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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十話
314/411

潜伏者

 フレイラとティアナは一度宿へ戻り、吉報を待つことにする。町の人間の協力があるのは大変ありがたいが、あまり深追いして欲しくないとも思ってしまう。


「彼らの動向がわかるのはいいけど……」

「ともあれ待つしかないですね」


 ティアナはそう言いながら窓の外を見やり、


「ここで最悪のケースは騎士ジェンが敵側で、嘘の情報を教えているという場合ですが」

「そこまで警戒するとね……ただ敵側がこちらの人間を懐柔している可能性は十分あるんだよね」


 かといって自分達で動いても敵に勘づかれる可能性があるだけ。ならば、


「ユティスとラシェン公爵に連絡しましょうか」

「そうですね……なら私が動きます」

「ティアナが?」

「はい」


 頷き彼女は手紙を作成し始める。さすがに建物の中に入ることができない以上は文による連絡手段しかない。


「彩破騎士団所属の人間が直接伝達してきたのなら、会議中でも受け取ってもらえるでしょう」

「確かにそうだけど……問題はユティスやラシェン公爵がどう反応するか、ね」

「リザさんがいますから異能者における会議の席ではスムーズに話が進む可能性もありますよ」

「リザが……? あ、なるほど」


 つまり『霊眼』を用いれば感情を読み取れるので、内通者がいるかどうかなどを判別できるというわけだ。


「リザさんはきっと会議中で『霊眼』を行使して問題ないかなどを探っているはずですし」

「そうだね……ただラシェン公爵の方は動けないでしょうね」

「だと思います。さて、それでは行ってきます。フレイラ様はここで待機し、騎士ジェンからの報告を待っていてください。すぐに戻ってきます」


 ティアナはそう告げて部屋を出て行く。残されたフレイラは小さく息をつき、


「町中での戦い……か」


 懸念がてんこ盛りなのは理解できる。なおかつイドラと戦った時のように住民を速やかに避難させるということもおそらくできない。


「民間人の犠牲をゼロにしなければいけないけど……問題としては、国側はきちんと言うことを聞いてくれるかどうか、か」


 異国の地で市街戦――しかも異能者との戦い。ネイレスファルトでもユティス達は経験があるけれど、どうなるかは予想もつかない。イドラ達との戦いはリザの知り合いであったこともあって多少情報もあったが、今回は敵のことについてほとんどわかっていない。

 不安要素ばかりが頭の中に浮かぶ。ただそれでも現状相手の動向を察知したということは、戦局を傾ける材料を手にしているのは間違いない。


(理想的なのは会議側が動いて先手を打つこと……もちろん密かに住民を避難させて……さすがに無理か……)


 フレイラもそれは無茶だとあきらめる。


「本当なら相手に攻撃されない状況で捕らえるか分断するかが一番なんだけど……」


 ただ、異能者を拘束してもその異能によってはあっさりと脱出される危険性がある。


「さすがに人手が足りないか……ユティス達がアクションを起こすことを期待するしかない、か」


 自分ではどうにもならない歯がゆさもありながら――フレイラはティアナの帰りを待ち続けた。



 * * *



 町中に潜入したレイモンは、宿の一室で外套を脱いで大きく息をついた。


「ここまでは予定通りだな。そして、目と鼻の先に異能者どもがいる……」


 小さく笑みを浮かべる。これから始まることを思い、自然と頬が緩む。


「同士達と問題もなく町に入れた時点でこちらの勝利、だな」


 そこでノックの音。返事をするとドミニクが入ってきた。


「潜入完了ね。それで、私達はこれからどうすれば?」

「会議は現在進行中で行われている。とはいえ真正面から殴り込みをしても多勢に無勢でこちらも血を流すことになる……基本的にはいつ襲撃しても問題ないよう観察はするが、一番の狙い目は彼らが帰還する時だな」


 重要なのは帰路につく者達をベストなタイミングで襲撃することだ。レイモンは異能者達を一網打尽にする案を所持しているが、それは一度に全員を相手にするわけではない。

 よって、彼らが帰還しようと動き始めるタイミングを見計らう。行き先がバラバラである以上は町を離れれば孤立してしまう。そこで各個撃破し、目的を果たす。


「町に滞在するだけだったらバレることもないでしょうし、作戦自体は成功しそうね」


 ドミニクの言及。それにレイモンは首肯し、


「作戦が始まってからが問題なんだが、な。タイミングを見極めることが重要だ」

「……内通者の一人や二人いた方が良かったんじゃないの? 現在は基本、外部から情報をとるしか方法がないわけだし」

「逆に俺達の存在が露見する可能性だってある。異能者の中には相手の心を読むものも存在する。なおかつ彩破騎士団には『霊眼』の使い手だっている。しかもそいつは異能者だ。こちらの存在はあくまでどんなものなのかわからない……そういう状態にしておいた方がいい」


 レイモンの指摘にドミニクは「なるほど」と答え、


「本国からの援軍とかはないの?」

「あるわけがないだろう。さすがに相手側もマグシュラント王国絡みであることは承知しているはずだが、大っぴらにそれを示すわけにもいかないからな」

「向こうから攻め立てる口実を与えてはならない、と」

「そういうことだ」


 レイモンが頷くと、ドミニクは「わかったわ」と応じた。


「それじゃあ私は情報収集してくるわ。そちらはどうする?」

「少し休ませてくれ。ただあまり深追いはするなよ」

「もちろんよ」


 ドミニクは部屋を出る。それからしばしレイモンは部屋の中で立ち尽くし、やがて、


「いよいよ、か」


 小さく呟いた。


「力を手に入れる……この町で俺は、全知全能の神になる。しかしそれには最大の障害も存在する」


 そう呟きながらレイモンの頭の中に浮かんだのは、彩破騎士団所属のユティス。


「もっとも警戒しなければならない存在……もしあのことが露見すれば、確実にこちらは敗北する」


 言い聞かせるように呟いたレイモンは、最後に笑う。


「まさしく大博打だが……面白い」


 静かに告げながら、レイモンはこれから来るであろう戦いに思いを馳せることとなった。


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