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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第十話
298/411

打ち合わせ

 ――イドラ達との戦いが終わり、季節が巡った。少なくともこうした会議の席を整えるのに、いくつかの季節が過ぎ去るくらいの時間を要したということだ。


 その間、ユティス達はヨルクの指導の下、鍛錬に終始した。また銀霊騎士団は異能者との戦いに備えて城側の防備を整え、彩破騎士団は異能者と向かい合っても勝てるようにとひたすら腕を磨く日々。正直言ってユティスは死ぬほどきつかったが――それを思い出すと憂鬱になるので、過ぎ去った過去として頭の奥にしまっておくことにしている。


 この間に一番動き回っていたのは間違いなくラシェン――その目的は異能者同士の会合を実現させるため。

 その経過についてはラシェン本人から聞いていたが、どのように今回の会議が実現したのかはユティスも詳しく聞いていない――が、少なくとも言えることが一つ。


 国同士は当然ながら利害が衝突し、ユティス達が暮らすロゼルスト王国でも敵対する国は存在する。他国ではそれこそ地域紛争というレベルの事件だって起こっている。

 だが、それでも今回集まった。その理由は紛れもなく、ラシェンがいずれ起こる戦いのことを話したからだ。


 異能者同士の戦いの先に待っているのは、世界の危機――それが何であるのかラシェンも詳しくは語っていないだろう。けれど国々はそうした事態を憂慮し、今回話し合いに参加することにした。


「正直、物別れに終わる可能性の方が高いよな」


 ユティスはそんな風に呟く――場所は宿の一室。護衛のアシラと相部屋で、その声に対しアシラは頷き、


「政治のこととか詳しくわかりませんが……魑魅魍魎が存在していることだけはわかります」

「領土争いとかにまで踏み込まれたら僕らでは対処しきれないんだけど……ラシェン公爵がどのくらい根回しして話をしたかによるな」


 一応、今回の会合は建前上異能者同士の話、ということになっている。よって政治的な話題が出る可能性は低い――と思いたいのだが、何かしら国から要請されているパターンも考えられる。


「問題は協力することと引き換えに何か要求してきた場合だな。僕らは国からそういうことについて権限を与えられているわけでもないし……ラシェン公爵も来ているから、そちらでどうすべきか話をしたいな――」


 と、ここでノックの音。返事をすると扉が開き、ラシェンが姿を現した。


「ユティス君、ご苦労」

「ラシェン公爵も……現在他国の方々は?」

「明日に到着する面々もいるため、今日のところはまず休んでもらえればいい」

「わかりました。えっと……」

「会議の席上でどうすべきかについては、今から話そう……と、その前にリザ君を呼ばなくては」


 そこからアシラが呼びに行き、ラシェンと顔を突き合わせて話をすることに。ただアシラもラシェンに言われ退席し、部屋にいるのはユティスとリザ、ラシェンだけ。


「まず、私としては異能者同士、敵対する存在に集中して欲しいという思いがある……よって今回の会議において生じる利害などについては、高官を始めこちら側で処理することになる」


 ユティスが懸念していた部分については、公爵が受け持つらしい。


「よって、議題としては迫る脅威に備えること……とはいえ、異能者も保護を受けて政治的な関わりがある状態になっているはず。よって、そうしたことが話題に上がった場合もあるだろう。その際は別に協議をしているということで押し通せばいい」

「それで納得するでしょうか?」

「中には不満を告げる者もいるだろうが……まあ相手側が無理矢理押し通すといったことにはならないだろう。それでは議論も進まないし、交渉決裂して孤立化するのも避けたいだろうからな」


 ――ここは正直出たとこ勝負だと、ユティスは思う。とはいえこの中立地帯で会合を開く以上、多少なりとも要求を言い出しにくい状況になっているのは確か。


「主な議題は、異能者達を狙う勢力がいること……クルズの報告によれば残るは二つ。その片方はたった一人で動いている上に捕捉もそれほど難しくないため、実質注意を向けるべき存在はもう片方の勢力になるだろう」

「二つの勢力について、それぞれ話し合えばいいですか?」

「そうだな……単独行動している方は実害も生じているため、話は難しくないだろうな」


 ユティスはその被害がどれほどか確認していないが、ラシェンの表情はどこか深刻であり、現時点でかなり暴れ回っているのかもしれない。


「あとは、異能者同士が連携できるようきちんと話をしておくこと……それぞれ保護されている国々によって、所持している権限などに差異はあるだろう。例えばユティス君を始めとした彩破騎士団は異能者を相手にする場合、かなり自由に動けるよう手はずを整えたわけだが、全員が全員そういう立場にはないだろう」

「そうですね……一番の問題はその溝が埋まるかどうか」

「ここは異能者同士との話し合いだけでは解決し得ないため、私達が奮起せねばならないだろうな……各国の力関係や利害なども関与しているが、少なくとも異能者同士が手を組めるような状況にはしたいところだ」


 ラシェンとしても、ここは自分の意思でどうにかなる範囲を超えているため、苦慮しているようにも見える。ただ呼び掛けた言わば主催者の立場であるためか、必ず成功させるという烈気も存在し、ユティスは何も言わず公爵に任せることにした。


「話し合いはこれくらいだろうか……異能者ということで今回会合に出席するのはユティス君とリザ君、そしてエドル君の三人わけだが……話し合いはおそらくユティス君が率先してやることになるだろう」

「そこは当然でしょうね。私が出しゃばっても話がこじれそうだし」


 リザが肩をすくめる――それと同時に、ユティスの肩に力が入る。

 当然ながら、ロゼルスト王国の代表は自分――それを改めて自覚し、緊張が走る。


「プレッシャーを感じているのはもっともだ」


 そこでラシェンが口を開く。


「だがここは踏ん張らなければならないところでもある……ユティス君、頼むぞ」

「……はい」


 ユティスは緊張を伴いながらも返事をする。それが力強いもので、ラシェンも信頼したのか静かに頷いて見せた。


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