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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第一話
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謀略の結末

(結局、ラシェン公爵は私達に味方をするだけだったの?)


 歩きながら、フレイラの心は疑問に満ちていた。

 その点は最後まで解明されることはなく、戦争は終わりを告げた。式典のタイミングは非常に気になったが、何一つ証拠が出ない以上、推測の域を出ることはなかった。


 廊下を進んでいると、ふいにすれ違う兵士から会釈される。今までそれは格式ばったものでしかなかったのだが、今は表情が少しばかり驚きに変わることがある。

 そんな態度を見てフレイラは小さく息を零しつつ、なおも歩を進め考える。


「……さて」


 フレイラが呟くと同時に、とある部屋の前に辿り着く。そしてノックを行い、 扉が開く。

 中から出てきたのは、ラシェン。


「おお、フレイラ君。どうした?」

「少し、お話が」


 よもや、直接彼に問い質そうというわけではない。

 そもそも情報を相手から引き出すような話術もないし、彼がうっかり口を滑らせるなどとも考えにくい。


「構わない。入ってくれ」

「いえ、ほんの少しばかりの質問ですから、ここで」


 と、フレイラは要求した後矢継ぎ早に問い掛けた。


「……戦争は終結し、都は式典前の平穏を少しずつ取り戻しています。しかし――」

「なぜ私が君達の後ろ盾になったのか、ということだね?」


 ラシェンが語る――そう、二人にとって大きな出来事としては、ラシェンが戦争後も二人の面倒を見ると申し出たことがある。


 そもそもユティスにもフレイラにも両親がおり、本来は彼らが色々と行動するべきなのだが、なぜか彼が横から割って入る形となっている。戦争の経緯などを考えれば行動するのもある程度納得のいくものではあるのだが、それでも違和感を拭うことはできない。


「正直言えば、私も戦争からの流れで提案し受理されただけで、特段大きな意味はないさ……ただ異能者の戦いについて多少なりとも注視するべきだという見解はある。そうしたことに対しては私が一番対応が早いというのが陛下のご判断。そういう理由から、君達の近くにいた方がよいという結論に至った」

「私達が今後そうした戦いに関わることになると、ラシェン公爵もご認識されているのですか?」

「どういう形であれ……ユティス君が『彩眼』を持つことが公になった以上、何かしら関わることになるとは思う」


 フレイラは内心同意する。確かにあれだけの力を示したのだから、引き寄せられる可能性もある――


「この件は、非常に難しい問題だ。『彩眼』に対する部隊を編成するにしても……相手が相手であるため誰を組み入れるかで判断も難しく、なおかつ現状で騎士を集めたとしても何かと兼務という形になる可能性が高い。それ故、どうしても対応が遅れてしまう」


