予想外の行動に出た。


「オーテスさん、少しいいかしら?」


 彼女は突如進行役の騎士に呼び掛けた。何をするつもりなのかとユティスが声を上げようとした矢先、リザの目がユティスを射抜く。


「心配しなくてもいいわ。おそらく大丈夫だから」


 ――『霊眼』で問題ないと把握したのか。


「どうしましたか?」


 幸い会話も一段落したところであり、オーテスは応じる。


「彩破騎士団の団長からの手紙だったのだけれど……どうも、この町に怪しい一団が入り込んだらしいのよ」


 その言葉でにわかに会議の席上がざわつき始める。公にして、果たして事態はどう動くのか。


「それは、会議の冒頭で議題に上がった敵対勢力ですか?」

「現時点では怪しい一団としか言えないようね。けれど町の人がどう見てもおかしいと語っているらしいから、最悪の事態は想定すべきかもしれない」


 オーテスは口元に手を当て考え込む。一方他の参加者はまさかいきなり戦うのかと、不安を吐露する者も出始めた。


(リザ、これは……)


 さすがにこの展開は想定していなかったのでユティスとしても戸惑う他ない。一体どうなるのか。


「なるほど、正否はどうあれあまり良い事態とは言えないみたいですね。そしてこの席上でそれを言うということは、何か考えがおありなんですか?」

「手紙にもあったけれど、最悪のケースは相手方にこちらの動きが気付かれ雲隠れされること。帰路につく際に狙われたら異能者達も無事では済まない。それだけは避けなければならないでしょう」

「仰るとおりですね……しかし、彼らはこの会議の席上を狙ってくる可能性が?」

「本来ならば多勢に無勢のはず。けれど怪しい人物が異能者の敵対勢力であるとしたら、何かしら勝算があってここに赴いた可能性もあるわね」

「……まずは何より、その一団が私達の推測している者達なのかを確認しなければならないでしょうね」


 オーテスは周囲に視線を送る。異能者達のざわつきは収まり、どうすべきなのか思案し始めていた。


「どうやら良くない事態が起こる可能性がある……私達の見解としては町に被害をもたらさないために尽力するということだけ。しかし、おそらく私達では対処仕切れない」

「僕ら彩破騎士団は遠慮なく協力させてもらいます」


 ユティスが述べる。それにオーテスは心強いとばかりに頷き、


「わかりました。あなた方がいてくれるだけでも大変ありがたい。問題は、この情報を政治的な会議をしている方々に話すかどうかですが」

「できることならこの場で留めていた方がいいです……その、あまり言いたくはありませんが――」

「政治中枢側に内通者がいる可能性もゼロではない、と」


 ユティスはコクリと頷く。もし相手が会議で上がったマグシュラントの手勢だとしたら、どこかしらの国と繋がっている可能性は否定できない。


「本来、疑いたくはありませんが」

「お気持ちはわかります……皆様、敵が近づいてきているのならば、おそらく情報が漏れることは生死に関わります。敵の正体が判明するまでは、今回の情報はこの場で留めておく……よろしいでしょうか?」


 誰もが頷いた。ユティスとしては安堵する。リザとしてはこういう展開になると踏んでいたと思われるが、それにしても心臓に悪い。


「問題は、どのように対処するかですが」


 オーテスは思考し始める。そこで手を挙げたのは、フレンだった。


「理想的なのは相手に気付かれない中、準備を進め逆に先制攻撃を仕掛ける、でしょうね」

「はい、まさしく。けれど相手の動きを制限するためには兵なども十二分に用意しなければならない。この町には戦力はありますが、相手に気付かれないように動くというのは大変難しい」

「町の人と協力できないのかしら?」


 そこでリザが口を開く。


「この情報をもたらした人物は町の人から信頼を得たことで、怪しい人物に気付けたようなのよ」

「なるほど……相手に気付かれないようにするには町に暮らしている人々と連携して、ですか。確かに成功する可能性は高くなる」

「俺達はどう動けばいいんだ?」


 次に口を開いたのはナザ。


「オーテスさんの言い方からすると、戦闘準備についてはそちらでやるということになるが」

「ええ、そうですね。目立たないよう兵を動かし準備を進める。その間皆さんには待機し、警戒に当たってもらう。できれば襲われた際に他の異能者と連携できる状況が望ましいでしょうか」

「難しいな……それをするとなれば、こっから会議の席はその話し合いに終始することになるんじゃないか?」

「そうですね……もし国からの要望があれば、ここで聞きましょうか」


 問い掛けに――誰も手を挙げなかった。いや、戦闘が差し迫っている中でどうやら誰もが覚悟を決めたようだ。

 異能者として、確かに戦う覚悟を持っている――ユティスはそのことに今まさに気付いた。自身の立ち位置を理解し、敵対勢力と戦うつもりでいるのだ。


(そういう気持ちがあったから、リザも提案したのか)


「問題ないようですね……ならば、話し合いといきましょう」


 オーテスが述べる。異論を挟む者は皆無であり、全員が敵対勢力に向け、話し合いを始めた。


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