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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十話
299/411

試合と騎士

 ユティス達がラシェンと打ち合わせをしている間、フレイラとティアナは町中を見て回ることにした。といっても観光ではなく、町の構造などを頭に入れておくための行動だ。


「ユティス様の体調が気掛かりですね」


 ふいにティアナが口を開く。フレイラも当然それは懸念しているが、


「記憶が戻って精霊式を始めとした魔法を取り戻してからは比較的安定しているけど……」

「少なからず会議の席は緊張が伴いますからね」


 とはいえ、自分達は何もできない――そういう歯がゆさをティアナは感じているらしい。


「……もしもの場合、リザがフォローを入れるでしょう」

「そうかもしれませんが……」

「あれ、もしかしてまだ信用できない?」

「そういうわけではありませんよ」


 苦笑するティアナ。否定してはいるが、出会いが出会いだったので引っ掛かるものを感じているのかもしれない。

 そんな会話を行いながらフレイラ達は大通りを歩む――と、真正面から馬車が数台、道の中央を進んでいる光景が目に入った。


「他国の人かしらね」

「かもしれません」


 フレイラ達は道の端へ近寄り、馬車を見送る。天幕によって中は見えなかったが、物々しい雰囲気に包まれているのはわかる。


「この町に異能者が入る度に、空気が重くなっていくようね……騒動がなければいいけど」


 フレイラがそんな感想を漏らした時、どこからか喚声が聞こえてきた。

 それはどこかはやし立てるような声。賭け試合でもしているのかと思った時、


「あちらですね」


 ティアナは場所がわかったのか指を差した。それは大通りではなく路地。


「見に行ってみますか?」

「うーん、首を突っ込むのは……」


 と、最初は迷ったのだが、路地の隙間から一瞬、騎士の姿が見えた。


「……あれ」

「見間違いではありませんよ」 


 ティアナが述べる。彼女も察した様子。


「騎士の方ですね。この国の装備ではなかったですし、何かあったのでしょうか」

「……だからといって首を突っ込むのはどうなんだろう」


 ただ興味はある。女二人が路地に進入して大丈夫なのかという疑問もつきまとうが――ちなみにこの場合、フレイラ達の身が危ないのでなく、変に騒動を起こしたらユティスの迷惑にならないか、という意味合いだ。


「首を突っ込むというわけではなく、覗いてみるということでいかがですか?」


 さらにティアナが提案する。


「ほら、もし他国の騎士がトラブルに巻き込まれていたとしたら、恩を売ることもできますし」

「ずいぶんと打算的ね……」

「政争というものはそういうものでしょう?」


 にこやかに――ティアナ自身政争に巻き込まれたことがあるため、何かしら思うところがあるらしい。


 いや、これはユティスのためということか。国内の政争でも色々と面倒なことがあった。他国との政争となればさらに輪を掛けて大変だろう。なおかつ今回の異能者達の会合は、政治経験などもほとんどない面々の集まりであり、背後の政治力がものを言う。


 下手に首を突っ込めばユティスに迷惑がかかるというリスクもある。しかし、もし何かしら他国に恩を売るといったことができれば――


「……私もティアナの考えみたいに染まっているのかな」

「決まりですね。行きましょう」


 ティアナが先導する形で路地の中へ入って行く。少しすると大通りの喧噪が耳に入らなくなり、代わりに路地の奥からの喚声が聞こえ始めた。

 それはどうやら、フレイラが最初に予想した駆け試合のようだった。町の人々が二人の人物を囲み胴元らしき人物へ金を渡している。そして対戦する二人だが、


「……ねえ、これ大丈夫なの?」


 フレイラは思わず呟いた。理由は明白――賭け試合にどう見ても他国の騎士が参加しているからだ。


「わかりません……というか、あの方はなぜこういう試合に参加したのでしょうか」


 ティアナが疑問を呈するがフレイラは答えられない。そうこうする内に胴元が手をパンと叩いた。閉め切ったらしい。

 フレイラはそこで対戦する二人を確認。片方は剣を右手にぶら下げた傭兵。革鎧姿で風格についてはなかなかのもの。手練れであるのは間違いなさそう。


 もう一方の騎士も得物は剣。そして鎧は薄い青色で、


「……あれ、ナジェン王国の装備ですよね」


 ティアナが言う。フレイラは頷いた。

 ナジェン王国は、フレイラ達のロゼルスト王国北西に存在する国家。国境が接しているあるわけではないのだが、ロゼルスト王国を中心にして大陸東部はそれなりに交流があるため、装備についてはフレイラも憶えがあった。


「もしこんなことをしているのがバレたら、雷が落ちるどころではないような気もするんだけど」

「私もそう思います」


 フレイラの言及にティアナが応じた瞬間、試合開始の号令が成される。最初に動いたのは傭兵。

 一気に間合いを詰め――その動きはかなり機敏で、奇襲だったらフレイラも反応できないかもしれない、などと思ったほど。


 けれど騎士はあっさりと弾いた。真正面から受け止めると剣を滑らせ受け流す。すかさず反撃で差し込んだ刺突を、傭兵は身をひねってかわした。

 そこから攻防が始まる。傭兵が放った剣を騎士は幾度も受けて対応。相手も相当な力を込めて一閃しているはずだが、騎士はそれをものともせず全てをまずは受ける。


 何かそういう縛りでも入れているのだろうか――そんなことを思った矢先、騎士が反撃に転じる。しかし傭兵もそれを受けた。しかし、威力が思いの他大きかったのか、傭兵の体が後退する。

 そこへ追撃する騎士。好機だと言わんばかりに猛攻を仕掛け、傭兵もここに至り反撃する隙はなく、完全に防戦一方。


 決着は一気につくだろう――そうフレイラが予想した瞬間、傭兵の剣が騎士の一撃によって弾き飛ばされた。そして涼しい顔で傭兵の首筋に剣を突きつける騎士。

 これには傭兵も降参らしく両手を挙げた。そして騎士が勝利する旨が胴元からなされ、周囲を囲う者達が悲喜こもごもの声を上げた。


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