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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第一話
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魔法と異能

 転生前の世界と異なり、この世界には『魔力』が存在する。訓練すれば誰でも知覚できるようになり、さらに訓練を重ねれば魔力を練り上げ『魔法』として活用することができるようになる。


 けれど魔力があることによる弊害もあり、魔物という存在はその中の一つであった。大気に満ちる魔力が時折わだかまり、形を成して疑似的な生物へと変化する――そしてそれは時折人間を襲うため、駆除しなければならない。


 けれど、魔物と戦うためには『魔法』か魔力が込められた『魔具』を使う必要がある。ユティスのいるアングレシア領内にもそうした使い手はいるし、他の兄弟だって使えるのだが、今日は家族達は式典に出払い、能力者も午前中遠方に出ているため、使い手がユティス一人という状況だった。


「最近魔物が出現しなかったから、甘く見ていたのかな」


 一人森への道を歩みながらユティスは呟く。屋敷の門から見て南に街、東に街道。そして西側に田畑へと繋がるいくつもの農道があり、現在ユティスは農道を歩んでいる。ちなみに着替えを行っており、黒のローブ姿だ。


 時折畑を耕している面々に挨拶をされる。ユティスは逐一それに応えつつ、また逆に心配されるような有様だったのだが、それにもにこやかに答え、やがて森に入った。


 その時になって、ユティスは小さく息をつく。


「……今日は調子いいが、さっさと片付けるか」


 穏やかな口調が一変し、硬くなる――転生前の口調だった。記憶が蘇り幾度となく過去のことを思い返すようになって、一人になると時折口調が戻る。特にこうして森の中に一人でいる時など、なおさらだ。


 そこでふと――なぜ自分がこんな世界にやって来たのか自問する。ユティス自身なぜあんな末路を迎えこの世界にやって来たのか大いに謎だった。いや、実はこれが普通で死んだら異世界に転生するということなのだろうか――


「……考えても、結論出ないのはわかってんだけどな」


 ユティスは半ばあきらめたように呟くと、気を取り直し魔物を探し始める。

 理想としては、遠目でどのような見た目なのかをちゃんと確認し、交戦したかった。ユティス自身あまり無理できないので、接近して攻撃を回避するなど動き回るような真似はしたくない。


「……今日は、試すのやめるか?」


 そんな風にユティスは呟く――食事の折、試したいことが頭に浮かんだ。魔物が現れたことでそれを実行しようかと考えていたが、魔物を捕捉できないとなると不確定要素が高いため、無難に戦った方が良い気もする。


 頭の中で色々と思考した時――ユティスの視界に狼の姿が入った。注視すると、灰色の毛並みを持ち、狼にしては一回り大きい体格。


「あれだな」


 呟きつつユティスは気配を殺し、ゆっくりと進み始める。さすがに茂みをかき分ける音を完全に殺しきることはできなかったのでいずれ気付かれるが、距離がまだあるため対応することはできる。


 とはいえ見えるのは一体だけ――ここで、ユティスは二者択一に迫られる。通常の魔法を使うか、それとも考えていたことを実行するか。


 魔法を発動させるにはいくつか手段があるのだが、ユティスが使えるものは詠唱を行い体の中に眠る魔力を高め、魔法を発動させるやり方。これは『詠唱式』と呼ばれるものだが、魔力を高める時間が必要となるため、接近されれば使用は難しい。

 そのため、仕掛けるなら距離のある今。そこでまずユティスは、口の中で詠唱を始めた。


 ――『詠唱式』の魔法を放つ手順の内一番最初にやることは、体の内に眠る魔力を引き出し、魔法が使用できる状態に移行させること。これは訓練により身に着けるもので、ユティスにとっても慣れたもの。


 続いて口の中で言葉を唱え、引き出した魔力を外へ出す準備をする。これはどのような魔法を使うのか体に意識させ働きかける効果がある。そして詠唱を終えた後、最後に掛け声のような声を放つことで使用できる。


 詠唱の内容によってどのような魔法を使うかは決まるため、最後の掛け声は何でもいい。とはいえ魔法のイメージに沿った掛け声である方が威力も高くなり、さらに強大な魔法を発動する場合は、最後の声もそれ相応にしなければならないのだが――


