それぞれの異能
「情勢の説明から始める前に、まずは異能に関する説明から始めさせていただきます。この場にいる面々にとっては既知の情報ではあると思いますが、念のため解説させてください」
そうオーテスはまず口を開く。異論などはなく、彼は続けることとなった。
「異能……魔力を利用した魔法とは異なる技術であり、その特性は多岐にわたり、また同時に驚異的な能力を備えています。この異能を保有する者は異能が発動中に『彩眼』を見せることが特徴の一つと言えます」
オーテスは一度――言葉通り『彩眼』となる。しかしそれ以上のことは何もせず、再び瞳の色を戻した。
「異能者の共通点は、皆何かしら前世を持っていること……とはいえここでその詳細を語ることはしません。前世がどんな存在であっても、この場ではあくまでこの世界で暮らしてきた功績などによって評価しますし、また関係ないことは踏まえておいてください」
そう告げて、彼は異能に関することについて説明を加えていく。
「異能についてですが、これには種類が存在します。その種類について様々な呼び名があるようですが、この会議からは統一したいと思っております。これについてはこの席にはいない、国の中枢に関わる方も了承済みです」
前置きをした後、オーテスはさらに続ける。
「まずは『全知』。これはとある知識……例えば花の名前、魔法についてなど、特定の知識について多大な情報を保有している異能です」
そこまで述べるとオーテスは一度周囲を見回し、
「ここまででご質問はありますか?」
誰も応じない。聞き及んでいる情報なので質問はあまり意味がない――けれど、オーテスを始めとしたゾディア王国側の人間が丁寧な応対をしていることは窺える。
「では続きまして『全能』。これは魔力を用いて何かに特化した異能です。例えば炎を操る、水を操るなど、自然現象について制御する異能に加え、魔力を破壊するといった物事なども該当します」
エドルの異能についてはこれに該当する。
「続きまして『創生』。これは魔力を用いて無から有を生み出すという異能……この場における方々は、ロゼルスト王国の騒動について聞き及んでいるかと思います。これは異能者同士の戦いだったわけですが、これは『創生』異能者同士の戦いでした」
そう語った瞬間、ユティスに視線を向ける者が幾人。さすがにあれだけの戦いである以上、他国も情報収集し、また異能者にも伝えてあるようだ。
「ただ単純に『創生』といっても、何もかも生成できるわけではありません。ロゼルスト王国では擬似的な人間を生み出す異能者と、物を創り出す異能者とが争いました。つまり、何を創れるかについては限定されているわけです」
そこまで語ると、オーテスは小さく息をついた。
「もしかすると、人が持てる異能というのは、その一つに特化したもので限界、ということかもしれません。この異能をなぜ転生者が抱えているのかについては様々な憶測が存在していますが、その中には神々からの贈り物などという説もあります。私としてはこの説は幾分幻想的かなと思いますが、もしそうなら人の器で抱えられる力には限界があり、神の力には及ぶべくもない……そんな風に感じます」
と、ここでオーテスは一つ咳払い。
「私的な内容でしたね、すみません。さて、次の異能です。四つ目は『同化』と呼ばれる異能。これは西部の方々は有名な話をお聞きでしょうか。あらゆる剣術を一度見ただけで体得する……この場合、他者に『同化』し、その技術を得るということから名付けられました」
レオのことだとユティスは内心思う。
「そしてもう一つ……『強化』の異能です。甚大な魔力を抱えているといった、能力ではなく身体的に恩恵を受けている場合です。この場合異能を使うという表現は少し異なる気もしますが……魔法を使用する際、『彩眼』が現れることが確認されていますので、異能者かどうかの判別はつきます」
そこまで語るとオーテスは微笑を浮かべ、
「現時点でわかっている異能の種類は全部で五つ……多種多様な異能が存在する以上、この五つに該当しないケースもあるでしょうけれど、ひとまずそれは例外ということで置いておくことにしましょう」
「――それぞれの特性については理解しています」
そこで次に口を開いたのは、先ほど質問したフレン。
「ただ、異能者には色々と問題もある……ですよね?」
「はい、情報共有的な意味でそれも説明しましょう。甚大な力を保有する異能ですが、弱点も存在します」
語ると、オーテスはやや重い表情で述べる。
「まず『全知』については膨大な知識を保有するためか、そちらに魔力を使われ戦闘能力が皆無に近い。異能者同士戦う可能性を考慮すれば、これは致命的にもなり得る弱点です。この中でそうした異能を保有する方は、最大限注意する必要があります」
この場にどれだけ該当の異能者がいるのかわからないが、空気が硬質になったのは事実。
「次に『全能』。これは異能発動中については他の能力を使用できなくなるという制約があります。『創生』は能力を活用する段階で特にペナルティは発生しませんが、どうやら体が不自由であったり、病気を抱えているなど身体的に不安要素があるようです」
ユティス自身も最近調子はいいが、その問題は拭い切れていない。異能が発端であったなら、治ることもないのだろう。
「『同化』については読み取る技術は確かに強力ですが、その技術は本来必要な過程を経て体得されるもの。それを無視する代償として、魔力を総動員する……『全能』のように魔法などが使えないわけではありませんが、魔力消費量が相当激しいとされています」
ユティスは横にいるリザを一瞥。彼女は特に反応もなく話を聞く。
「最後の『強化』については、過ぎたるものを所持するが故に、魔法などを使う場合反動で怪我などしてしまうなど、異能を使うことで何かしらリスクを背負う……自らの弱点は自ら把握しているかと思います。それを胸に、自分自身を守る術を見出してください」
異能に関する解説は終わる。そしてオーテスは一度間を置いて、続きを話し始めた。