 そこまで告げると、ラシェンは肩をすくめる。


「私や陛下の見解としては、『彩眼』に対し専任者が必要だと断じた。そこで白羽の矢が君達に立ったわけだが……二人だけでは、動くこともままならないだろう」

「だからラシェン公爵が? しかしあなただって領地が――」

「私の方は大丈夫だ。そもそも領は都から隣接しているしな」


 豪快に笑うラシェン。それは決して大丈夫じゃないとフレイラは心の中で思ったりもするが、


「……どうあっても、私達に味方をすると?」

「ああ。それに――」


 と、彼は意味深な笑みを浮かべる。


「領内の側近に言われているのだよ。陛下から何かしら恩賞を与えられてから帰ってこいと」

「……それは」

 つまり『彩眼』の事件に関わり、さらなる栄達を手に入れたいということなのか。


 限りなくリスクのある勝負だとは思うのだが――そもそも、本当に『彩眼』を持つ存在が現れる保証もない。

 いや、もしかすると彼には何か根拠があるのか――式典の件を考えれば、そういう可能性も少なからず存在するのではないか。


「フレイラ君」


 ふいに、名が呼ばれた。フレイラはすぐさま目を合わせ、


「おそらく、色々と思う所はあるだろう。ただ一つ、これだけは信じて欲しい」


 フレイラが疑っているということ前提で話を進める彼。


「少なくとも……君やユティス君へ危害を加える真似はしない。絶対に」


 その目は――明確な意志をフレイラも感じ取ったが、果たしてどこまで本当なのか。

 とはいえ――これから始まる政争に対し、彼のような人物は必要不可欠となる。


「……はい」


 打算ありきではあったが、フレイラは頷く。この程度ラシェンは気付いているだろうが、彼は屈託のない笑みでその返事に応じた。

 そこで、フレイラは改めて思う――戦争は終結し、ユティスやフレイラは戦争前とは違う立場となった。元に戻ることはできないし、この状況下でこれから来るであろう難局を乗り越えなければならない。


 せめて――ユティスだけでも守ると胸中思ったが、それを行うにしても何もかも足りない。だからこそ、


「よろしくお願いします」


 フレイラは(こうべ)を垂れ――同時に思う。誰の助けも借りず、自分達の足で立てるだけの様々な力がいる、と。



 * * *



 その日の夜、ラシェンは自室でワインを飲みながら椅子に腰掛け読書に励む。

 気付けば使用しているこの客室もずいぶんと馴染んでしまった。式典前から都で活動し始め、ここ数カ月は領地に行くことすらもしなかった。


「とはいえ、その状況は今後も変わらんか」


 今後も『彩眼』と関わることになった。加え王がラシェンに意見を求めるのは必定であり、今後ここで色々と策謀を巡らせることとなるだろう。

 そしてラシェンはフレイラの姿を思い出す。疑っているのはもっともであり、だからこそ信用を得るべく尽力する気なのだが、


「――ふ」


 小さく笑う。


 国を滅ぼそうと行動した自分が、今更どう信用を得るというのか。


 ――結局の所、刺客を手引きしたのはラシェンだった。ある『存在』と関わり、その目的を知り色々と協力を約束。それと同時に『存在』と関わりのある『彩眼』を持つ者が、ロゼルストに攻撃を仕掛けようとしているという情報を聞き――ラシェンは『存在』の目的に従い協力。自身が持ち得る暗部を利用して様々な工作を開始。式典に合わせ襲撃を行わせた。


 キュラウス家に調査を命じたのも、ラシェン自身――というより、調べようと動き出したのを察知し、調査をおざなりにするよう工作しようとした。けれど当主の次女であるフレイラが動いたためご破算。そのため、ラシェンは報告を中央へ上がらないよう裏で握りつぶしつつ、彼女が都へ来たら対応する腹積もりで待ち構えていた。


 さすがに彼女も単独で行動するようなことはしないだろう。誰かに頼った時点でそれを利用して――と考えていたが、問題が発生。なぜか彼女はファーディル家の三男を連れこの都へ来る情報が舞い込んだ。


 まさか彼を利用して――ラシェンはその行動に対し興味を抱き、彼女が都を訪れるタイミングに合わせ偶然を装い、接触。そして城の人間には頼らず、自ら護衛することを選択したのだとはっきり理解し――つくづく予定外だったが、ならばそれを逆手に取ることを選択する。


 彼女が王に近づくタイミングを、王の周辺にはユティスとフレイラしかいない状況下で行わせることにした。会場内で上手く騎士達を王から遠ざけ、なおかつ貴族達を遠巻きにさせることに成功。



 その状況下で、襲撃が行われた。



 確実に成功するはずだった。けれど、ユティス達はそれを跳ね除けた――まさかユティスが『彩眼』の使い手だとは思いもよらず、結局襲撃は失敗した。


 そこでラシェンはこれが『彩眼』同士の戦いだと理解。次いで『存在』が語っていた目的を考慮し――ロゼルスト側の勝利で終わっても問題なく立ち回れるよう行動を開始。ロランへ『彩眼』を確かめにいくよう指示した他、自身の言動が怪しまれないよう工作も行った。