「光よ!」


 ユティスが今回発動したのは、一本の光の剣。それがまっすぐ放出され、

 魔物は避けることができず、脳天に剣を受けた。瞬間、塵となって消え去る。


「よし」


 ユティスが呟くと同時に――続いて、消えた場所に新たな魔物が視界に入る。見た目は似たり寄ったりだが、先ほどの魔物と比べやや大きい。

 どうするか――考える間に、魔物の首が動く。そしてふいにユティスの方角へ目を向けると――濁った真紅の瞳と視線が重なった。


「来るか……!」


 ユティスが覚悟を決めた瞬間、魔物は体を向け、威嚇するように唸り始める。それに対し、ユティスは体に力を入れた。

 魔法でも良かったが――今度は口から詠唱の言葉は漏れなかった。代わりに生じたのは、右の手のひらに光。


 刹那、魔物が動く。茂みを突破し森を突っ切り真っ直ぐユティスへと走る。

 その間に手の魔力が大きくなっていく。ユティスはそれを胸の前に持ってくると、両手を合わせ包み込むように光を包み、


 素早く両手を離した。すると光が伸び、やがて形を成して、


 青い刀身の、長剣を生み出した。


「まずまずかな」


 呟きつつ、ユティスは剣を構える。病弱な体とはいえ、剣の手ほどきは最低限受けている。目の前の魔物に後れを取るようなことはない。


 そればかりか、接近させないようにできる――ユティスは勢いよく剣を振った。それにより刀身から風の刃が生じ、突撃する狼の真正面から突き刺さった。


 途端、魔物が吹き飛ぶ。さらに近くにあった木々に衝突すると――その体が力を失くして倒れ、塵となり――消えた。


「ふむ……」


 一連の光景を確認したユティスは、改めて握る剣を眺める。


「やっぱり物語みたいにはいかないか……悪魔を薙ぎ払える威力の剣なんて作る気もないけど、入れる魔力が小さかったかな」


 ――それは、朝食の時読んでいた本に出てくる剣をイメージして作られた物。挿絵の形通りの剣。


 ユティスは小さく息をつくと、その剣に力を込めた。すると剣全体が光に包まれ、あっさりと消える。

 これこそ、ユティスが保有している能力。一般的に言われる魔法とは異なる、想像した物質を自由に創造する『異能』だった。


 ユティスはこの能力が使えると知った時は、数年前。今のように森を散策している時偶然発見し、どういった特性の魔法かを、調べ始めた。


 結果、この能力は通常の魔法では生み出せない『異能』に区分されるものだと知った。そしてユティスは考えた末、誰にもこのことを話していない。

 使用する時もこうした人目の無い場所のみ。たまに実験する程度の頻度であり、こうした魔物退治で利用することも少ないくらいだった。


「さて、帰るか」


 ユティスは呟きつつ屋敷へ戻るべく足を来た道へ向ける。とりあえず体に負担はかかっていない。それが何より幸いだと思いつつ――屋敷へと戻ることにした。


「……ん?」


 しかし、一歩足を動かした時、立ち止まる。ユティスから見て右方向。そこに人の気配が。


「……誰?」


 ユティスは戦闘中に気付かなかった迂闊さを呪いながら、小さな声で問い掛けた。街に住む領民なら、魔法の知識もないはずなので誤魔化すことができるかもしれない――しかし次の瞬間現れたのは、


 鎧姿の女性だった。


「あ……」


 ユティスは目が合って呻く。そしてどう誤魔化そうかと思いながら頭の中で口上を必死に考え始めた。


 対する女性は無言でユティスと視線を重ねる――格好は青を基調とした鎧姿なのだが、金縁の装飾が施されている上にその鎧の至る所に複雑な造形が施されている。それは肩当てや腰に差す剣の鞘にまで及び、高い品物なのだというのがユティスの目にも一発でわかった。


 兜の類は身に着けておらず、腰まで届く鮮やかな栗色の髪と吸い込まれるような黒く澄んだ瞳が、ユティスを射抜いている。顔立ちとしては太陽の下で映えるであろう綺麗な白い肌に、白であるからこそ際立つ桜色の唇。騎士衣装でありながら良家のご息女に見えなくもないその女性は、ユティスの能力を見たせいなのか、僅かながら戸惑った顔を見せている。


 沈黙は、およそ十秒ほど続いた。ユティスにとっては恐ろしいくらい長い時間だと感じられた先に、女性が口を少しずつ開き、


「……今の」


 心地よく可憐な声だと思ったユティスは――訊かれる前に、全力で踵を返し走った。


「え、ちょ――」

「すいません! さっきのは見なかったことにしてください――!」


 捨て台詞のように言い残し、ユティスは森の中を走る。追ってくるかもしれないという可能性を危惧したのだが、幸い相手は呆然と立ち尽くしているのか足音は聞こえなかった。


 ――この時点でなぜ騎士があの場所にいたのかや、性急に走って体が大丈夫かなど、色々と考える点はあった。だがユティス自身その全てを考える余裕なく、ひたすら森を抜けるべく走り続けた。


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