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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十話
312/411

異能者の不安

 会議の席は一段落し、一度休憩をとることになった。


「ユティスさん、お疲れ」


 隣にいるリザが言う。ユティスは「どうも」とだけ答え、窓の外を眺める。

 会議場の二階へ赴き、窓から外を眺めているような状況。下に行けば飲み物なども提供してくれるみたいだが、ユティスは喉が渇いているわけでもなかったので別段行こうとは思わなかった。


「とりあえず当初の目標が達成できたから、成果としては上々かな」

「なんだかもう終わったように聞こえるけれど、会議はまだ続くわよ?」

「僕の役目はほぼ終わったよ。後は各国の思惑なんかも入ってくるだろうし、連携に支障が出る話が出てきたら言及するくらいかな」


 総論的な話は終わり枠組みもできた。よってここからはおそらく各国の利害などが関係してくる話に発展する可能性が高い。ユティスとしてはそういうものに率先して触れれば連携に問題が生じる危険性があると考えているため、よほどのことがない限り立ち入らないことに決めているし、ラシェンも同意している。


「だから後は話を聞いているだけでいい」

「そう」

「リザは結局口を挟んでこなかったね」

「私は私でやることがあったしね。ひとまずユティスさんを騙そうと考えていたり、悪巧みをしそうな人はいなかったわ」


 ――彼女は自身が持つ『霊眼』により、席上にいる参加者の感情を読み取っていたらしい。


「ま、あの会議にいる人は信用していいんじゃないかしら」

「その発言、あの場では絶対に言わないでくれよ?」

「もちろん」


 彼女が同意した時、ユティス達に近づいてくる人物が一人、フレンだった。


「どうも、ユティスさん。少しお話いいですか?」

「構いませんが、国に関わることは権限を持っていないのであまり協力できませんよ」


 そんな返答をすると、途端にフレンは苦笑した。


「こちらも正直、そう権限を与えられているわけではありませんし、そういう話題ではありません。異能者として戦いを繰り広げてきたこと……それについて、ご質問が」


 単純な興味なのだろうか――ユティスが「いいですよ」と応じると、フレンは話し始めた。


「資料を見るだけで、彩破騎士団がどれほどの困難にぶち当たっていたかがわかります。正直ここまで勝てたこと自体、相当な偉業であるかと思うほどに」

「僕も同意しますよ。それに、運などの要素も大きかったでしょう」


 ユティスはそう呟きながら、小さく息をつく。


「ネイレスファルトで隣にいるリザを含め、良い人材に出会えたことも大きいでしょう。また強大な敵に対し、適切な対処ができる条件などが整っていた……それらは先ほども言ったように運の要素もある」


 ユティスは語りながら、戦いを振り返る。正直、こうして国の代表となっていること自体が奇跡なのではと思えるほどの戦いだった。


「……実を言うと、私はまだ異能を用いた戦いを経験したことがありません」


 フレンはそう切り出す。ユティスはそこでふと思う。経験不足――それもまた、敵にとって有利な要素だ。


「私の異能は『全知』ではなく、敵に相対できる能力ではありますし、相応の訓練を受けてはいます。けれど実戦経験がない……おそらく国側は異能者が襲来すれば私を出陣させる可能性が高いでしょう。果たして勝てるのか……そういう気持ちを抱えています」


(参考にしたかったのか)


 ユティスは納得し、口を開く。


「事情はわかりました……元々フレンさんは戦闘経験はあるんですか?」

「一応騎士志望であったため、魔物などとの戦闘経験はありますが」

「まったく経験がない、というよりは大きいと思います。助言としては――異能は特別扱いされますが、それはあくまで戦闘の一要素に過ぎないということでしょうか」


 フレンは首を傾げる。そこでユティスはさらに告げる。


「異能は確かに驚異的な能力を持っているものですが、それが全てではないということです。実際に彩破騎士団には異能を持たない者も所属し、そうした人物が異能者を倒すという事例もあります」

「なるほど、異能に過信しないように、ということですか」

「結局はどれだけ鍛練を積んだのかによるのも大きいでしょうか。異能者との戦いは普通の戦いとは異なるものになるかもしれませんが、そこで勝敗を決定づけるのは異能の相性以外に、純粋な戦闘能力などもあるでしょう。異能者との戦いは大変なものになるでしょうし、大丈夫だと断言することはできませんが、鍛錬を積むことで自身が強くなれれば、勝機は十分に見いだせると思います」

「わかりました……剣を振っている間、これで良いのかと思う時もあったくらいなのですが、少し不安が払拭されました」


 ――それからいくらか会話をした後、フレンは去る。そこでリザは一言。


「とりあえずユティスさんを支持する人間が一人追加、かしら」

「そんな打算的に言わなくてもいいよ……大なり小なり異能者との戦いで不安に思っているんだろうな。激しい戦いがあった資料を見せられては、さすがに不安に思うよな」

「確かに敵対勢力が襲い掛かってきたら……そう思うと不安になるわよね」

「敵がいつ現われるかなどについては、正直運もあるよ……僕だって複数人の異能者が突然目の前に現われたら対処できないし」

「国側はフォローしてくれるのかしら」

「どうだろうな。現段階ではそこまで手が回っていない可能性もあるよ」


 とはいえ国側は態勢を整えようとしても、遅い可能性がある。この会議の席で決まったことを国に持ち帰り協議する――その時間でさえ惜しいような状況。


(ではどうすべきか……これはさすがに僕ができる範疇を超えているな)


 無力とまでは言わないが、間近に迫っているであろう敵勢力との戦いにどうしたって後手に回る状況なのは、焦燥感が募る。

 とはいえ、いくら嘆いてもユティスにできることは一つだった。


「とにかく、僕らは役割を全うしよう」

「そうね……さて、休憩が終わる前に飲み物でももらおうかしら。ユティスさんは?」

「僕はいいよ」


 会話をしながらユティスは席上へと向かう――まだまだ会議は続きそうだった。


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