 そして――軍議の際フレイラが策を提示し、そこに至り彼女に聖剣を握らせるよう同調。彼女が聖剣を握るよう流れを作った。

 ユティスの聖剣を生み出す成功率を上げるには、彼女と共に行動させる方が良いだろうという理由もあったが――何より騎士団の誰かに聖剣を握らせるより、戦いの後与し易いと思ったのが同調した一番の理由だった。


 結果ガーリュは敗れ、ラシェンはユティスという勝ち馬に上手く乗ることとなり、今も自身が裏切者であったなどという事実を知られることなくこの部屋にいる。


 ガーリュ達ウィンギス王国との交信はとある『存在』を仲介して行われていたため、彼らを調べて判明するという可能性はないと言ってよく、事件の真相は闇に葬られることとなった。


 フレイラはなおも疑っているようだが、明確な証拠が存在しない以上言及はしないだろう――それは、今後接する間に対処すればいい。


「しかし……ユティス君は驚いていたな」


 ただ、疑問はある。単なる『彩眼』を持つ者同士の戦いだとラシェン自身は思っていたのだが、少なからず因縁があった様子。ユティス自身その詳細について語ろうとしないため何もわからないのだが、一つ言えることがある。


 ラシェンがコンタクトをとっている『存在』は、こんな真似をする目的はしっかりと語っていた。その理由を理解しラシェンは今回の計画に加担した――目的を話した以上、相手もある程度腹を割っているものだと思っていた。


 だが、因縁については話さなかった――つまり、間違いなく何かを隠している。


「どういう理由がある……?」


 呟いてみるが、答えは当然出ない。そのためラシェンは思考を切り替え、今後どう立ち回るかを改めて考える。


 ユティスやフレイラと積極的に関わることになる――ラシェンとしてはユティスの異能も興味を抱いたが、それ以上にフレイラ――彼女の猪突猛進なまでの行動を、大変気に入っていた。

 戦争後、色々と肩入れすると表明したのもそれが主な理由だった。十万の大軍を生み出す異能者より、偶然とはいえラシェンの目論見を食い破り続けたフレイラに引き寄せられた形となる。


 以後も、その方針は変わらない――加え、ユティス達には城の者と権力的に関わり合いのない独立した組織に所属してもらいたかった。現在、追い風となる形で貴族達が妨害工作を行っている。これにより、おそらくラシェンの望む形になる可能性が高い。


 今後組織を形成していく上で人手はいるだろうが、それはできれば城の中にいる者にはやらせたくない。そうした者に介入されると、面倒なことになりかねないからだ。

 なにより――その方が、自分も動きやすい。


「……陛下に進言し、念を押しておこう」


 ラシェンは呟き、続いて疑いを持つフレイラに対しどう応じるかを考えようとした。

 その時、ノックの音が部屋に舞いこむ。ラシェンが応じると扉が開き、


「失礼いたします」


 女性の声。首を向けると、薄紫の髪を持つ侍女が一人。ラシェンの部下だ。


「ああ、どうした?」

「お手紙が」


 言いつつ侍女は手紙を差し出す。真っ白な封筒に包まれたそれは、宛名すら書いていないもの。

 ラシェンは手紙を受け取り裏返す。手紙が封されている側の右下――そこに、黒いひし形の紋様が一つ、刻まれていた。

 真っ白な封筒に間違えてインクでも零してしまったようにも見える――しかし、ラシェンはそれで差出人が誰なのか明確に理解する。


「……戦いが終わったことによって、何か指示でもあるのか?」


 侍女が部屋を退出した後、ラシェンは呟く。それはまさしく、ガーリュと交信を行うために仲介した『存在』からの手紙。

 封を切るとラシェンは中身を取り出し読み始める。便箋もまた真っ白。そこに流れるような文字が何行も記載されており、


「……そうか」


 ラシェンは一読すると、口の端を大きく歪めた。


「ならば、私も上手く立ち回ることにしよう」


 呟くと手紙を置き、ワインを口にする。


 そしてラシェンは想像する。『彩眼』を持つ者達による新たな戦いを――


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